論文 Genetic Algorithm and Evolution

最初の論文は進化プロセスを模したシミュレーション(Genetic Algorithm 以下GA)で複数ピークのある適応地形上で最適点にたどり着くことを論じたもの.
GAとはAIの研究から開発されたもので最適な行動戦略やプログラムを探索するのに複数の遺伝子のある染色体をイメージしてそれが交配・交叉・突然変異しながら繁殖し,自然淘汰を受け最適をシミュレートするもの.この場合遺伝子の作用が完全に相加的でなく,相互作用がある場合には適応地形が複数ピークを持つ形になり,単純な探索モデルでは局地的なピークから動けないことをどう乗り越えるかが問題となる.
この論文では集団内にサブポピュレーション(デーム)を作ってそこでドリフトが起こりやすくしてさらに小さい確率でマイグレーションが起こるようにすると(パラメーターをうまく選択してやると)うまく局地的ピークを乗り越えて大域的最適点にたどり着けるというところがポイント.
それ以外の細かなポイントとしては染色体の交叉点を複数にしている(実際の染色体の交叉ポイントについてはまだよくわかっていないと思いこんでいたので,これが複数だと判明しているとはお勉強になりました)こと,また世代は重複を許していること,さらに自然選択はハミルトンが第2巻の論文でもこだわっているtruncation(特に適応度の低いもののみのぞいていく)方式.


論文の後半はこのシミュレーションの応用例として鳥の雄がさえずりと採餌をどのように時間配分しているかという問題を取り上げる.
各個体は自分のリソース量x(t)をもつ.そして閾値C(t)を戦略として持ち,昼の間リソースがこの閾値を超えるとさえずり,下回ると採餌する.染色体は遺伝子を持ち,各遺伝子は特定時刻のCをさだめる.夜には一定確率でリソースを使う.リソースがゼロになると死亡し,さえずると繁殖確率が上がる.
こうするとある時刻の閾値戦略は他の時刻の閾値戦略に大きく影響を受けるため適応地形は複雑な複数ピークを持つものになる.



このモデルを回してやるとあるパラメーターの元ではCの値が夜明けには低く昼頃からあがっていく形になる.そうするとさえずり確率は,まず夜明けに高く,リソースが減るにつれて昼頃静かになる.(森の小鳥は繁殖期に確かにこのような行動戦略をとる)そしてリソースが蓄積されると夕方にまた小さなピークが現れる.なかなか見事なシミュレーションである.



解析的に解いたときと比べるとシミュレーションはも一つ自分での納得感が薄いが,このような複雑な問題では致し方ないのだろう.応用例がいかにもナチュラリストくさくてそこは非常に面白かった.