読書中 「Moral Minds」 第7章 その2

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong



第4節は互恵的協力

トリヴァースの理論の紹介はなかなかいい要約のように思う.

  1. 小さなコストと大きな見返り
  2. コストと見返りの間に時間差
  3. 同一個体との相互作用が繰り返される可能性があること


有名なチスイコウモリの紹介.
コメントとして,実際に見られる吐き戻しの80%は血縁で説明できること,他人の場合にはエラーの可能性があること,実際に吐き戻しがどの程度適応価を上げたかは計測されていないことを述べているのは注目される.

これに続いてアオカケスの実験,カプチンモンキーの実験,コットンテイルタマリンの実験が次々と紹介される.
いずれも微妙な状況下で協力戦略ととれるかもしれない行動が観察される.

そのほかの動物実験グッピーの警戒行動,ライオンのテリトリー防御,インパラのグルーミング,多くの霊長類のグルーミング,メスへのアクセスのためのイルカとヒヒのオス同盟,チンパンジーのエサ分配)などを含めて考えても,はっきりとした互恵的協力があると結論できる例はないというのがハウザーの結論のようだ.


第5節は不公平という状況に気づくかどうかということ.

ヒトは不平等を感知する強い傾向があるようだ.ハウザーは動物にもあるのだろうかと問いかける.
最初に持ち出される例は,イヌの遊びだ.この遊びにおいて大きなイヌと小さなイヌで(大きなイヌの方が自ら)ハンディキャップをつけないと仲間はずれにされる.ハウザーによると少なくとも平等に関する何かの期待があり,それに反していることがわかっていることになるらしい.

では不公平な扱いを拒否するのはどうか.
チンパンジーとタマリンの微妙な実験が紹介される.ハウザーは批判も紹介し,結論は留保しているが,不公平に反応する何らかの心理メカニズムがある可能性があるというだけでも発見だと結んでいる.


第6節はルール破りに対する罰.

数理モデルによると,協力は,だまし者とだまし者へ罰を与えないものへの罰があるときのみ進化し,安定する.ヒトは確かにこのような心理的カニズムを持っている.


動物はどうなのか.ハウザーはここでだましがあるのか,それに対する罰があるのかの2段に分けて考察している.

まずだましはあるのか.
この場合だましという言葉の定義にだます意図を要求するかどうかが最初の問題になるが,ハウザーはとりあえずそれは要求しない前提で議論するようだ.
すると当然のように動物界にはだましの信号があふれていることになる.


続いて罰があるのか.
ここでハウザーはドーキンスとクレブスにまでさかのぼって信号の理論を概説する.
さらに情報秘匿の実務的に難しい点(検知の難しさや,ある条件下で信号を出さないことはどう考えるかなど)を解説している.ここについてもハウザーは結論を示していない.


このあたりはこれまでの知見の紹介ということに絞って書かれていて,読者にとってはちょっと退屈なところだ.


第7章 第一原則


(4)食料反逆者


(5)表をつける


(6)相互拒否