書評 「恐竜学」

恐竜学

恐竜学

  • 東京大学出版会
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本書は日本人研究者により恐竜学の教科書として書かれた一冊.私が子供の頃最初に恐竜に触れた時には日本には恐竜の化石産地はなく,紹介されるほとんどの恐竜は北アメリカのものだった.現在では日本を含む世界各地で恐竜の化石発掘が進み,様々な恐竜の存在が明らかになっている.そして日本でも多くの恐竜化石が見つかり,恐竜研究も盛んになり,多くの優れた研究者を生み出すようになった.しかしなお日本では専門的な恐竜の書籍は海外で出版された本の翻訳本という状況が続いてた.そういう中で,日本人研究者により,恐竜学を広く解説しつつ,特に日本産の化石をより詳しく解説した恐竜学の教科書が企画され,出版されたのが本書になる.編者は小林快次,各章を若手研究者が分担執筆する形になっている.
 
冒頭の「始めに」で日本での恐竜発掘の歴史が語られている.小林によると転機は1980年代で,それまでは日本産の恐竜化石はかつて日本領だった樺太で発掘されたニッポノサウルスだけだったのが,1978年に岩手で(現在の日本領土における初の)恐竜化石が見つかり,以降,九州,北陸,北海道で次々に恐竜化石が発見されたという経緯になる.現在命名されている日本産(非鳥類)恐竜は13種になっているそうだ.
 

第1部 進化と歴史

 

第1章 恐竜類の系統・分類・起源

 
第1章では恐竜類全体の系統・分類・起源が解説される.全体の解説はなかなか興味深いので少し詳しく紹介しよう.

  • 恐竜は分類群としては主竜類(Archosauria)(分岐的には主竜形類>主竜型類>主竜類>鳥中足骨類>鳥頚類>恐竜ということになるようだ*1)の一分類群という位置づけられる
  • 主竜形類はペルム紀の終わりに出現,主竜型類,そして主竜類は三畳紀前期に出現した.主竜型類は三畳紀前期には直立歩行しており,三畳紀を通じて大型化を続けた.
  • 主竜類の基盤的な種はあまり知られていなかったので,三畳紀の間は偽顎類の方が多様性も高く繁栄したと考えられていたが,近年三畳紀中期の主竜類が調べられ,両系統間の多様性に大きな差はなかったと考えられるようになりつつある.
  • 恐竜類が単系統であることは研究者間で合意されている.その中の鳥盤類,竜脚類,獣脚類の系統仮説については,伝統的には鳥盤類がまず分岐し,その後竜盤類の中で竜脚類と獣脚類に別れたと扱われてきたが,2017年に獣脚類と鳥盤類が単系統で竜脚類がその姉妹群だという仮説が主張され,すぐに反論がなされ論争となっている.いずれにせよ伝統的仮説についても支持形質はさほど多くない*2
  • その他この3系統のどこに含まれるか(あるいは恐竜に含まれないのか)について意見が分かれている分類群としてはヘレラサウルス,シレサウルスがある.
  • 知られている最古の恐竜の体化石はタンザニアの三畳紀中期マンダ層から報告されたニャササウルスになる.絶対年代ではブラジルのサンタマリア層の233百万年前のスタウリコサイルスが報告されている.これはカーニアン湿潤化イベントと重なる*3.現在恐竜の起源地については南半球起源説が有力である.

 
ここから各分類群の恐竜がどのように出現し,三畳紀に多様化して世界各地に分散していったか,三畳紀末の大量絶滅でどう影響を受けたか*4が解説されている.
 

第2章~第8章 鳥盤類,竜脚形類,獣脚類

 
第2章から第8章までは恐竜の中の各分類群ごとの解説になる.記述は鳥盤類,竜脚形類,獣脚類という順序によっており,様々な研究者による分担執筆になっている.ここでは私から見て興味深い記述中心に紹介しておこう
 

