本書は古生物学者相場大佑によるアンモナイトについての解説書だ.アンモナイトといえば,中生代を代表する生物で,その化石は古生代の三葉虫と並んで教科書にも載る「示準化石」であることでよく知られている.とはいえ,ではアンモナイトがどのような動物かといわれると,頭足類に含まれ,現生のオウムガイによく似ているという程度の知識しかなかった.三葉虫については三葉虫専門の古生物学者リチャード・フォーティによる「三葉虫の謎」があって大変面白かったが,アンモナイトについてはそのような本に触れる機会がこれまでなかった.というわけで手に取ったのが本書になる.表紙は相場自身の手による最新知見を元にしたアンモナイトの復元画でなかなか味がある.
本書はアンモナイトの様々な点について解説されているが,本稿では私にとって興味深かった部分を中心に紹介しておこう.
第1章 アンモナイトのきほん
第1章ではアンモナイトがどのような動物かが概説される.
- アンモナイトという呼称は,古代エジプト神話のアメン(ギリシア語ではアモン)に由来する.アモンには豊饒の象徴とされる羊の角があるとされており,プリニウスがアンモナイト化石を「アモンの角」として記述し,18世紀の動物学者がそれを元に「アモンの石」を意味するアンモナイト(Ammonite)という呼称を作った.
- アンモナイトの殻は螺環と呼ばれる.その開いた端を殻口,その反対側を殻頂と呼び,巻いた螺環に囲まれる中央部分は臍と呼ぶ.表面の輪っか状の凸凹は肋と呼ぶ.殻内部は(隔壁に仕切られたいくつかの気室から成る)気房と(殻口側にある本体が入っている)住房からなる.螺間の内部には連室細管という管状の構造がある.隔壁は全体が波打っており,それが作り出す複雑な模様は縫合線と呼ばれる.
- 現在想定されている系統関係によると,アンモナイトは基盤的頭足類からオウムガイが分岐した後に現生のイカ・タコ類の共通祖先と分岐している.つまり系統的にはオウムガイよりもイカ・タコと近縁ということになる.
第2章 アンモナイトの進化と絶滅
第2章のテーマはアンモナイトの進化史,主な系統の栄枯盛衰がまず語られ,そこからいくつかの関連トピックが取り上げられている.
- アンモナイトは古生代デボン紀前期に登場し,白亜期末に絶滅した.(どこからをアンモナイトと呼ぶかという問題があるが,ここではアンモナイト目だけでなく(殻が一周以上巻くようになった)アゴニアタイト目以降の目をアンモナイトと呼ぶとして説明されている.アンモナイト目だけに絞れば登場は中生代の三畳紀となる)
- デボン紀前期にまっすぐな棒状の殻を持つ頭足類バクトリテス亜綱から,最初のアンモナイトであるアゴニアタイト目が派生し,巻いた形に進化した.
- デボン紀中期にはアゴニアタイト目からゴニアタイト目,クリメニア目が派生した.デボン紀末の大量絶滅では,ゴニアタイト目の1系統のみ生き残った.
- 石炭紀に入るとゴニアタイト目が多様化しペルム紀まで繁栄した.その中で石炭紀にプロレカニテス目が派生し,さらにペルム紀にはそこからセラタイト目が派生した.
- ペルム紀末の大量絶滅では原始的セラタイト目のみ生き残った(正確にはプロレカニテス目の一部も生き残ったがすぐ絶滅した)
- 中生代三畳紀にセラタイト目が多様化した.そこからアンモナイト目が派生し,爆発的に多様化し,中生代を通じて繁栄した.(その中の様々な亜目や超科の栄枯盛衰が詳しく解説されている)
- 白亜期末の大量絶滅でアンモナイトは恐竜や海生爬虫類とともに絶滅した(ただしごく一部の系統がわずかな期間生き延びたらしい*1)
- アンモナイトの古生代の初期進化における最も重要な変化は巻きがきつくなったことだ.このことの適応的意義については近年詳しく研究され,「魚の時代」ともいわれるデボン紀に顎を持つようになった魚類とアンモナイト類に捕食と防御の共進化が生じて,棒型から巻き型に進化したと考えられている.(横向きになって泳ぐことができる,その他に漏斗を様々な方向に向ける様な形態変化が同時に生じている)
- アンモナイトの初期進化のもう1つの重要なポイントは(卵の中で幼体が丸くなれることによる)孵化サイズの縮小と殻の大型化,小卵多産型の繁殖戦略だ.
