「消費資本主義!」

消費資本主義!: 見せびらかしの進化心理学

消費資本主義!: 見せびらかしの進化心理学


以前私が書評したGeoffrey Millerによる「Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior」が「消費資本主義!」という邦題で邦訳出版された.この本はヒトの様々な特徴が性淘汰産物ではないかという大胆な仮説で有名な進化心理学者のジェフリー・ミラーが人々の消費の本質について鋭く考察している一冊だ.消費には純粋に自分の楽しみや生理的欲求のために行っているものもあるが,多くの消費行動にはそれを誰かに見て欲しいという要素が含まれている(いわゆる誇示的消費).これは潜在的な配偶者に対して行っている場合(まさに性淘汰シグナル)もあれば,何らかの社会的な関わりを持つ人に対して行っている場合(地位や信頼性などのディスプレー)もある.
そして多くの人は自分の消費が何のディスプレーなのか自覚的に意識していない.しかしこの行動傾向は進化心理に深く刻まれている.それは単に趣味の良さを見せびらかしているのではなく,自分が配偶者や友人や取引相手としていかにふさわしいかをディスプレーしているのだ.
そして本書が特に面白いのは,様々な誇示的消費が実は何をディスプレーしているのかを詰めて考えていることだ.ヒトの消費ディスプレーは,多くの動物に見られるように単純な1次元的な高得点を競うようなものではなく,個性にあふれ多様でニュアンスに富んでいる.だから単純な質の高さのディプレーだとは考えにくい.ミラーは,これはヒトは一般的知性と自分の性格をディスプレーしているのではないかと考え,その線に沿って実に細かく様々な消費行動を説明してみせる.この部分は斬新で説得的だ.語り口もユーモアがあふれ面白い,そして一旦本書を読むと,人々の行動にこれまで全く気づかなかった側面があることに気づき,すべてが違って感じられる.高額商品を買うことがある人すべてにとって大変興味深い本だと思う.


私の原書の書評はこちら.http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20101009,読書ノートはhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20100220から.


原書

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

   
Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior



ジェフリー・ミラーによるヒトの様々な特徴が性淘汰産物であるという主張の書かれた本.

恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (1)

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恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (2)

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同原書

The Mating Mind: How Sexual Choice Shaped the Evolution of Human Nature

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