Enlightenment Now その66

Enlightenment Now: The Case for Reason, Science, Humanism, and Progress (English Edition)

Enlightenment Now: The Case for Reason, Science, Humanism, and Progress (English Edition)

第22章 科学 その1

ピンカーの啓蒙運動の擁護.理性の次は科学の擁護になる
ピンカーはここで,人類の最も誇るべき達成物は何かと問いかけることから始めている.そして科学こそそうだというのだ.
 

  • 人類の最も誇るべき成果は何か問われればどう答えるべきだろうか.
  • 人権という人もいるだろう.しかしこれはある意味自分自身で作ってしまった障害を取り除いたようなものだ.芸術という人もいるだろう.しかしこれらは異星人には理解できないかもしれない.
  • しかしどこまでも誇れるものが1つある.それは科学だ.まだまだ我々の無知は深いが,知識は驚くべきほど積み上がり,なお日々積み重なり続けている.(物理法則やDNAについての知識の例が引かれている)
  • そして科学はヒトについても新しい光を当て続けている.それまで知られていなかった美も見つけ続けている.そして人々の寿命,健康,富,知識,自由を増やし続けている.20世紀だけで3億人を殺した天然痘の撲滅はその一例だ.
  • これらの達成成果に照らせば,「我々は衰亡(あるいは,幻滅,無意味などなど)の時代に生きている」という嘆き節言説は皆嘘だということがわかる.にもかかわらず,科学の発展は単に低評価を受けているだけではなく,時に強く憤慨される.しかもそれらは原理主義的宗教家や知識不足の政治家からだけ垂れ流されているのではなく,我々の中のインテリ,最高学府の中からも聞こえてくるのだ.

 
ここが科学こそが人類をより進歩に導けると信じる(ピンカーも含む)リベラル派のインテリ論客としては最も歯がゆい現実と言うことなのだろう.そしてもちろん同じように科学の役割を信じる保守派の論客にとっても歯がゆい現実に違いない.ピンカーはまず保守派からの嘆きを取り上げている.
 

  • アメリカの政治家による科学への不敬はクリス・ムーニーの「The Republican War on Science」で詳しく紹介されている.政治家の科学否定振りには熱心な共和党の支持者にすら自らの組織を「お馬鹿党」だと嘆かせているのだ.(ここでジョージ・W. ブッシュ政権が学校でI. D. (創造論)を教えることを奨励したことをはじめとする共和党のお馬鹿政策が次々に紹介されている)そして科学への不敬は左派からもある.左派は原子力,遺伝子組換えに対してパニックになり,知性やセクシャリティや暴力についてのリサーチを様々な方法でねじ曲げた.

The Republican War on Science (English Edition)

The Republican War on Science (English Edition)

 

  • 本章では科学への深い敵意を考察する.多くのインテリは科学が政治,歴史.芸術などの人文分野へ干渉することに対して怒り狂う.多くの論説誌では常に科学が決定論,還元主義,本質主義,実証主義,(これが最悪の罵倒だが)科学主義の名のもとに糾弾されている.この攻撃は超党派的だ.左派は「還元主義は社会ダーウィニズムとなり,それは優生学につながって,20世紀の破局をもたらした」という言い回しを,右派は「科学は宗教と道徳を破壊し,我々の魂と人間性を否定する」という言い回しを好む.
  • これらの糾弾はでたらめだ.科学はジェノサイドや戦争の責任を問われるべきものではないし,道徳や精神的な健康を脅かすものでもない.それとは真逆だ.科学こそ人が重要だと考えることにとって必要不可欠なものなのだ.それには政治や芸術,そして意味や目的の探索や道徳についても当てはまる.

 
日本でも政治家たちやインテリたちによる科学軽視言説は多い.イデオロギー的な歪曲もアメリカほどではないが確かに見られるところだ.

このような「科学への敵意」については既に多くのところで指摘されている.ピンカーはその歴史を概説している.
 

  • 科学にかかるインテリの争いは1959年のC. P. スノーの「2つの文化」によって燃え上がった.そこでスノーはなぜ教養ある知的エリートが科学を目の敵にするのかを説明した.スノーは,それは真の芸術家や歴史や思想を探求する人文学者たちのゼロサムマインドや不安感でから来ているのではなく,文学インテリや文化批評家や博識のエッセイストたちの第2文化のせいなのだとした.

 

The Two Cultures (Canto Classics)

The Two Cultures (Canto Classics)

二つの文化と科学革命 (始まりの本)

二つの文化と科学革命 (始まりの本)

 

  • デイモン・リンカーは第2文化を「一般化についてのスペシャリスト,個人的経験からのみ世界を記述するもの,読んで判断するだけの人たちからなり,その共通通貨は奇矯さの中にある主観性だ」と表現している.これは科学と最もかけ離れた態度であり「科学主義」を毛嫌いする.
  • スノーはもちろん科学が(第2文化に対抗するために)似たような狂気の立場に立つべきだとはしなかった.彼は科学と文化と歴史を合わせた第3文化を提唱した.これはE. O. ウィルソンのコンシリエンスにつながる概念だ.

 

Consilience: The Unity of Knowledge (English Edition)

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知の挑戦―科学的知性と文化的知性の統合

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まずは政治家やインテリによる科学否定の実態を歴史を概観したということになる,ここからピンカーは科学擁護の議論を始める.