- アンモナイトの進化においてよく議論されるのは,殻装飾の進化傾向だ.突起やイボなどの殻装飾は古生代にはほとんど見られず三畳紀以降に増加する.ウォードは中生代に二枚貝の殻を砕いて中身を食べるカニやヒトデが現れたこと(ヴァーメイによる中生代海洋革命)により,アンモナイトも防御力を高める方向に進化した可能性があると指摘した.中生代には海生爬虫類,ベレムナイト,コウモリダコなどの捕食者も現れた時代であり,アンモナイトが防御力強化の方向に進化した可能性はあると考えられる.
- もう1つよく議論される進化傾向は,縫合線の複雑化だ.複雑化はよく知られたアンモナイトの進化パターンだが,その適応的意義は(殻強度向上は機能としてあったと思われるが)なお十分に理解されていない.
- 白亜期末の大量絶滅を,イカ,タコ,そしてオウムガイは生き延びたのに,なぜアンモナイトは生き残れなかったのかについても様々な研究がある.最も有力視されているのは孵化サイズの違いで,アンモナイトは小卵多産型(r戦略),オウムガイは大卵少産型(K戦略)をとっており,そのサイズからアンモナイト幼生は浮遊性と考えられ,海表面近くで酸性雨の影響を大きく受けたと考えられている.また基礎代謝がオウムガイより高く,異常な環境下で脆弱だった可能性があるという指摘もなされている.
第3章 アンモナイトの成長
第3章のテーマはアンモナイトの成長.
- アンモナイトは古い殻に新しい殻を継ぎ足ししながら成長する(付加成長).その際には隔壁を形成して1ブロックごとに移動していく.新しい隔壁が十分な厚さになると,気室の中のカメラル液を排水し気体を満たし,浮力器官とする(アンモナイトの連室細管の化石の分析から,連室細管はオウムガイのそれとよく似ており,同じような成長プロセスを持っていたと考えられている).
- オウムガイに関するよくある誤解は「気室中の液体量を頻繁に変えて浮力を調節している」というものだ.実際には一度空にした気室にカメラル液を充填することは基本的になく,殻が欠けて浮力が高まりすぎたような緊急事態下でのみゆっくり再充填することがあるだけだ.アンモナイトはオウムガイより素早く再充填できたとする説もあるが,基本構造はオウムガイと同じであり,手放しでは受け入れられない.
- アンモナイトの成長は胚殻期,幼年期,未成熟期,成熟期の4つの段階があるとされている.隔壁の間隔パターンなどから未成熟期にはいって浮遊性から遊泳性に変わると考えられている.(それぞれの段階の様々な議論が詳しく解説されている)
- アンモナイトには雌雄がある(雌雄同体ではない)と考えられている.20世紀半ばに化石の特徴や産出状況から同種と思われる大きさが異なる2タイプの化石(大小それぞれをマクロコンク,ミクロコンクと呼ぶ)があることが指摘され,それが雌雄の性的二型であると考えられるようになった(なぜそう考えられるようになったのかについて詳細な説明がある).どちらがオスでどちらがメスかについては,ほかの頭足類の状況などからマクロコンクがメスとする説が有力だが,時代や種類により異なっている可能性も残っている.
- アンモナイトの寿命はどのぐらいだったか.現生頭足類では1~20年と幅があり,野生のオウムガイは再捕獲法により20年程度と推測されている.アンモナイトはオウムガイと異なり小卵多産型戦略をとっているので,同じ戦略をとっている現生頭足類をもとに考えるとその寿命は1~数年程度と考えるのが妥当だろう.
第4章 アンモナイトの生態
第4章のテーマはアンモナイトの生態.特に生殖場所,遊泳能力と殻形の関係,食性が詳しく取り上げられている.
- アンモナイトには多くの種があり,沿岸の浅海域から沖合いの(百数十メートルの)深い海まで様々な環境で生息していたと思われ,化石が堆積した海域の環境と殻の形や装飾に相関があることが知られている.
- 装飾型は浅海域に主に見られ,異常巻き型はそれよりやや沖合いに近い海域,平滑型はさらに沖合いの海域に多いが,平滑型の分布を見ると浅海域から百数十メートルの深海域まで広く見られる.
- 平滑型のアンモナイトの場合,螺間が細い殻は浅海域に多く,太い殻は広く分布するが,沖合い域に多い.これは海中の流れの強さと遊泳効率から説明がなされている.
