From Darwin to Derrida その68

 
 

第8章 自身とは何か その8

 
ヘイグによるスミスの道徳感情論の読み込み.行動に影響を与える要因として本能,理性を扱ってきて,最後は文化を扱うことになる.理性と本能のところではスミスの引用があったが,ここにはない.うまい該当箇所がないということだろうか.
 

文化

 

  • 私たちは他者の経験や推論を学ぶ.そうすることによって個人ごとの学習の試行錯誤のコストを減らすことができる.私たちは学んだことを選り分け,自分が欲しいものをうまく手に入れている(あるいは手に入れているようにみえる)他者のやり方を真似る.私たちの教師も誰かから教えを受けており,さらにその教師にも教師がいて,この連鎖の各段階で選り分けと組換えが生じている.
  • このような累積的プロセスによって,文化的に伝達されるアイデアはより学習者にとって魅力的なものに進化していく.文化的な伝達はそれ自身の伝達効率を上げるような適応を生じさせ,それ故にそれ自身の目的(teleogy)を持つ.

 
まずは学習のメリットと,学習の際に内容の取捨選択と他社の模倣が生じることを指摘する.そしてそれは世代を越えて連鎖し,そこに文化進化が生じることになる.このあたりは最近では文化進化として様々に議論されているところだ.
 

  • 文化はその運び手の効用や適応度を上げるような形質を進化させがちだ.それは(運び手である)私たちが自然淘汰によって形作られた心理的な動機にアピールする文化アイテムを採用するからだ.しかし文化は感情よりもずっと速く進化し,しかもそのプロセスにおいては運び手の適応度や効用を必ず上げなければならないわけではない.だからこれにより,私たちの心理的な動機は遺伝的なロープから部分的には解き放たれているのだ.

 
文化進化を取り扱ったところで,遺伝子中心主義を自認するヘイグがここで第3章で論じたようにミームに踏み込まないのは少し肩すかし気味に感じられる.ともあれここでヘイグの主張したいことは文化によってもヒトは遺伝子の目的因から解放されうるということなのだろう.
 
文化進化についての本を挙げておこう.
 
最近刊行された本で,文化進化リサーチ手法と代表的な研究が解説されている.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/2021/01/19/115621

文化進化の数理

文化進化の数理

  • 作者:田村 光平
  • 発売日: 2020/04/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

メスーディによる文化進化本.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20160614/1465901048

 
ヘンリックによる文化進化本.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/2020/01/11/113010