ダーウィンの世界

ダーウィンの世界 ダーウィン生誕200年 ―その歴史的・現代的意義― (学術会議叢書(17))

ダーウィンの世界 ダーウィン生誕200年 ―その歴史的・現代的意義― (学術会議叢書(17))



本書は当日の講演者が基本的には講演を元に原稿を起こしているようだが,当日は時間の関係ではしょらざるを得なかったところも充実させたり,活字にするのはやや憚られるところを穏当にしたりそれなりに手が入っている.また新たな内容を書き加えているものもある.全体の構成ももう一度検討されたようで,順序も一部当日とは入れ替えてある.


第1部はダーウィンの生涯と業績
冒頭には渡辺政隆ダーウィンの生涯を簡単に紹介する記述を追加してくれている.これは一般の読者には丁寧な作りだろう.矢島道子,小川眞理子の寄稿はほぼ講演時の内容だが,小川はより丁寧に分かりやすく直しているようだ.松永俊男は当日時間切れになった部分を含めダーウィンにまつわる誤解(全世界版,日本版)を追加してまとめてくれている.


第2部はダーウィンの影響
富山太佳夫は題を「顔,顔・・・・顔」に改めて新たな書き下ろしのような内容.話題を「人間と動物における感情の表現」に絞り,その当時の受け止め方について,ダーウィンがそれまでの哲学や文学の集積を無視しているという見方とそれに対するダーウィンのスタンスを論じている.横山輝雄,溝口元の寄稿はおおむね講演に沿った内容だ.


第3部はダーウィンの現代的意義
長谷川眞理子の寄稿も講演内容にかなり書き加えている.遺伝子の正体がわからない中で表現型の観察から正しい理論を導いたことに加え,比較手法の導入,人類進化の考察を指摘し,人類進化における業績についてはその後の脳科学,人間行動生態学進化心理学などの新しい学問領域につながったとコメントしている.山田格の寄稿もほとんど書き下ろしの内容.比較解剖学から見た進化という内容で,哺乳類の胎盤の確立にいたる道筋などが扱われている.最後の寄稿は佐倉統によるもので,当日の公開討論の内容ではなくやはり書き下ろし.日本ではダーウィンの人気は高いが,進化の理解は怪しいこと,欧米における新無神論の動きなどに触れている.


全体としてはダーウィンの周辺の話題に関する様々な寄稿を集めた本に仕上がっている.当日の講演会はなかなか面白かったのでこのような記念碑的な出版がなされて大変嬉しく思う.