- 装飾型のアンモナイトの場合,(分布の中で)より浅い海域では螺間が太く装飾が強く,やや沖合いでは螺間が細く装飾が弱い傾向がある.装飾の強弱は浅い海での捕食防御と強い流れの中の安定性の重要性から説明されている.(ここで螺間の太さが平滑型と逆の傾向にあるのはなぜかという問題について,殻形成の発生的制約の可能性を絡めた議論が紹介されている)
- 殻の同位体分析から,アンモナイトはジュラ紀から白亜紀にかけて遊泳生活あるいは浮遊生活ニッチから底生生活ニッチに進出した可能性があると主張されている.
- アンモナイトの遊泳能力については浮心・重心・生息姿勢を計算により求めた上で推測されている.初期進化において棒状の殻が徐々に巻いていくにつれて,殻口の向きが上に変化して重心の高さに近づき,遊泳能力が向上したと考えられる.
- さらに3Dプリンターで(巻きの緩いヘビ状.球状.円盤状などの)様々な殻模型を作り,モーターで漏斗からの推進力を与えたアンモナイトロボットの実験により,円盤状のものは最高速度と持続力は高いが方向転換が苦手であり,ヘビ状のものは速度は劣るが安定的な速度の持続に向き,球状のものは速度も持続力も劣るが方向転換に優れている(つまり形質を通じた各遊泳能力要素の間にトレードオフ関係がある)ことがわかった.これらの結果はアンモナイトの進化史において各時代に様々なタイプの形が常に存在していることを上手く説明している.
- アンモナイトの食性についてはカラストンビ(顎器)の形状,消化器管内容物化石,糞化石から推測されている.カラストンビのバリエーションはイカ・タコ・オウムガイよりも多様で,肉食(イカ・タコ),腐肉食(オウムガイ)だけでなく濾過食か懸濁物食のものもいたと考えられる.内容物化石からは微小貝形虫,有孔虫,浮遊性ウミユリが含まれているものがみつかっており,濾過食,懸濁物食と矛盾しない.また内容物化石からは甲殻類,微小巻き貝などの他アンモナイトも見つかっており,中には同種のものもある.糞化石からも浮遊性ウミユリを食べていたことがわかっている.
- 化石からはアンモナイトは,コウモリダコ,ベレムナイト,アンモナイト,魚類に捕食されていたことが示されている(モササウルスなど海生爬虫類についてもいくつかの報告があるが決定的ではない).
- アンモナイトの卵の可能性のある化石,胚殻が集まった化石が見つかっている.後者はアンモナイトの小卵多産戦略の直接的な証拠となっている.
第5章 アンモナイトのタフォノミー
第5章のテーマはアンモナイトのタフォノミー(生物遺骸が化石化する過程の研究).
- アンモナイト化石の産状は様々だが,中には地層の中でコンクリーションと呼ばれる保存状態が良い硬い岩石の塊になっている場合がある(それが出来るメカニズムについても解説がある)
- アンモナイトが死後,海中で速やかに沈んだか,一度浮かび上がってから沈んだかについても様々な場合がある.これは,どの深度で死んだか,殻の孔からの浸水がどれだけ生じたかで決まる.速やかに沈んだものは保存状態が良くしばしば複数個体が集積しており,ゴーリセラスと呼ばれ,一度浮かび上がってから海面漂流などを経て沈んだものは保存状態が悪く,ネオフィロセラスと呼ばれる.
- 大形アンモナイトの化石はしばしは中央部分が欠落してドーナツ型をしている.これは完全に埋もれるまでに時間がかかり殻の薄い中央部分が壊れやすいからだと考えられている.また周囲や下側中央部分の窪みに海底流により運ばれてトラップされた小さなアンモナイト化石や植物化石の集積が見られることがある.
(この他,小さなアンモナイト化石がよく保存される条件,ビーチに漂着した場合の壊れ方,現生オウムガイを使ったタフォノミー実験,例外的に琥珀の中に保存されたアンモナイト化石などの解説がある)
第6章 異常巻きアンモナイト
第6章のテーマは異常巻きアンモナイト
- アンモナイトの「異常巻き」について正式な定義はなく,多くの人がイメージするような正常形以外の形をまとめて呼んでいるものだ.
