読書中 「Genes in Conflict」 第2章 その2

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

第2章 Autosomal Killers その2

なかなか細かいところまでいろいろ書かれていて面白い.しかし所々難しい部分もあり読むスピードは鈍りがちだ.抵抗遺伝子はどのステージでどの作用に抵抗するのか,今問題になっているのは精子を殺すことなのか胎児を殺すことなのか,時々混乱してしまう.
とりあえず要約


ドライブの遺伝学
このtハプロタイプのポイントはドライバー領域の歪曲作用からの防御を行う不感レスポンダー遺伝子Tcrである.これはSmok遺伝子とRsk3遺伝子が合体してできた新しいタンパク質合成遺伝子である.
この遺伝子の転写は精子合成の最後にしか現れない.そしてこれを持つ精子のみ殺戮から守られる.そして面白いことにもしドライバーがない状態ではこの遺伝子を持つとドラッグ(この要素を持つと比率が0.5より低くなる)を引き起こす.
いろいろな状況から見て次のことが想像される.
ドライバー領域は何らかの必要なタンパク質の生産をノックアウトして致死を引き起こす.しかしTcrはこの必要タンパク質の代替タンパク質を生産することによりノックアウトをハプロ特異的にレスキューする.しかしこのレスキューは十分ではないのでt/tのホモでは不妊を防げない.また必要タンパク質と代替タンパク質ともにあると過剰になるため+/+の中ではドラッグを引き起こす.
t/+において+を持つ精子はおそらく運動性あるいは先体の機能に問題が生じて機能不全になると思われる.(ドライブの程度はメスの生殖管の状況により変化することが知られている)


Mating Systemの重要性
tの戦略は一種のスパイト.tの精子へも加害するが,+の精子により強く加害して有利になろうとする.これは精子競争がない場合にはtにとりメリットのみであるが,精子競争が起こる局面では害にもなりうる.つまり殺戮による利益の受益者が殺戮遺伝子だけなのか,そうでないかは重要である


抵抗遺伝子
抵抗遺伝子(殺戮もしないが,殺されもしない作用を持つ・・・殺戮遺伝子のうち殺戮効果のみ無くなれば容易に発生しうる)にとってもこのような競争状況は重要.特に配偶子殺戮状況で,殺戮による利益が殺戮者に限られていれば,抵抗遺伝子には野生系に比べて中立的な効果しかない.
((私見)ここはよくわからない・・抵抗遺伝子は殺戮遺伝子とヘテロになったときに有利にならないのか?減数分裂時には殺戮を免れるわけではなく,その後の精子競争の際に野生系に対して殺戮されにくいとするなら意味が通るが,そういう意味なのか?)
競争があればこの抵抗遺伝子は利益を得ることができ,殺戮遺伝子とともに増えるだとろう.そして野生系が無くなり,遺伝子プールは奇妙に表現型の現れない殺戮遺伝子と抵抗遺伝子の多型となる.
もし殺戮にコストがかかれば殺戮遺伝子はいずれ淘汰され,なくなるだろう.
逆に抵抗にコストがかかると殺戮遺伝子は残るだろう.それが野生では抵抗遺伝子が少なく,tハプロタイプが見られる理由なのかもしれない.またこのように抵抗遺伝子が少ないのでドラッグ効果を弱めるような連鎖していない遺伝子への淘汰圧は低い.


逆位への淘汰
逆位は組み替えを阻害する.なぜtハプロタイプで逆位が広まっているのか.
tにおいてドライブは2個以上の遺伝子座が関わっている.殺戮複合体はドライブによる利益が組み替えによるこれの破壊を上回ったときのみ広がる.このため連鎖がきつい方が殺戮複合体が広がる.このため殺戮複合体は動原体の近くにあることが多い.
また(殺戮/野生)(感/不感)の組み合わせでは殺戮-不感に強い連鎖が生じる方向に淘汰が働く.このため逆位が進化しやすい.
組み替えにかかるゲノム内のコンフリクトがあるということになる.ここで逆位が生じると組み替えを好む遺伝子にとって組み替えを起こす方法が難しくなるため固定しやすい.


t複合体の中の劣性致死要因
逆位が生じると殺戮に関係ない遺伝子まで連鎖してしまう.そして組み替えがないと長期間ではこの複合体は自然淘汰を受けにくくなり劣化しやすい.劣性の致死要因が多いことについてはこの要因で説明できると思われる.(ほとんどのtハプロタイプはホモで致死となる,この原因となる遺伝子は16種類見つかっている)
不妊にするよりも致死にした方が,群淘汰上も血縁淘汰上も有利になりうる.群淘汰を許す条件を満たすことはありそうもない.血縁淘汰(母にとっては不妊の子を育てるより流産の方が次の子を早くはらめるので,子から見て致死の方が包括適応度が上昇する)の条件を満たせるかどうかはよくわかっていない.