Inside Jokes: Using Humor to Reverse-Engineer the Mind (The MIT Press)
- 作者: Matthew M. Hurley,Daniel C. Dennett,Reginald B. Adams Jr.
- 出版社/メーカー: The MIT Press
- 発売日: 2011/03/04
- メディア: ハードカバー
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第4章 ユーモア理論についての短い歴史
第4章はこれまでにユーモアを説明しようとしてきた理論を概観しておこうというものだ.「これまでの理論は究極因について考察がなく,一面だけを切り取っているものが多かった」といいつつ順番に解説されている.
A 生物学的理論
どのような理論を指して生物学的と言っているのだろうと思うが,ここでまず紹介されているのは「笑いもユーモアも生得的だ」というだけの理論だ.
確かに赤ちゃんは笑うし,笑いもユーモアもヒューマンユニバーサルなので,この主張は正しいのだろう.しかしこれだけでは説明になっていない.ハーレーたちはここでお粗末な究極因的説明も合わせて扱っているようだ,
お粗末な究極因的説明
- 笑うことは身体にいい
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これだけでは説明になっていない.何故ユーモアをパスして単に身体にいいことができないかが説明できなければならない
- 鬱からの脱出
- 適応的なシグナルの痕跡:安全を示す信号,言語以前の結束を示す信号など
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これらの議論は究極因へ向けてのいい方向になっている.しかし真に適応だというなら進化環境でどのように有利だったのかが重要で,それにはこのメカニズムを理解しなければならない.何らかのコミュニケーションという議論には耳を傾けるべき部分があるが,ユーモアと笑いは別だということにも注意する必要がある.
B 遊び説
- ダーウィンはユーモアについて「心へのくすぐり」だと説明した.ヘッカーがくすぐりとユーモアの類似性を論じて以来これは,ダーウィン・ヘッカー仮説と呼ばれる.この考え方は遊び自体がユーモアだと言っているわけではなく,遊びがユーモアの起源だという考え方だ.
- ジャーバイズとウィルソンは,真剣ではない社会的な不調和から開放されて安全の保証が得られるときに笑いを生むと説明した.
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確かにくすぐりで発声したり,くすぐり合う動物もいて,笑いとくすぐり遊びには深い関係があるように思える.しかしこれは究極因としては説明になっていない.
笑い声はむしろ捕食者の注意を集めるかもしれない.あるいは別の目的からの転用かもしれない
C 優越説
これはホッブスにさかのぼる.自分が誰かより優れていることに気づく瞬間の突然の優越感がユーモアの本質だと説明した.
これは実に多くのジョークやユーモアを説明できる.
確かに私達は「誰かを」笑うことが多い.そして「いや君をわらっったわけじゃない」と弁明したりする.酔っ払いやお間抜けな人を笑う.これはエリートグループへの所属を表すことがある.
参照ジョーク
- テキサス人「Where are you from?」 ハーバード卒業生「質問文の最後に前置詞をおいたりしないところからさ」テキサス人「OK, Where are you from, jackass?」
- 4人の外科医がコーヒーを飲みながらどんな患者が手術をしやすいかについて話している.「会計士がやりやすいよ.あいつらの内蔵にはナンバーが打ってるんだ」「いや僕は図書館司書だな.内蔵がアルファベット順になってるんだから」「いやいや僕は電気技師の方が好きだな.内蔵が色分けされてるからな」「いやいやなんといっても弁護士さ.あいつらときたら心臓も脊椎もないし*1,頭と尻を入れ替えても大丈夫なんだから」
ハーレーたちはしかし優越説では全てのジョークを説明できないという問題をまず取り上げる.
説明できないジョークの例
- Two goldfish were in their tank. One turns to the other and says, "You man the guns, I'll drive."*3
さらに,ハーレーたちはそもそも何故そうなっているかの究極因について説明できていないとコメントしている.
これは,優越感を感じて笑うことにどんなメリットがあるか(エネルギーも無駄だし,感情的に反発を喰うリスクがある)が説明できなければならないということだ.
ハーレーたちはさらに,それでもこの理論は強力で,確かに私達は優越感を感じたときに笑うのだといっている.真の理論はこの現象も説明できなければならないという趣旨だろう.