- 古生代に一旦きつく巻くようなアンモナイトが進化した後,かなりの期間異常巻きは現れず,一度巻いた殻がほどけたのは中生代三畳紀の末期になってからだ.三畳紀,ジュラ紀の異常巻きアンモナイトはそれほど多様化せず,生息期間も短かった.
- ジュラ紀末に異常巻きアンモナイトのアンキロセラス亜目が登場し,白亜紀になると分布を世界中に広げ,多くの超科を構成しつつ多様化した.特に北海道の白亜紀層では固有種を含めた様々な異常巻きアンモナイトが豊富に見つかるが,その理由は分かっていない.
ここからは主に日本で産出する異常巻きアンモナイトの解説となり,様々な属の殻形態の時系列変化が詳しく語られる.その上で最も奇妙な巻き形態として知られるニッポニテス属について詳しい解説がある.
- ニッポニテスの研究史は異常巻きアンモナイトを理解しようとする歴史が凝縮されたものだ.
- ニッポニテス・ミラビリスは1904年に東京帝大の矢部により命名された.矢部は殻形態を詳細に記述し,これが事故の結果や奇形ではないと主張した(1個体しか標本がなく奇形と考える研究者も存在した).この当時は異常巻きアンモナイトが生物学的に正しく理解されておらず,(進化についての理解不足もあり)「進化の袋小路に陥った」などの考えがはびこっていた.
- 1970年代までに日本,ロシア,アメリカで合計3種のニッポニテスが発見され,奇形説は消滅した.しかし殻形成の仕組みや生態に関しては謎だった.
- 1980年代に東大の岡本隆によりニッポニテスの巻き方の仕組みが理論的に解明された.
- 巻き方の仕組みの解明の鍵は,それまでの巻き貝の殻形態を示すモデル(ラウプモデル)で定数とされたパラメータが時間的に変化すると置く岡本の「成長管モデル」,そしてそれをニッポニテスにうまく当てはめた「成長方向調製モデル」だ.このモデルでは殻口の上下方向の向きに許容限界があり,それを超えると成長プログラムが切り替わるとされた.そしてこの許容限界を変化させるとニッポニテスの3種だけでなく近縁とされるスカラリテス,ユーボストリコセラスの殻形態も上手く説明できた(詳しく解説がある).
- さらに2020年のピーターマンたちの研究により,生息姿勢復元,姿勢安定性が理論的に検討され,高い安定性を持つことがわかり,海中をゆっくり泳いでプランクトンを接触する生態が推測されている.
第7章 アンモナイトの復元
第7章のテーマはアンモナイトの復元,特に化石化されることがほぼない軟体部がどうなっているかの推測だ.ここはなかなか興味深いので少し詳しく紹介しよう.
冒頭でオウムガイ,アンモナイト,現生頭足類の系統樹上の位置と復元推測におけるブラケット法(基盤グループ(ここではオウムガイ)と派生グループ(同イカ,タコ)が同じ特徴を持つなら,その中間のグループ(同アンモナイト)も基本的には同じであるだろう)が解説され,それである程度推測できる特徴(顎器と歯舌,消化器系,神経系)とそれではわからない特徴が整理され,そこからブラケット法でわからない特徴についての推測が紹介されている.
- イカの腕は10本,タコは8本,オウムガイは60~90本だ.オウムガイについて発生初期の腕の基礎が10本であること,アンモナイトの祖先から分岐した直後の頭足類が10本腕であったことが最近報告され,アンモナイトについても10本であった可能性が高いと考えられるようになっている(タコは進化の過程で2本退化させたことがわかっている).
- アンモナイトの腕の化石は発見されていないが,白亜紀のスカファイテス類の腕の先端についていた鍵爪と思われる化石が発見されている(現状見つかっているのはスカファイテス類のみ,かつごく限られた種と個体でしか見つかっていない).鍵爪は現生頭足類のイカと白亜紀頭足類のベレムナイト類で見つかっているが,スカファイテス類を含めて3系統で独立に進化したと考えられている.
- オウムガイはピンホール眼を,イカタコはレンズ眼を持っている.2013年にオウムガイにレンズ眼形成に必要な遺伝子がある(ただし発現していないためピンホール眼になっている)ことが報告された.アンモナイトの眼はレンズ眼であったとまず想定すべきだろう.
ここから例外的な軟体部の化石の話になる.
- 長らくアンモナイトの本体の化石は見つからなかったが,2012年,2021年にいずれもドイツで本体部の化石が発見された.
