War and Peace and War:The Rise and Fall of Empires その82

 
第10章はこれまでの歴史ケーススタディから一旦離れて理論編に.ターチンのように社会の団結を重視する立場に立つと,社会で不平等や格差が拡大するのはなぜか,どのような条件でそうなるのかという問題に非常に関心を抱くことになる.ターチンは非常に単純化したモデルを取り上げている.
 

第10章 マタイ原理 なぜ豊かなものはより豊かになり,貧しきものはより貧しくなるのか その1

 

  • セキュラーサイクルは歴史において最も普遍的に見られるリズムだ.それは社会生活のほぼすべて,殺人率から建築様式にまで効果を及ぼす.セキュラーサイクルにおけるフェーズは社会経済的な不平等のトレンド(格差拡大か減少か)を決める.
  • この様相は非常に重要だ.というのは不平等は,人々の協力しようという意志に腐食的な影響を与え,それは人々の集合的な行動能力の基礎となるからだ.格差拡大は社会全体の中の富者と貧者の抗争にだけかかわるわけではない.同じ階層内の格差拡大は階層内の抗争も増やすのだ
  • 故に,格差拡大は帝国病,つまり帝国がそのアサビーヤを失う状況に大いにかかわりがある.では格差が拡大したり縮小したりする要因はなんだろうか.

 
これがターチンによる格差に関心を抱く理由ということになる.セキュラーサイクルの中で格差拡大傾向が変化するという視点は興味深いところだ.「不平等が協力しようとする意志に腐食的な影響を与える」という部分ではボウルズによるミクロ経済学の教科書による灌漑事業のケーススタディが参照されている.
 

 

  • 社会科学者は何百年も(アリストテレスやプラトンまでふくめると何千年も)この問題を扱ってきた.
  • 1つの興味深いアイデアは,格差拡大は交易によって拡大するというものだ.これはアクセルとエプスタインにより提唱されたもので,彼らはそれをシュガースケープと呼ぶコンピュータモデルに組み上げた.このモデルは「砂糖」や「スパイス」などのリソースがある仮想地形の上で,エージェントたちがリソースを集めたり交換したり消費したりするものだ.エージェントは交易を通じて需要と供給にあわせて交換レートを調整していくことになる.モデルを回すと時が経つにつれてリソースは不平等に分布するようになる.極く一部のエージェントが裕福になり,その他のエージェントは貧しくなるのだ.

 
シュガースケープが詳しく説明されているものとして次の書籍が参照されている.

Critical Mass

Critical Mass

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  • このモデルはもちろん現実とはかなり異なるが,それでもこの結果は深遠な原理を示唆している.貧困それ自体が交易条件を不利にし,その結果貧者はますます貧しくなる(富は交易条件を有利にし,富者はより富裕になる)ということだ.これはポジティブフィードバックと呼ばれるプロセスだ.社会科学者はこれを「マタイ原理」と呼ぶ.

 
というわけでターチンは格差の拡大を作り出す社会のポジティブフィードバックを考察していくことになる.