On the Origin of Species: The Illustrated Edition
- 作者: Charles Darwin,David Quammen
- 出版社/メーカー: Sterling Pub Co Inc
- 発売日: 2008/10/07
- メディア: ハードカバー
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第10章 On the Geological Succession of Organic Being
第10章は化石記録にみられる生物の変遷が自然淘汰の学説によくフィットするかどうかという問題を扱っている.
ダーウィンは片方で急速に進化する系列があり,片方で大きな変化がないままの種があることを自説を補強するものだと考えている.これは生態的な競争条件は様々であったはずだということからくる帰結になる.
またダーウィンは体制が高等な動物(この高等か下等かということについては後にきわめて適切な留保がある)の方が進化速度は速いという観察事実も生態的な理由で説明している.
またいったん絶滅した種は復活しない理由も,まったく同じ生態条件がそろうことがないからだとしている.また絶滅について,ダーウィンは種には寿命があるわけではないと適切にコメントしている.これも自然淘汰の考え方からは当然の主張だろうが,ダーウィンの主張の先進性をよく示しているところだ.
ではダーウィンは大絶滅についてはどう考えていたのか.ダーウィンは古生代末の三葉虫の絶滅,中生代末のアンモナイトの絶滅について,化石記録の不完全さと,生態的な要因によって一群のグループ全体が不利になったこと等によって説明できると考えていたようだ.
地球の歴史において激変はなかったというのはライエル譲りのダーウィンの信念であるようだ.「種の起源」全体を読んで強く感じるのは,そのほかの観察重視の姿勢と異なって,ダーウィンはこの点に関してだけはドグマティックだということだ.だから大絶滅,そして古生代から中生代,中生代から新生代への移行についてダーウィンは理解できていない.この点に関するところではダーウィンも普通の学者のように自説に固執しているように見える.残念な気もするし,ダーウィンもどこか普通の人と同じだと安心するような部分でもある.
こののちダーウィンは化石記録が,系統分岐の考え方によく一致している点を取り上げている.
ダーウィンはここで現生生物が,過去の生物より高等かという問題を議論している.ダーウィンは高等,下等の定義には立ち入らないと断った上で,ある特殊な意味で現生生物は過去の生物より高等だと言えるとしている.それは生態的な競争により打ち勝ってきたという意味で高等ということである.進化は必ずしも進歩を意味しないという点でこれは大変現代的なセンスであり,ダーウィンの先進性がよくわかる.またグールドとドーキンスの論争の1つのテーマでもあったものだ.ここを読むとダーウィンの理解はドーキンスのそれに近いことがわかる.
But in one particular sense the more recent forms must, on my theory, be higher than the more ancient; for each new species is formed by having had some advantage in the struggle for life over other and preceding forms.
第11章 第12章 Geographical Distribution
第11章,第12章では現在みられる生物の地理的な分布が自然淘汰の学説にフィットするかを扱っている.ここには現在の生物地理学の骨格が現れていると言えるだろう.
ダーウィンは当時認識され始めた陸生動物の生物地理区分を地理障壁を原因として説明している.しかしダーウィンは地理的な分布を完全に説明するためには現在ある地理障壁を生物が時に飛び越えなければならないということに気づいていた.
ここでダーウィンは生物がどのように海を越えられるかついて様々な実験・考察を行っている.なかなか細かくて楽しいところだ.
ダーウィンは続いて氷河期が生物の地理分布に与えた影響を考察している.ここはいかにもダーウィンらしいところで面白い.まずユーラシア,アメリカの高山植物が似ていることについては極地(北極周辺は陸地が連続しているので障壁がなかっただろうと考えている)にいた生物が氷河期で南に下がり,その後温かくなったときに高山に取り残されたのだろうと推測している.またいくつかの温帯の植物種が北半球と南半球で類似していることについて,北半球からこの氷河期に赤道近辺まで押し出されてその後南に侵入できたからではないかとも推測している.これは現在ではどう考えられているのだろうか.ちょっと興味があるところだ.
また一般的な傾向として北半球から南半球への侵入の方がその逆に比べて多いことについては,大陸の面積の違い(そしてそれによる競争力の差)が原因だとしている.ここはジャレド・ダイアモンドのアイデアに近いものがあって面白い.
またダーウィンは南半球の各大陸の植物相が似ていることを謎だとしている.現代的にいうとこれは大陸移動,ゴンドワナ大陸由来ということで説明されるものであるが,そういう知識がなければ説明できないと考えていたということがダーウィンの洞察の深さを物語っている.
第12章では説明が難しいと思われるいくつかの問題を取り扱っている.
まず淡水の生物が陸地や海水によって隔離されているように思われるにもかかわらず広く分布していること.
ダーウィンは魚とそれ以外の生物では分布域が異なっていること(魚に比べて淡水性の昆虫,貝類,植物は遙かに広く分布する)も説明できなければならないと考えていたようである.まず魚については河川の相互流入が大きな要因で,これに加えて海水を経ての移動があるだろうと推測している.実際に流路の変更が考えられないような大きな山脈があればそこで魚の分布が異なっていることを例証としている.
植物,昆虫,貝についてのダーウィンの考えは面白い.ダーウィンは渡り鳥による移動が大きな要因であると考えている.確かに渡り鳥の一部は淡水から淡水に移動するだろう.そしてクチバシや足に付着する泥の中に種子や卵があればそれは容易に広がるだろう.なかなか鋭い考察であり,読んでいて楽しい.
次は大洋島にみられる生物.これは限られた生物がたまたま渡来したあとに放散を生じるという現象として説明していて,ほぼ現代でもそのまま通じるだろう.マッカーサーとウィルソンによる島の生物地理学までほんの少しだ.島の生物相は近隣大陸のそれに似ていること,島の哺乳類にコウモリの比率が高いこと,島にはカエルがいないことなど説得的な事例も多く紹介されていてダーウィンのナチュラリスト振りも味わえる.
ここではガラパゴス諸島が引き合いに出されて群島の場合が考察されている.大陸からたどり着いたという由来は共通しているが,島ごとに微妙に生態条件が異なるのでまったく同じ種には進化しないのだと解説されている.例としてはフィンチではなくマネシツグミが取り上げられているのはちょっと意外だ.
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