The Gene’s-Eye View of Evolution その17

 

第1章 歴史的起源 その12

 
オーグレンの遺伝子視点の起源の解説.その3つの基礎の2つ目の集団遺伝学の説明に入る.まずフィッシャーの自然淘汰の基本定理における「環境」の捉え方が遺伝子視点と深い関係にあることが解説された.ここからフィッシャーが著書「自然淘汰の遺伝的理論」で,この基本定理をどう扱っているかの解説になる.
 

1-3 集団遺伝学 その4

 

1-3-3 自然淘汰の遺伝的理論

 

  • ジュリアン・ハクスリーは「自然淘汰の遺伝的理論」を20世紀における最も重要な本だと評している.それからほぼ1世紀を経て,なお多くの人がこの本を現代的総合の最も重要な本の1つとすることに同意するだろう.

 

オーグレンはこのハクスレーのコメントを「自然淘汰の遺伝的理論」のオクスフォードユニバーシティプレスの1999年のVariorum edirtion(完全版)のカバーにあるものだと説明している.

ハクスレーのコメントはこの表カバーにライト,クローのコメントと並んで掲載されている.
ちなみにシューアル・ライトは「・・・進化理論への主要な貢献ランクで1位となることは間違いない」,J. F. クローは「これほど多くの新しく深いアイデアが1冊の本に収められているのは稀なことだ.・・・この古典は読み返すたびに新しいものをもたらしてくれる」と書いている.
 
そして裏カバーにはハミルトンが長い推薦文を書いている.これは以前紹介したが再掲載しておこう
 

本書は,私が学生の時に,ケンブリッジ生活の残りすべてと同じ重さを持つ本だった.そして読めば読むほど自分の学問的水準の低さを教えてくれる本だった.ほとんどの章は1章を読むのに数週間を必要とし,中には数ヶ月必要なものもあった.例えばフィッシャーの「博愛」についての文章は当時読んでいたカフカの本よりも私を落ち込ませるものだったし,「文明」についての理論は私を熱狂させた.いくつかのトピックについては「恐怖」としか表現できないものであったし,今の私にとってもそうだ.それは私のそれまでの考えを深く変えるものだった.フィッシャーのアイデアと理論は,その後の分子的な発見によってもほとんど修正を受けず,広がり続ける道の基礎になり続けていて,その上でダーウィニズムは人の思想への侵入を続けている.
本書は,私の考えでは,進化理論にとってダーウィンの「種の起源」(と「由来」による補完)の次に重要であり,今世紀最高の本の1つである.そしてこの完全版の出版は意義ある出来事だ.フィッシャー後期の1958年のドーバー版による改変はむしろ理解に混乱をもたらしているところがあり,この完全版によっていくつかの謎は解決されるだろう.
1958年と異なり,今では自然淘汰は私達の知性的人生の一部となり,すべての生物学のコースに含まれるトピックになっている.とはいえ,私が人生を卒業するときまでに,私は本書に含まれる真実をすべて理解できるだろうか,そして優をもらえるだろうか? たぶんできないだろう.確かに私達のうちの幾人かはいくつかの点でフィッシャーを超えた,しかしながら多くの点でこの明晰で大胆な男は,なお私達のはるか先にいるのだ.

W. D. Hamilton

 
なお「自然淘汰の遺伝的理論」自体は2014年に(1930年のオリジナル版が)電子化されてお求め安い価格になっている.ハミルトンが読んでも難解なのだから私にはとても理解できなさそうだが,記念にポチッとしてしまった.

 

  • 現時点から振り返って考えると,フィッシャーが「自然淘汰の遺伝的理論」を執筆した主要な目的は「メンデルの遺伝の法則の発見は自然淘汰理論にとって致命的だ」という主張に反論することだったと思われる.序言は「自然淘汰は進化そのものではない」と始まっている.本書にとって重要なのは「自然淘汰の遺伝的理論」の第2章だ.そこで自然淘汰の基本定理が描写されている.
  • 敬われることが多い「自然淘汰の遺伝的理論」に比べて「自然淘汰の基本定理」は毀誉褒貶が半ばしている.フィッシャー自身はこの基本定理の重要性を高く評価しており,熱力学の第2法則にたとえ,「生物科学において最高の地位にある」と表現している.
  • これに対して続く世代の進化生物学者たちの反応は,批判的でないまでも,生ぬるいものだった.数学者であるサム・カーリンは「基本定理は基本的でもなければ定理でもない」と酷評したと伝わっているし,それは(少なくとも1990年代なかばまでの)多くの理論集団遺伝学者たちの共通の認識だった.片方で一部の進化生物学者は1972年のプライスの論文を引き合いに出して,基本定理には重要な部分があると主張していた.この基本定理の伝統的解釈と現代的解釈の意見の不一致は現在まで継続している.

 
このあたりについてのグラフェンが「Fisher the evolutionary biologist」で詳しく解説してくれている.
https://users.ox.ac.uk/~grafen/cv/fisher.pdf

 

  • 私自身は,基本定理の数理的正確性や生物学的重要性にかかる論争に加わるつもりはないが,基本定理と遺伝子視点の関連については関心がある.それを考察するにはこの基本定理の前提と両解釈の起源を吟味する必要があある.