「Sex Allocation」 第11章 一般的な問題 その9

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


11.3.4.2 比較静学(comparative statics)

比較静学とは主に経済学の分野でよく使われる用語で,時間の変化を含まない静的なモデルにおいて,パラメータを変化させると均衡がどう動くのかを分析するものだ.ウエストは進化理論の実証においてこの比較静学の手法が有効だと指摘する.

  • 性比リサーチ分野は,進化理論をテストするときに比較静学の手法がいかに有効かをはっきり示している.
  • われわれはある理論モデルをどうテストすればいいのだろうか?


エストはまず通常よく試される方法を解説する.

  • 1つの方法は,多くのパラメータを推測し,理論とデータに量的なフィットがあるかどうかを見るという方法だ.これの例としては第4章で触れたLMCに関するものがある.そこでは観察された個体群のパラメータから予測される性比と観察性比を比較した.
  • ただしこの手法にはいくつかの制限がある.
  1. モデルは常に簡略化されているので,観察データと理論予測がどこまでフィットすると期待できるかについて常に明らかであるわけではない.
  2. 同じ予測をする代替モデルを排除できない
  3. 仮にデータと理論がフィットしたとしても,ある理論が代替説明よりよりフィットしているという検証に関してサンプルサイズが1得られたに過ぎない.
  4. フィットが得られなかった場合に,どの方向のリサーチを深めるべきかの手がかりは限定的にしか得られない.
  • 性比リサーチの文脈ではある特定個体群や種に何が生じるかを正確に予測するのは難しい.例えば,哺乳類では性比は生活史戦略に大きく影響を受けるが,それは計測しづらい.さらに理論は,より状態のよい母は性比を息子に傾ける場合もあれば娘に傾ける場合もあると予測し,また全体性比もオスに偏る場合もメスに偏る場合もあると予測するのだ.


これに対して比較静学を用いるとどうなるだろうか.ウエストはその利点をこう解説する.

  • 絶対的な性比予測を行うことの難しさにに比べて.あるパラメータがある方向に動けば,個体,個体群,種の性比がどう動くかを予測するのは容易だ.
  • ある特性の変異が,それに影響を与えると予想されるあるパラメータの変異をどう相関しているかを調べる手法は比較静学と呼ばれる.

さらにウエストはこの手法の威力をいくつかの例をあげて説明している.

  1. 孤独性のハナバチやカリバチでの性比の方向を予測するのは難しい.しかし体サイズのオス/メス比に対して性比がどうばらつくかを予測することはできる.
  2. 社会性の膜翅目昆虫では,クイーンの交尾回数に対してコロニーレベルでの性比がどう変わるかをより明瞭に予測することができる
  3. 脊椎動物では,特定の種で何が生じるかを予測することができないとしても,種間で性比調節の強度がどう異なるかの予測は可能だ.

完全な性比の予測が不可能でも,あるパラメータの動きに対して性比がどう動くのかの予測が可能であるというのはある意味当たり前のような気もするが,ウエストは結構熱心に議論している.いろいろと実務的には議論のあるところなのかもしれない.