「Sex Allocation」 第8章 世代が重複する場合の性投資比 その2

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


世代重複する場合の性比.ウエストはまず死亡率の攪乱を解説した,次に出生率の攪乱に進む.


8.3 例外的な出生率


出生率の攪乱も条件依存的性比調整の淘汰圧となり得る.それは死亡率の攪乱が両性に同じ影響を与える場合と同じように繁殖価の齢別の分布状況が性によって異なる場合に生じる.


出生率が例外的な時期における性比調整のみが生じる場合>
ウィーレンとテイラーは出生率が例外的に高くなる時期に何が生じるかを考察した.(Werren and Taylor 1984

  • 結論は,より繁殖価の齢別の分布が平坦な性の方を増やすようになるだろうというものだった.
  • そのロジックは以下のように説明できる.その例外的な時期のコホートは生涯を通して通常より激しい同性間の競争に直面する.そして繁殖価の齢別分布のピークが激しい性の方がより厳しい競争に直面する.だからその性を避ける方が有利になるのだ.


<モデルの拡張>
エストとゴドフレイはそのモデルを拡張した.(West and Godfray 1997)

  • まず例外的な時期だけでなくその直後の時期にも性比調整が生じると拡張した.この場合例外的の時期の平坦な分布の性の方への傾きがさらに増し,直後の時期には逆方向への傾きが生じる.
  • 説明は次のようになる.まず直後の時期には相対的な出生率は下がる.このため逆方向への淘汰圧がかかる.そしてメスにとってはこの直後への逆方向の揺り戻しが予想できるので,例外的時期においては,そのときに傾く性の同性間競争がその後緩和されることをカウントしてさらに傾きを増やすことになるのだ.
  • 次にメスが生涯継続的に交尾するという前提を緩め,メス生涯に1回だけ交尾し,オスの精子を終生ため込めるとした.
  • これは事実上オスの繁殖ライフを(その個体の死よりあとにさえ)延長させることと同じになる.これはオスの繁殖価の齢別分布を引き延ばし,より平坦にすることを意味し,例外的な出生率の時期に性比はオスに傾き,その直後の時期には性比はメスに傾くことが予想される.


<実証>

  • これまでこのウィーレンとテイラーのモデル,そしてウエストとゴドフレイのモデルは検証されていない.性比と出生率を調べた多くのリサーチでこれらのモデルは無視されてきた.
  • しかしこれらのモデルが妥当しそうな生物種は多い.
  • 繁殖価の齢別分布がオスとメスで大きく異なり,かつ出生率の年変動が大きいという生物は多い.
  • 特に鳥類は有望なリサーチ対象であるように思える.既に何年にもわたる観察データのあるものが多く,また条件依存性比調整が実証されているものも多く,さらに個体は出生率の変動について(季節変動などを通じて)アセス可能であるように思えるからだ.


美しく興味深い(自分自身のを含む)モデルがフィールドリサーチャーから無視されている無念がにじみ出ているような部分だ.このウエスト本に触発されてこのモデルにかかる鳥類のリサーチはなされているのだろうか.