「植物の生存戦略」

植物の生存戦略―「じっとしているという知恵」に学ぶ (朝日選書 821)

植物の生存戦略―「じっとしているという知恵」に学ぶ (朝日選書 821)




朝日選書の一冊.植物の戦略ということで,進化戦略ものかと思い購入して読み始めてみると,究極因より至近因のところに焦点が当たった読み物だった.本の作りとしては特定領域研究班メンバーがサイエンスライターと協力しながらつくったという合理的な取り組み.文体やスタイルが統一されているし読みやすい本に仕上がっていると思う.


至近因に注目して最近の分子生物学的な進展に合わせた研究の最前線であり,特にエボデボの視点が加わっているので,非常に斬新な内容だ.研究者の熱意や興奮も伝わってくるところも買える.


中身的には植物の身体のつくりの概説のあと,葉の形を決める遺伝子や花を咲かせる物質,花を作る仕組みなどの話が続く.花粉管による受精の仕組みをとらえたという興奮の報告のあとは,いかに根の形が定まり,根粒菌と共生していくかという話だ.土壌中の微生物との共生の部分は生態的にも興味深かった.垂直感染するわけではないので,常に土壌中にある菌を探して取り込んで行かなければならないのだ.また共生も単に根粒菌があれば有利というような単純なことではなくいろいろなトレードオフがあるらしい.維管束の形成に,成長の調節,最後に遺伝子を特定した上での人為選択による有用品種の確立の話題が収められている.


このような話を読みながら考えてみると,動物と異なって神経中枢が無いわけだから,何らかの環境に応じて形質を発現させる仕組みというのは非常に巧妙にできているはずだということに気づく.そのあたりがこのような研究のおもしろさなのだろう.エボデボの発展や威力もかいま見え,楽しい仕上がりの本であった.