War and Peace and War:The Rise and Fall of Empires その87

 
ターチンは不平等の拡大縮小のサイクルの説明に進む.(農業経済の中では)人口が(疫病や戦争により)縮小すると経済的なメカニズムにより不平等は縮小する.それは14世紀の黒死病の世紀に生じた.しかし人口が増加に転じると不平等も拡大することになる.

 

第10章 マタイ原理 なぜ豊かなものはより豊かになり,貧しきものはより貧しくなるのか その5

 

  • 16世紀に入ると,ちょうど3世紀前と同じく人口は増加に転じた.人口増加は最初はゆっくりでその後加速した.150年で英国人口は倍になり,1300年のレベルに近づき,そして同じ結果をもたらした.16世紀末に向けて下層民の貧困が加速し,労働賃金は半減した.
  • 平民の苦難は次の貴族の黄金期をもたらした.それは彼らの派手な衣装に反映した(エリザベス朝時代の貴族の衣装が詳しく紹介されている)
  • そして支配層貴族の人口は増加に転じた.1500年の貴族院のメンバーは60名だったが,清教徒革命直前の1640年には160名になった.ジェントリーは同じ期間で5〜6000名から18500名に増えた.同期間で平民人口は倍になったが,貴族は3倍になり,社会はトップヘビーになりすぎた.

 
ジェントリーの数の推計の参照先

 

  • そしてこの時代のエリート間競争の様子は詳しく記録されている.歴史家のゴールドストーンによると,16世紀後半にはオクスフォードとケンブリッジ入学者が激増し,1640年にピークを付けた.これはより良い仕事につくための競争が激しくなったことを意味している.実際に18世紀にエリート間の競争が緩和された時にこの両大学への入学者は15世紀の数字に戻っている.そして競争激化によりオクスフォードやケンブリッジの卒業証書もよい仕事の保証にはならなかった.法廷におけるエリート間の訴訟も1640年にピークを付けている.貴族間の決闘も16世紀後半に疫病のように流行った.

 
エリート大学の入学者の数にエリート間競争の強さが現れるというのは面白い.この時代の大学入学者はほぼエリート層に限られているので,このような解釈が可能なのだろう.
 
ゴールドストーンの本

 
 
そして人口,特に貴族層の人口が増加すると,社会は不安定化することになる.17世紀の危機ということになる. 
決闘の数字の参照先 
 

  • 17世紀は,14世紀によく似た,もう1つの「悲惨な世紀」となった.すべてのヨーロッパ諸国がこれに巻き込まれた.
  • 最初に崩壊したのはフランスだ.ユグノー戦争は1560年代に始まり,1580〜1590年代には厳しい戦争となった.ルイ13世とリシュリーの時代に一旦緩和したが,1640年代にはフロンドの乱が起こった.
  • ドイツでは30年戦争が起こった.それはハプスブルグ家に対するボヘミアの反乱として1618年に始まり,30年も長引いた.スペインのハプスブルグ家はオランダの反乱と戦い続け,それは1648年にオランダの独立を認めるまで80年も続いた.1640年代にスペインはさらにカタロニア,ポルトガル,イタリアの反乱とも戦うことになった.ロシアは大飢饉や対ポーランド戦争があった「大動乱時代」(1604〜13)を迎えた.そして英国も1640〜1690年にかけて2つの革命と内戦を経験した.
  • 動乱時代は生きるにはつらい時代だが,歴史小説の良い舞台となる.その良い例がデュマの「三銃士」だ.主人公ダルタニャンのモデルは実在の人物で,リシュリー時代に頭角を現してルイ14世時代まで生きた.そこにはフランス貴族からみた動乱の時代のリアルが良く表されている.(モデルであるシャルル・ド・バツ=カステルモールがいかに典型的な余剰貴族であったか,そこから軍隊に入り,決闘を繰り返しながらどうのし上がっていったかが紹介されている)
  • 私たちはシャルル・ド・バツ=カステルモールがなぜあんなに決闘を繰り返したのかを知るわけではない.しかしその時代はフランスにおける決闘の流行の大きな波のピークであり,彼はあぶれ貴族として当然の振る舞いをしたのだろう.15世紀から16世紀初頭にかけてフランスではほとんど決闘はなかった.しかし貴族人口が増えると決闘も増え始めた.ある推計によると1588年からの20年間で7〜8000人が決闘で死んだとされている.決闘がほぼなくなったのはルイ14世時代で,それはシャルルの死の直前だった.
  • 暴力は個々人の貴族間だけでなく貴族の派閥間でも激しかった(これは「三銃士」でも描かれている).問題はダルタニャンだけが王に仕えて追加収入を得ようとしていたわけではないということだ.何千人ものあぶれ貴族がパリにいて,仕事の口は少なかった.それは機会を求める貴族の派閥同士の争いにつながった.ある派閥が勝てば,彼らは敗者のライバル派閥を完全排除しようとする.そのよい例が1617〜28年の英国でのバッキンガム公ヴィリアーズの派閥による要職独占の試みだ.

 
ここで大々的に「三銃士」が取り上げられていて楽しい.「三銃士」は子供の頃に熱中して読んだものだが,歴史的背景を理解してもう一度読むとまた楽しいかもしれない.

 
三銃士の映画はいくつかあるが,私的には70年代のこれが懐かしい.