読書中 「Narrow Roads of Geneland Vol.3」第15章 その2

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)


Ecology in the Large: Gaia and Genghis Kahn

PimmによるThe Balance of Nature に対する書評.Journal of Applied Ecologyに寄稿されたもの.(1995)

とてもいい本だとほめた上で以下についてコメントしている.
「生物集団が成熟するにつれてより絶滅しにくくなる」という本書の注目すべき主張だが,それがなぜ起こるのかがきちんと分析されていない.単にそのように多様性が得られるというのは普通の意味での「進化」とはいえない.
たとえば赤潮を起こし,突然魚食になる植物プランクトンPfiesteriaなどの生物をどう考えるのか(このような生物を‘Genghis Kahn’種と呼んでいる).このような種は人間もそうなのかもしれない.
いずれにせよこのような問題は解析的にきちんと導けるような性質ではなく,シミュレーションモデルで解析すべき問題だと思われる.集団遺伝学者として考えてみて遺伝子プールの中の多型維持の問題とよく似ている.
批判としてはまず生態系の中でここの生物の進化をあまり考えていない.そしてパラサイトの重要性が全く無視されている.特に生態学者は捕食者はよく問題にするが,病原体については割と無関心だが,これはこの問題の重要性が過小評価されている.

Spora and Gaia: How Microbes Fly with their Clouds

第11論文は海洋性微生物の適応としての雲の形成について
海洋性の藻類や微生物は化学的な誘導体を生産して分散・移動を行うように適応している.まず水面の泡に集まりクローン性のパッチ(藻類は水面にブルームを形成することがある)を作る.そこから泡がはじけるとともに離陸し,硫化メチルを放出し,水や氷の核を形成しやすくする.これにより空気中の水分が凝結し,凝固熱を放出,この熱により上昇気流を作り出す.これによりこの微生物は効果的に分散できる.
ラブロックは微生物による硫化メチルの生産は雲を作るためだと主張したが,なぜそのように進化するかは説明できなかった.ある生物個体が地球のために進化することはあり得ず,個体か,あるいはクローン性の集団のためにならあり得る.そもそも硫化メチルの前駆物質は浸透圧調整物質として進化してきたと思われ,そこから硫化メチル生産を起こすように進化するためには風速上昇による分散効果が重要である.
藻類がブルームを形成するのは海流が栄養分に富み急速に繁殖したあとで繁殖率が落ちたときや他のプランクトンによる捕食が起こったときなどであり,分散説と整合的.また硫化メチル生産モードにある藻類は赤い色をしていることが多いが(赤潮もこれの一種)これは硫化メチル生産とは独立の形質であり,おそらく紫外線からの防御適応と思われる.このこともこの分散仮説を支持している.
周囲の個体による分散ただ乗りの問題を防ぐためにはクローン的な集団はいっしょに行動することが重要になる.これは藻類のブルームがゼラチン状になっていることと整合的である.

ハミルトンの論文にしてはシミュレーションもなく短くてすっきりしている.