  • 鳥盤類の初期分類群は小型で特殊な構造もなく,三畳紀からジュラ紀初頭にかけての化石記録が限定的であるため,鳥盤類の分類については安定しておらず,初期進化については議論が続いている.
  • ステゴサウルス類の棘状の皮骨については,成体で内部が緻密になり尾が柔軟であったと考えられるため武器として利用されたと考えられている.
  • アンキロサウルス類の尾端のこぶ状の皮骨は対捕食者防御のためと考えられてきたが,最近ズールでの検討において治癒痕のある皮骨が胴体側部のものに限られていたことから同種間闘争で用いていた可能性が指摘されている.
  • 鳥脚類の初期クレードの系統関係(エラスマリア,ラブドドント,アンキロポレクス,ドリオサウルスなど系統関係)はなお議論の最中で統一見解は得られていない.
  • パキケファロサウルス類とケラトプス類は頭部に装飾が発達することを共通の特徴とし,周飾頭類というクレードを形成する.これらの頭部装飾の機能に関しては議論が続いている.
  • ドレコレックス,スティギモロク,パキケファロサウルスは同じ地域同じ時期の地層から発見され,鱗状骨や吻部の突起の相対的位置が共通していることから,同種の恐竜の異なる成長段階を示していると指摘されている.
  • パキケファロサウルスが肥厚化した頭頂部を用いて頭突きしていたとする説は古くから提唱されている.最近,頭頂部に頭突きの際の応力を逃がす構造がないという指摘に対して,構造解析からは逃がすことが可能という反論があったりして,いまだに議論が続いている.
  • 中国遼寧省から発見されたプシッタコサウルスの標本から,全身のウロコの詳細,尾の背側に並ぶ剛毛状の繊維構造が見つかっている.またメラノソームの検討からカンターシェーディングとして機能する体色があったと考えられている.
  • セントロサウルス亜科では頭頂骨と鱗状骨で形成されるフリルにある装飾の形態的多様性が高い.フリルの機能に関しては,性的ディスプレイ説,種間ディスプレイ説,防御説,温度調節説などの様々な仮説が提唱されている.
  • ケラトプス類の最も良い保存状態の皮膚化石は”Lane”と呼ばれるトリケラトプス化石のものだが,詳細な研究は行われておらず,学会での報告にとどまっている.

 

  • 竜脚形類全体の化石記録は三畳紀後期カーニアン期から白亜紀末期までに渡り,産出地域も全大陸で確認されている.
  • 最初期の竜脚形類(Sauropodomorpha)は二足歩行で歯には鋸歯を備えていることから,肉食性,あるいは雑食性であったと考えられている.そこから派生した竜脚型類(Sauropodiformes)で四足歩行に移行した.さらに派生した竜脚類(Sauropoda)では四肢は屈曲に適さず,肩帯・腰帯とともに頑健化して重量化が可能になった.さらに派生した真竜脚類(Eusauropoda)では含気化された脊椎と癒合した仙椎が獲得されて巨大化への基礎となったと考えられている.
  • 竜脚類は肩帯,腰帯.四肢ががっしりりており,基盤的な竜脚形類と大きく異なる運動性能だった.前肢は趾行性,後肢は蹠行性だ.幅広い吻部や短い首,短い前肢や低い胴椎神経棘を持つ竜脚類も多く,一概に竜脚類がキリンのようなハイブラウザーであったと解釈するのは難しい.
  • 新竜脚類(Neosauropoda)は真竜脚類から派生したクレードで,ディプロドクス上科とマクロナリス類(ティタノサウルス形類が含まれる)という2大クレードを持つ.

 

