Virtue Signaling その15


Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

  • 作者:Geoffrey Miller
  • 出版社/メーカー: Cambrian Moon
  • 発売日: 2019/09/17
  • メディア: Kindle版
 

第4エッセイ 道徳的徳の性淘汰 その11

 
ミラーはこれまで挙げてきた検証のための予測についてここで一つ具体例をあげて分かり易く解説している.
  

例:道徳的徳としての性的貞操

 

  • リサーチャーが「性的貞操は(血縁淘汰や互恵性によるものではなく)相互的配偶選択による性淘汰産物だ」という仮説を立てたとしよう.性的貞操は性病感染リスクを下げ,男性の「他人の子を養育させられるリスク」,女性の「男性からの育児リソース奪われリスク」も下げる.ではどのようにこれを検証すればいいだろうか.
  • おそらくここまでに挙げた予測を逆順(つまりまず配偶選好,そして表現型特徴,最後に遺伝的特徴)に検証していく方が容易だろう.

 

  • 最初に取りかかるべきなのは,性的貞操にかかる配偶選好だろう.アンケート調査や実験で人々が貞操な配偶者を選ぶことが示されるだろうか.答えはイエスだ.男性が短期的配偶戦略を採っているときには非貞操的な女性に惹かれるが,どちらの性も長期的配偶者としては高い貞操性を評価する.そして嫉妬のリサーチは通文化的にどちらの性も性的不倫に極めてネガティブに反応し,それを見つけようとすることを示している.
  • 人々は性的ライバルを信頼できないといって貶すだろうか.これも答えはイエスだ.ライバルを非貞操的と貶すのは非常によくあるやり方だ.
  • 人々は自分の貞操性を潜在的配偶者候補に示そうとするだろうか.これもイエスだ.恋人たちはしばしば自己欺瞞的な「永遠の愛」を誓う.

 

  • もし道徳的特徴がこれらの適応的配偶選好対象特徴を示しているのなら,リサーチャーは個人差レベルでも性的貞操の表現型的特徴を調べることができるだろう.
  • 貞操に関する安定した個人差はあるのだろうか.「社会的セクシャリティ」(乱交,短期的関係,ペア外性交への好み)についてのリサーチによると,この次元において安定した個人差があることが示されている.
  • ではこの個人差は他の道徳的に望ましい特徴(親切,誠実,メンタルヘルスなど)と相関しているだろうか.(この問題は実は複雑だ.というのはもてる個人はより浮気の機会が多く,短期的戦略に傾きやすいからだ.リサーチにおいてはこの機会の多寡,あるいは対象者の配偶価値をコントロールする必要がある)

 

  • 浮気についての遺伝的リサーチは実施するのが難しい.しかししばしば最も豊かな情報をもたらすものになる.
  • 双子リサーチは貞操性の遺伝性を見いだすだろうか.配偶価値を統制後,近親婚の間の子や出生時の父親の年齢が高い子どもは貞操性が下がるだろうか.(性淘汰から予測されるように)貞操性と,相手の貞操性への配偶選好は相関するだろうか.

 

  • 道徳的徳についての性淘汰仮説は明らかに検証可能だ.しかしそのためにはコストリーシグナルや性淘汰産物について新しいものの見方をすることが必要になる.特に進化心理学はなおコストの低さ,効率性の高さ,モジュラー性,表現型についての分散の低さ,遺伝性の低さ,安定的な発達過程を強調するきらいがある.これらの基準は生存にかかる自然淘汰産物としては適切だが,ディスプレイシグナルとしての性淘汰産物には当てはまらないのだ.そしてコストリーシグナルを調べるには前述した12の基準が役立つだろう.

 
性的貞操自体が道徳的徳なのかというのはやや微妙だ.(個人的な感覚では貞操は配偶戦略の一つで道徳的な評価ではないような気がする).ただここでは検証の例としてはわかりやすいから選ばれたのだろう(英語だとsexual fidelityとなるのでfidelityが徳っぽいというのもあるのかもしれない).遺伝的リサーチや他の道徳的徳との相関リサーチはなされているのだろうか.いずれも興味深いところだ.