
11月29日と30日に人間行動進化学会が開かれたので参加してきた.私としてはコロナ騒ぎ以降すっかり出不精になってしまい,ここしばらくオンライン参加が続いていたが,6年ぶりに東京開催ということで対面参加することにした.開催場所は目白台の日本女子大キャンパス,目白通りを挟んでかつての田中角栄目白御殿(現在は角栄死後,敷地の過半が相続税物納され,目白台運動公園の一部となっている)の向かい側に位置する瀟洒なキャンパスだ.
大会初日 11月29日
開会は午後一時.開会挨拶の後早速口頭セッションに
口頭セッション1
集団意思決定の効率性と柔軟性:異なる社会学習アルゴリズムの集合的帰結 菅沼秀蔵
急速に変化する現代社会においては,社会的な意思決定において,効率性と柔軟性のトレードオフが重要になっているだろうという問題意識の上に,社会学習戦略を考察した発表.
- 認知神経科学においては社会学習アルゴリズムとして2つの類型が提唱されている.1つは決定バイアス法(DB),もう1つは価値形成法(VS)だ.
- DBは他者の行動(社会的情報)を行動選択における選択バイアスに組み込む方式(選択肢の評価には直接影響を与えない),VSは他者の行動を選択肢の評価に組み込む方式になる.
- ヒトが個人レベルで実際にどちらを使っているかについてのこれまでのリサーチではVSに近いとされている.
- 今回,社会相互作用がある時にそれぞれの方式がどう影響するのかについて集団レベルでの考察を行った.
- 2腕バンディット課題を用い,集団サイズ,多数派バイアス,共有メカニズム(どこまで開示するか)の程度をパラメータとして,試行途中で選択肢の有利不利がフリップする設定で.エージェントベースシミュレーションを行った.
- (様々な結果が紹介され)一般的にVSの方が効率的だが,DBの方が環境変動に対して柔軟性があるという結果が得られた.またこれらの結果はより大集団,より多数派バイアスがある方が強く出た.
- VSは小集団,環境定常で情報の質が高い時に有利だが,現代環境ではミスマッチになる可能性があると考えられる.
- また進化動態としては集団内で(頻度依存により)VS,DBが共存することも示された.これは個人差を説明するものかもしれない.
集団間の不平等はいかに創発するか:多数派と少数派におけるタイプ条件づけの進化 山本嵩記
集団内の不平等がいかに生じるかについての発表で,キーになるのはタイプ条件付け(相手の属性により行動を変える戦略).ナッシュ要求ゲームにおいてどのナッシュ平衡に収束するかをみていく.
- オコナーはナッシュ要求ゲームを用いて不平等の創発を分析した.そこではタイプ条件付き戦略が可能であれば少数派が不利になりやすいことが示された.これは(より多数派と対戦することが多く進化速度の速い)少数派が不利になっており,オコナーのいう文化的な赤の王効果が効いていることになる
- ここではこのようなタイプ条件付き戦略が進化可能なのかどうかを,規模の異なる2集団混合で個人がランダム対戦を繰り返すかたちの進化モデルで分析した.
- 結果は,タイプ条件付きは進化可能というものだった.そしてそれは集団規模が大きいほど,不平等なナッシュ均衡利得の平等配分からの差が小さいほど進化しやすかった.また後者の場合,より少数不利が生じやすかった.
- これは相手を区別する行動が適応的に生じ,それにより不平等が生まれる可能性を示している.
最初の2つの発表はいずれもシミュレーションベースの進化動態を見るもの.どちらも詳細は細かなパラメータ依存が複雑でいろいろとマニアックだ.
オコナーの議論はこの本にあるものがベースになっている.
shorebird.hatenablog.com
関係流動性と評判情報流通の文化差:オンラインレビューを用いた大規模国際比較 日下部春野
評判情報の内容と社会の関係を調べたもの
- 評判情報は間接互恵的協力を可能にするものでヒト社会の基盤になっている.その機能は環境依存部分があると考えられる.そこで異なる社会で実際に流通する評判情報を調べてみた.社会に違いについては関係流動性(社会的関係の選択の自由度:アメリカで高く日本で低いといわれている)に注目した.
- 関係流動性が高い社会だと,既往の関係からすぐに相手を変えられるが,低い社会だとその関係性に縛られる.
- 仮説として,(1)関係流動性が高いと高評価の評判が(より価値が高いと考えられるため)より流通しているだろう(2)関係流動性が低いと低評価の評判が(より価値が高いと考えられるため)より流通しているだろう,の2つを立てた.
- そしてGooglemapレビューの,レビュー数,平均スコア,コメントの感情価を評価したものを39カ国390都市に
わたり調べた.感情価は特にポジティブなものと特にネガティブなものを抽出して分析した.
- 結果:平均スコアと関係流動性は正に相関した(両仮説と整合的).しかしポジティブ感情価は関係流動性と正の相関を示したが,ネガティブ感情価は有意の相関がなかった.(仮説(1)のみを支持)
- このことは関係流動性の高い社会においては高評価の評判がより(有用であるため)流通している可能性を示唆している.
GoogleMap上でどのような評判情報があるのかを分析するというアイデアは楽しい.コメントの感情価評価して極端なものを採用するというアイデアも面白かった.
The evolution of cooperation when gossip with various lies from defectors spread in the population 福田陽介
(本件はSNS言及不可のもの.SNSでの言及不可とされているものについては,公開されている発表要旨範囲内の簡単な紹介にとどめておく.以下同様)
非協力者が虚偽情報を広める状況で協力が進化するかどうかを進化ゲームで調べたもの.
ここまでで口頭セッションの1部が終了だ.
日本女子大と目白通りをはさんで向かう合う目白台運動公園.奥に日本女子大が見える.