- 2012年に見つかったのは白亜紀の異常巻きアンモナイト,バキュリテスの化石で,顎器,歯舌,線状の食道(おそらく素嚢),眼を守っていた頭部軟骨(と解釈されたしみ)などの多くの消化器系,神経系が保存されていた.
- 2021年に見つかったのはジュラ紀のアンモナイト,ペリスフィンクテスの化石で,殻を伴っていなかったが,ほぼ完全な軟体部が頁岩に保存されていた.顎器,眼(と思われるしみ),漏斗(の痕跡),素嚢,胃,生殖器官が判別できた.なお精莢と思われる折り畳まれた紐状の構造があるのでオスと推測され,大きさからこれはミクロコンクと推測できるのでアンモナイトの性別に関する重要な発見と考えられている.なおなぜ殻がないかについて発見者は捕食者のベレムナイトが軟体部を殻から引き抜いた後で捕食に失敗して残されたものだと推測している.
- この2化石とも消化器系,神経系まで残されているのに腕が残されていない(とても不思議で,なぜだかはわかっていない).腕の特徴についてはアンモナイト研究に残る最終課題の1つだ.
- 殻化石からは筋肉付着痕が見つかっている.そこから頭部索引筋と漏斗索引筋などの大きさ,比率が分かり,運動の様子がある程度推測できる(いくつかの種について詳しく解説がある)
- アンモナイトは墨を吐いたか.同時代のコウモリダコやタコやベレムナイトの化石からは墨袋の痕跡が見つかっているが,アンモナイトでは見つかっていない.墨は吐かなかったと結論せざるを得ない.
- アンモナイトには殻が4層になっている種があり(通常は3層),その場合追加層が外側から作られた可能性が指摘されている.だとすると内殻性だった可能性があることになる.(詳しい解説がある)
- ジュラ紀のアンモナイトには顎器の下顎が大きく平べったいシャベル状になっているものがあり,殻を閉じる蓋の機能を果たしていた可能性が指摘されている.
- 殻の外側の模様についてはそれが残っている化石からいくつかのパターンがあったことがわかっている(種ごとの解説がある).機能や適応的意義についてはほとんど検討されていない.
最後に復元画の歴史が図版とともに語られている.
- 19世紀には特定の現生頭足類がモデルになることが多かった.1830年代の最初期の復元画は(タコの1種である)アオイガイをモデルにし,海面にぷかぷか浮かんで,大きく発達した腕を上向きに伸ばしている姿で描かれた.(当時はオウムガイが知られておらず,螺旋状の殻を持つ頭足類の代表がアオイガイだった)
- オウムガイが知られるようになり,1870年代にはオウムガイをモデルにした復元画が描かれるようになった
- 1890~1910年にかけて海面に浮かぶのではなく,海中を泳ぐ,あるいは海底を這う様な復元画が描かれるようになった.20世紀の多くの復元画にはオウムガイのようなフードが付けられていた.
- 20世紀末になるとアンモナイトはオウムガイよりもイカ・タコと多くの共通点を持っていたことがわかってきた.それが復元画に反映されるのは2010年ごろからで,フードは描かれなくなり,10本腕のものが増えた.
以上が本書の内容になる.アンモナイトのことがいろいろわかって大変楽しい本だった.私はアンモナイトがオウムガイよりもイカ・タコに近縁というのは本書を読むまでは認識していなかった.縫合線の複雑化(いかにも定向進化的で非常に不思議)の適応的な意義が未解明なこと,なぜか軟体部の化石が非常に少なく腕の化石がない(ゾルンホーフェンの化石には見事なイカの軟体部の化石もあるのになぜアンモナイトの軟体部の化石がないのか不思議)ことなども興味深い.20世紀のオウムガイをモデルにした復元画はいかにも懐かしいし,最新のイカに似せた復元画も味わい深い.アンモナイトを知りたい人がまず読むべき良書だと思う.
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同原書
ちょっと検索してみると最近刊行されたこんな図鑑がヒットした.本書著者の相場大祐も寄稿しているし,本書で紹介された性的二型やドイツの軟体部化石もカラー図版で紹介されている.なかなか楽しそうだ.
*1:2005年のミカルスキとハインバーグの論文が引かれている.デンマークの古第三紀の地層から得られたアンモナイト2種については再堆積したと考えにくく,殻内部の砂泥に含まれる微化石の種類や殻の同位体分析からも,真に白亜期末を生き残ったものだと考えられると主張されている.