  • 基盤的な獣脚類の系統関係については議論が続いている.最基盤的な獣脚類を除くある程度派生的なグループは新獣脚類(Neotheropoda)と呼ばれる.本書ではスピークマン(2021)に従い,新獣脚類はコエロフィシス上科と(アヴェロストラ類を含む)その姉妹群に分かれるとする.
  • 基盤的な新獣脚類はスレンダーで首と尾が長いのが特徴になる.軟組織の報告は乏しく,繊維状かもしれない痕跡が見つかっているが,羽毛かどうかについては意見が別れている.
  • アヴェロストラ類はケラトサウルス上科とテタヌラ類からなる.ケラトサウルス上科はジュラ紀中期から各地域に放散し,白亜紀に多様性が最大になった.
  • 従来,テタヌラ類の中でメガロサウルス上科,アロサウルス上科,コエルロサウルス上科が単系統で属するとされてきた.しかし現在メガロサウルス上科の単系統性は疑われており,コエルロサウルス類の姉妹群にカルノサウルス類があり,カルノサウルス類の中でスピノサウルス科,メガロサウルス科,アロサウルス上科が単系統を形成するとされている.スピノサウルス科,メガロサウルス科は真の意味で巨大化を達成した最初の獣脚類クレードになる.
  • コエルロサウルス類は鳥類を含む派生的な獣脚類恐竜のクレードになる.ジュラ紀中期以前に誕生し急速に世界的な分布を達成した.
  • 基盤的なコエルロサウルス類には,コンプソグナトゥス科,ティラノサウルス上科,オルニトミモサウルス類が含まれる.コンプソグナトゥス科は小型の恐竜で,シノサウロプテリクスは非鳥類恐竜で初めての羽毛恐竜の化石として知られる.
  • (ティラノサウルス類の)ディロングの化石の尾の部分に原羽毛が見つかっている.片方でティラノサウルス,アルバートサウルス,ゴルゴサウルスなどの化石の首,腰,腹や尾の部分には小さなウロコが見つかっている.
  • 派生的なコエルロサウルス類にはアルバレッツサウルス類,テリジノサウルス類,オヴィラプトルサウルス類,スカンソリオプテリクス科,さらに近鳥類が含まれる.
  • アルバレッツサウルス類は小型化の進化傾向を示している.モノニクスはツチブタやセンザンコウに似た生態的ニッチを占めていた可能性が提唱されている.
  • 派生的なテリジノサウルス類は歯があまり発達せずクチバシがあり,植物食か雑食と考えられている.テリジノサウルスの上腕骨は大きく発達しており,枝をたぐり寄せるために使われたと考えられている.
  • オヴィラプトルサウルス類のカウディプテリクスは前肢に翼を持っていた.羽根の形状や短さから飛翔ではなくディスプレイの役割を持っていたと考えられている.
  • スカンソリオプテリクス科は中国のジュラ紀中期から後期の地層からしか発見されていない.獣脚類の中でも最小級の恐竜で,様々な特徴が樹上生活を示唆している.イーの前肢には飛膜の存在が確認されており,滑空していたと考えられている.

 

  • 近鳥類は鳥に進化していくクレードの鳥翼類とその姉妹群であるデイノニコサウルス類からなる.後者にはドロマエオサウルス科(デイノニクス,ヴェロキラプトル,ミクロラプトルなどが含まれる),トロオドン科が含まれる.
  • 基盤的な鳥翼類の系統関係は複数提案されていて議論が続いている.(本書では基盤的なグループから順に,近鳥類>鳥翼類(含むアンキオルニス,アーケオプテリクス)>尾端骨類(含むコンフキウソルニス)>鳥胸類(含むエナンティオルニス)>真鳥形類(含むヘスペロルニス)>新鳥類というクレードの系統樹に従っている)
  • アンキオルニス類(トロオドン科に含める説もあるが,本書では鳥翼類に含める)は中国東北部でのみ見つかっており,その多くの化石には羽毛が保存され,前後肢に翼が確認されている.
  • ゾルンホーフェンで見つかったアーケオプテリクスとして知られる標本には12体あるが,すべてアーケオプテリクスに属するかが議論されている.これまでの化石記録からはアーケオプテリクスは非常に短い期間(70万年)狭い範囲(2400平方キロ)に生息していたと考えられる.
  • 尾端骨類の基盤的なグループにコンフキウソルニス(孔子鳥)が含まれる.この段階で(小さいながら)胸骨が現れ腕(翼)の振り上げのための筋肉が発達しているが,竜骨突起はなく大胸筋も小さく振り下げの力は弱く,翼も小さいため動力飛行ではなく滑空飛行していたと考えられる.前肢の爪はその湾曲具合から(それまでの樹上性のものではなく)捕食性の爪と考えられる.このグループにも無歯化を伴うクチバシがあるが,新鳥類のものも含めて何度か独立に収斂進化したものと考えられる.
  • 鳥胸類は中生代で化石数と種の多様性の点で最も成功したグループの1つになる.エナンティオルニス類の小型のものは様々な骨格特徴から見て(現生鳥類ほどではないが)ある程度の飛翔能力があったと考えられる.
  • 真鳥形類の基盤的なグループにはホングシャノルニス科やヘスペロルニス形類が含まれる.前者は細長い後肢を持つことなどから見て海岸や河辺に住んでいたと推測され,後者はさらに水生適応し潜水鳥類に進化していったグループになる.
  • 中生代の新鳥類の化石にはヴェガヴィスとアステロルニスのものがある.前者は新鳥類の起源が白亜期末の大絶滅前であることを初めて裏付けたものだ(ただし異論もある).後者は保存のよい頭骨が残されていてキジカモ類と結論されている.

