「Sex Allocation」 第11章 一般的な問題 その10

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)



次はこの性比理論の応用の問題になる.

11.3.5 応用性比

11.3.5.1 保全

絶滅危惧種保全活動において,補完的な餌供与を行うことがある.
ここでトリヴァース=ウィラード仮説によれば,(その前提条件が当てはまる種においては)より良いコンディションの母は息子を多く産み,より良くないコンディションの母は娘を多く産むことになる.
すると給餌活動の結果メスが減って保全に悪影響が出る可能性があることになる.これは実際に絶滅危惧種であるカカポの個体群に生じているようだ.実際に給餌以降性比は29%から67%に上昇している.しかし性比理論の応用によってこの現象を乗り越えることが可能だ.

  • 新しい給餌プログラムでは,メスが産卵する閾値である1.5kg以上になるまで給餌し,かつ息子を多く産み始める閾値である2kg以下に抑える様になっている.
  • これは成功し,ほぼすべてのメスが産卵し,カカポの個体群が増加に向かう方向に向かっている.

性比へ影響を与える別の介入戦略にはラジオ追跡がある.

  • ミズハタネズミに首輪型追跡装置を装着すると,(一旦装着してその後外したコントロール条件に比べ)その後に罠にかかる個体の性比がオスに傾く.
  • これについては,追跡装置はメスの条件を悪くして,競合を避けるために,より分散しない性である娘を少なく生ませるようになるからではないかと示唆されている.
  • ただし,この実験結果は再現されていないし,そもそもそのような性比調節が生じることも今まで示されてはいないので,この理屈づけはなお注意深く取り扱うべき段階だ.そして実際に個体が生んでいる性比が傾いているかどうか,さらにその傾きが局所競争条件に反応しているのかを調べるのは非常に有用だろう.
  • より一般的には,個別の個体状態や環境状態を操作することによって性比を操作し個体群規模に介入する多様な方法があるだろう.


よかれと思って保護活動を行った結果思わぬ悪影響が生じる可能性は,生態系では常にある問題だろう.それが性比を通じてという可能性はいわれてみれば当然あるだろうが,現場ではなかなか気づきにくいところかもしれない.さらにポジティブに応用できればそれは意義あることだろう.