さてここまでグラフェンのモデルの前提条件を見てきた.
モデルの構造や前提条件を私の理解に沿って再掲すると
<ESS条件>
オスの戦略,すべての a, q について以下が成り立つ
メスの戦略,すべてのP(a)について以下が成り立つ
<前提条件>
は連続で微分可能.
- 広告にはコストがかかる.このため
- 広告の結果メスの反応によりオスは利益を得る,このため
が
について増加関数になっている.これが満たされる条件のうち「
,
」であれば,このときには,「よりよいオスはより多く広告することにより,より利益を得る」ことになる.
さてここからがポイントだ.
グラフェンはESSの定義式と前提からESSの導出過程は見せてくれない.いきなり次の式がESSであると提示する.
そしてこれがESSであることを証明する.
まず上記の上2つの式は,が存在するという前提から,
をすべての区間について定義できている. そして
,
は前提からそれぞれ,負,正なので
は単純増加関数になっている.このことより
を
という形で定義できる.
戦略ペア,
がESSであることは以下により示す.
まず,メスが戦略をとっているときにオスにとっての広告の限界価値
は以下のように表される.
この式に上記の2番目の式であるを代入し,さらに両辺を
で割ると,<広告の限界価値>を正の値である
で割ったものが以下の式に等しくなる.
この式の左側の分数 が
について増加関数になっていれば上記の式全体の正負は(つまり広告の限界価値の正負は)[tex: q
P^*]のときに正となる.
また ということは
の逆関数は
ということになる.そして
は単純増加関数なので
も増加関数になっている.
つまり広告の限界価値は [tex: aA^*]のときに正となる.
つまり式の左側の分数 が
について増加関数になっていれば,
より広告量が少なければ限界価値はプラスで,同じであればゼロ,多ければ限界価値がマイナスになる.つまり
がESSであることになる.
ここで前提条件から が
について増加関数になっているわけだからこの条件は満たされる.つまり上記定義された
はESSである.
さてはどうだろうか.
ここでESSの条件式をよくみると,
の最小値は0であるのでこれを達成できる
があれば当然ESSとなる.そして
であればこの積分はゼロになるのでこれがESSとなる.
ゆえに戦略ペア はESS戦略ペアとなる.
さてこのようにして得られたESSはどのような特徴を持つだろうか.
上記関数の数学的性質からは次のことが得られる.
まず
は
に対して増加関数となる.これはオスは広告量を自由に選べるのだが,それでもESS戦略のもとでは(誇張せずに)自分の質にあわせた広告を行うということになる.そしてメスは正しくオスの質を判定する.
そしてより質の高いオスは結局より高い適応度を得る.(これには前回述べたような微妙な問題があるように思う,少なくともこのような状況がある場合が含まれるという方が正確かもしれない)
これらを評価するなら,広告にはコストがかかりハンディキャップシグナルになっているということができる.
これらの結果から野外では,オスのハンディキャップ,質,メスに対しての魅力,オスの適応度が強く相関していることが予想される.
なかなか難しいのだが,何とか骨格は理解できたような気がする.ポイントはやはり が
に対してどう振る舞うかということのようだ.これが増加関数になることがすべての鍵のようだ.
この項続く