- 作者: サミュエル・ボウルズ,ハーバート・ギンタス,竹澤正哲,高橋伸幸,大槻久,稲葉美里,波多野礼佳
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2017/01/31
- メディア: 単行本
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第3章 社会的選好 その3
次は文化と制度になる.著者たちは遺伝子と文化の共進化も重要なアプローチだとしているので,ここは力が入るところだろう.
3.8 文化と制度の重要性
著者たちはゲームの結果の地域差があることから文化と制度の重要性を指摘している.
- ゲームの実験結果には各地で差がある.これは制度の依存した文化差があることを示しているだろう.
- 結局ゲームの最適手を選択するには他のプレーヤーがどのような選択をするかの予測が重要であり,それはその集団でどのような社会的選好があるかに依存する.そしてそれはその社会の制度に決定的に依存している.(ここでも様々な実験の結果が紹介されていて面白い)
- 最後通牒ゲームの文化差は,他者の選択への信念(どのぐらいの分配なら拒否されないか)の違いから説明できる.この場合分け手の行動(拒否されない程度の分配を示す)は受け手の選択を予想して自己利益を最大化しているとも解釈できる.しかし受け手の行動(一定程度まで分配がなければ拒否する)は自己利益最大化では説明できない.どの程度までなら拒否するのかはゲームを通じて創り出された(その文化の)社会的役割により決まるのだ.
最後の解釈はナイーブで甘いだろう.ここもヒューリスティックの誤射を無視している.繰り返しゲームをする場合に長期的に「舐められたらカモにされる」からこの程度の提案は拒否した方が利得が高いということなら,(1回限りと教示されていても,ヒューリスティックとしては長期的に有利な戦略に従っていて)それは自己利益最大化につながっていると解釈できる.そしてどの程度カモにされやすそうかは文化により異なるので,条件依存的な行動を採るということになるだろう.
3.9 所属集団が行動に影響する
プレーヤー本人の所属だけでなく,相手の所属集団によってもプレーヤーの選択が変わることが観測されている.
- ヒトは相手の組織,言語,民族,宗教に応じて振る舞いを変える(選択を変えるあるいは対戦自体を避ける)ことが実験でも実際の社会でも観測されている.
- 相手の所属により相手の振るまいの予測が変わるというという場合もあるが,実験ではそういうことが期待されたい全くの恣意的なグループ分けを行っても「内集団ひいき:自分と同じ集団を相手にはより協力する」の傾向が確認される.
- 山岸(1999)は小グループを用いた囚人ジレンマ実験で,この内集団ひいきは互恵性の期待に基づくものであることを示した.行動経済学者たちは信頼ゲームを用いて実験して,内集団ひいきは状況依存的であることを見いだしている.
- 同一民族集団での内集団ひいきには規範と制度が深く関わっていると思われる.
ここはよく知られた社会心理学的知見の復習になっている.