 

第2部 古生理学と古生態学

 
第2部は第9章から第19章までかけて恐竜の生理と生態が扱われている.内容的には,卵殻化石,繁殖様式,成長,雌雄(性的二型),姿勢,足跡,神経系,呼吸系,食性,皮膚・羽毛,発生,タンパク質,絶滅などが扱われている.ここも興味深かったところを中心に紹介しよう.
 

  • 卵化石の大半は卵殻の化石になる(稀に卵殻膜,胚の骨が保存されている).
  • 卵殻化石にはそれ自体の「卵の副分類法」による分類体系が用いられており,卵の特徴に基づいて階層分類がなされている(現在およそ21の卵科,74の卵属,160の卵種が認められている).また卵殻の形質を用いた系統解析も盛んに行われている.
  • かつては主竜類の祖先種がすでに硬質の卵殻を持っていたと考えられていたが,精密な化学分析により,翼竜類,一部の恐竜類はある程度柔軟な卵殻を持っていたことが判明している.系統解析によれば主竜類の祖先種が柔軟卵殻で,偽顎類の系統で1回,恐竜類の系統で3回独立に硬質卵殻が獲得されたとされている(ただし異論もある).

 

  • 恐竜類の集団営巣跡がしばしば報告されている.ハドロサウルス科,テリジノサウルス類,トロオドン科では親による巣の保護が指摘されているが,竜脚形類の集団営巣跡では巣が密集しており,親による保護が考えにくい状況である. 
  • 恐竜類の求愛行動についての研究は限られているが,ティラノサウルス科については成体か成体に近い年齢の個体にのみ頭部の傷跡が頻繁に見られ,それが標本の半分だけであることから,性成熟に関連した片方の性の個体間の種内闘争であったと解されている.

 

  • ランベオサウルス亜科ではかつてトサカのあるなしで別種とされていたものについて,成長段階における頭蓋形態の変化を解析し,分類群の統合が行われた.同様にトリケラトプスとトロサウルスが同種であるという主張もあるが,この仮説には反論も多い.
  • 最近の骨組織学的検討から,ワニ類,翼竜類,恐竜類の共通祖先より以前の段階(主竜類の起源期)にはすでに骨の高成長率が獲得されていたことが示唆されている.そうであれば現生のワニ類の低成長率は二次的に獲得された形質であることになる.
  • 恐竜の成長曲線,成長率,体温,基礎代謝率の研究は近年大きく進んでおり,様々な手法で推定され,様々な仮説が提出されている.今後も推定手法の改善が期待される.

 

  • 骨格の頑強性と腰帯付近の形態(血道弓など)から解析された(主に獣脚類,竜脚類の)性的二型の報告は多いが,血道弓を用いた性的二型の報告には異議も出されている.
  • 鳥盤類においてはケラトプス類のフリルや角,ハドロサウルス科のトサカ,ステゴサウルス類の背部皮骨などの装飾形質に基づいた性的二型の検討がなされているが,異論も多い.

 

  • 恐竜の直立姿勢(移動様式)が当時のほかの爬虫類に比べて優れていたというのは古くからある仮説だ.しかし研究が進むにつれて,直立型の姿勢は三畳紀前期のうちに主竜型類の中で一般的であったことがわかり,恐竜の優位性仮説は否定され,三畳紀末の絶滅を「運良く」生き残ったためにジュラ紀以降に繁栄したと考えられるようになっている.
  • 恐竜の二足歩行は高速移動(走行性)と関連して三畳紀に進化したと考えられている(異論もある).二足歩行から四足歩行への進化は少なくとも4回(竜脚類,装楯類,角竜類,ラブドドン類)生じている.
  • 少し前まで,マニラプトル類から鳥類にかけての脳の巨大化は飛翔能力と関係があるとされていた.しかし近年の研究では脳の巨大化に飛行がかかわるという進化パターンを見いだすことはできないという結論に至っている(ただし,小脳片葉や中脳視葉の拡大については関係性が指摘されている).

 

  • 呼吸器系にはガス交換表面積とコンプライアンス(肺の伸展性)間のトレードオフ問題がある.哺乳類系統では横隔膜を駆動力としてコンプライアンス性が低い肺を伸展させるとともに微細肺胞が多数集合した表面積の大きい肺を発達させた.双弓類においてはポンプの部位とガス交換を行う部位ヘの機能分化により問題に対処した.
  • 鳥類では高いコンプライアンスを持ちポンプとして働く気嚢とガス交換を行う複雑で緻密な肺の機能分化が進んでいる.鳥類型呼吸は哺乳類型と比べて特に低酸素環境で有利になる.非鳥類恐竜,特に獣脚類については胸郭の形態や複数部位の気嚢の証拠から同様の機能分化した呼吸系を発達させていた可能性が高い.竜脚類においても派生的なグループにおいて気嚢システムが発達していたようだ.鳥盤類については気嚢システムの証拠は得られていない.しかしどちらもおそらく鳥類同様の機能分化した呼吸系を持っていたと考えられる.

 

  • 食性は歯の形状から推測できる.竜脚類は木の枝から葉をむしり取っていただろうし,鳥盤類も基本的に植物食性とされている.獣脚類の歯は刃状のザイフォドント,葉状のフォリドント,肥厚のパキドント,円錐状のコニドントと4つに分けられる.フォリドントは植物食性の指標とされており,トロオドンはこの葉の形状から植物食もしくは雑食性が示唆されている.パキドントは骨をかみ砕くのに使われ,これを持つティラノサウルス科,アロサウルス,ドロマエオサウルス科は肉食恐竜の中での頂点捕食者とされる.コニドントは魚食性の指標とされるが,関連性が薄い場合もある.
  • ドロマエオサウルス属の足の鍵爪は獲物を切り裂くためのものであるという可能性が指摘されていたが,近年はロボットを使った実験などによって否定されている.

 

  • 獣脚類恐竜に多くの羽毛恐竜が含まれ,鳥類が恐竜の直系子孫であることは広く認められている.片方で鳥盤類,竜盤類のどちらの恐竜からもウロコの化石が確認されている.
  • 羽毛恐竜が飛翔できたかどうかについては様々な議論が続いている.現生鳥類の飛翔研究の発展とあわせて総合的に検討が必要な分野となっている.
  • 恐竜の色彩についてはメラニン色素研究の成果が先行している.プシッタコサウルスではカウンターシェーディングがあったとされている.カロチノイド系の色を系統分析や食性から推定する試みはあるがまだまだ研究が必要な段階と思われる.また構造色についても研究がいくつか出されている.

 

  • 恐竜の胚の化石記録は非常に限られているが,稀に骨化が始まった発生後期の胚の化石が見つかることがある.胚の歯に残る日輪構造から産卵から孵化までの日数の推定するなどの試みが行われている

 

  • 化石から抽出されたタンパク質の研究分野はパレオプロテオミクスと呼ばれる.恐竜についてもいくつかの報告がある.タンパク質はDNAより遥かに安定で古い化石からも抽出可能だが,DNAとことなり増幅できないという難しさもある.

 

  • K/Pg境界の大量絶滅の天体衝突説は,30年にわたる議論を経て現在では広く支持されている.最新の研究を総合的に踏まえると,大量絶滅した恐竜を含む生物は,天体衝突から数年以内に姿を消した可能性が高い
  • デカントラップと呼ばれる大規模玄武岩噴出説はかつては対抗仮説とされていたが,これでは境界での突発的絶滅が説明できず,現在では大量絶滅の主因としては否定されている.また玄武岩噴出の環境負荷で白亜期末の生態系に抑圧がかかっていて,天体衝突はとどめの一撃だったという説(プレスパルス絶滅モデル)も,衝突の環境変動がかつて考えられていたより遥かに大きかったこと,抑圧がかかっていた証拠がないことから現在では考慮すべき理由がないと考えられている.
  • 白亜紀後期の恐竜の多様性変化の統計解析も進んでいるが,白亜期末まで高い多様性を維持していたという説と数千万年スケールで徐々に低下していたという説の間で議論が続いている.しかし白亜期末まで多様な種が存在して当時の生態系の主要な地位を占めていたこと歯広く認められている.
  • 鳥類もK/Pg境界で突発的かつ高い絶滅率を示している.北米の基盤的鳥類7種はすべて絶滅している.また樹上性の鳥類が絶滅したのに対し,地上性の鳥類の一部が生き延びて地上性グループから古第三紀以降の樹上性の鳥類が進化している.
  • 天体衝突のインパクトには,短期的(数日)な高温プルーム(大気加熱+260℃),衝撃波,巨大地震,津波,森林火災,中期的(数年)な寒冷化(ー20℃),乾燥化,オゾン層破壊による紫外線放射増加,酸性雨,そして長期的(数十万年)な温暖化(+5℃)があったと考えられている.

 

第3部 日本の恐竜

 
第3部ではこれまでに発見報告された日本の恐竜が発掘場所ごとに詳しく解説されている.骨格のごく一部のみ出ている化石類についてもそれぞれどのような恐竜のどの部位らしいかが解説され,さらにもちろん新種として記載された様々な恐竜について詳しく解説がある.
種レベルで記載された登場恐竜は(発見当時日本領であった)南樺太からのニッポノサウルス(原始的なハドロサウルス類),パラリテリジノサウルス(派生的なテリジノサウルス類),カムイサウルス(ハドロサウルス科)(以上北海道),アルバロフォサウルス(角脚類),アジアノポダス(獣脚類の足跡化石)(以上石川県),フクイラプトル(メガラプトル類),フクイサウルス(イグアノドン類),コシサウルス(ハドロサウルス類),フクイティタン(竜脚類),フクイプテリクス(原始的鳥類),フクイヴェナトル(原始的なマニラプトル類),ティラノミムス(デイノケイルス科),ブラジウーリサス(鳥類の卵殻化石)(以上福井県),ラプリズマトウーリサス(トロオドン科もしくはそれに近いクレードの卵殻化石)(岐阜県),タンバティタニス(ティタノサウルス形類),ニッポノウーリサス(マニラプトル類の卵殻化石),ヒメウーリサス(小型獣脚類の卵殻化石),サブティリオリサス(小型獣脚類の卵殻化石),ササヤマグノームス(ネオケラトプス類),ヒプノヴェナトル(トロオドン科),ヤマトサウルス(ハドロサウルス科)(以上兵庫県),ムルテイフィスウーリサス(卵殻化石)(山口県),ワキノサウルス(メガロサウルス科)(福岡県)になる.

 
以上が本書の内容になる.端正な教科書で,日本の恐竜に関して特に詳しいというのが特徴になる.本書の内容を読み込んだ上で日本各地の博物館の恐竜展示を回るのも楽しそうだ.
私が最初に恐竜に熱中した子供時代には,恐竜本に日本の恐竜は全く登場せず(そういう意味で恐竜ではないがフタバスズキリュウの発見は衝撃的だった),恐竜といえば北米,ヨーロッパ,そしてモンゴルのものが中心だった.現在では日本でもこれだけ新種が記載されているというのは胸熱な展開というほかはない.研究がどんどん進んでいる分野でもあり,定期的な改訂アプデート,第二版第三版の出版に続いてほしいと願わずにはいられない.
 
関連書籍
 
最近の邦訳された恐竜教科書.私の書評は,それぞれ https://shorebird.hatenablog.com/entry/2022/01/27/105855 https://shorebird.hatenablog.com/entry/20150820/1440029130https://shorebird.hatenablog.com/entry/2019/09/20/075035
 

 
同原書

*1:ワニは主竜類の中の偽顎類の一分類群,翼竜は鳥頚類の仲の翼竜類ということになる

*2:なおそれまでの恐竜の定義が「鳥類とトリケラトプスの最も新しい共通祖先およびその子孫のすべて」であったので,この新説はそこにテクニカルな問題(新説が正しければ竜脚類が含まれなくなる)を生じさせることになる.ただし,鳥盤類,獣脚類,竜脚類の共通祖先およびその子孫のすべてが恐竜類だという認識は共通なので,混乱は生じていない

*3:このイベントが恐竜類の出現の契機になったという説が提唱されている

*4:かつては恐竜が運良く生き延び,偽顎類が絶滅して空白になったニッチを埋めるように適応放散したという説が有力だったが,現在では恐竜の多様化,大型化は三畳紀にある程度進んでいたことが明らかになり,恐竜には何らかの優れた点があったことと,偽顎類の絶滅の影響の双方の影響があったという説の方が有力になっているそうだ