読書中 「The Evolution of Animal Communication」第4章 その2

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)



第2節は鳥類の攻撃ディスプレー
鳥類ではオスの闘争に頭突きや羽ばたきなどのディスプレーが見られる.


まずのその解釈の歴史.
当初それはその後の発信者や受信者の行動を予測できるシグナルだとされていた.
カリル(Caryl 1979)はゲーム理論の枠組みを使い,攻撃信号は信頼性も,効率性もないはずだと議論し,実際に信号後の攻撃行動が50%しかないと主張した.これはメイナード=スミスの議論に沿っている.


サーシィたちはアンクイストのモデルで議論する.
アンクイストのモデルでは以下がESSとなる.

自分が強ければ,ステップ1でA,ステップ2で,相手がステップ1でAなら攻撃,Bならもう一度Aをディスプレーして,相手が引かなかったら攻撃.
自分が弱ければ,ステップ1でB,ステップ2で,相手がステップ1でAならあきらめる,Bなら攻撃.

Aは常に攻撃を意味するわけではない.もし強弱個体の頻度が50:50ならAの後の攻撃確率は50%にすぎない.つまりこのモデルの通りであれば,信号は全般的な攻撃性や攻撃能力を示すものであって,次の行動を示すものではないのだ.(これは次の行動を示す信号が不可能だといっているわけではないことに注意)



つづいて野外観察で信号と受信者の反応を観察したリサーチの紹介.


トークスのアオガラの観察(1962)
受信者の反応を攻撃,回避,とどまる,の3つに区分.発信者が攻撃したケースは別の要因の混入リスクがあるのでデータからのぞいた.発信者の8つのディスプレーと受信者の行動を随伴分析すると8つの信号のうち.7つで受信者の行動が有意に変化した.例えば,冠を上げると受信者が回避する確率は37%から3%に減少,翼を上げると受信者の回避確率は27%から48%に上昇した.これは受信者は反応することを示している.

信頼性のリサーチ

トークスのアオガラの観察(1962)
攻撃ディスプレー(もっとも攻撃を予測できるディスプレー)のあと攻撃した確率は49%,しかし回避ディスプレー(同じ)のあと回避した確率は94%だった.アオガラの行動パターン全体で回避の方が攻撃の2倍頻度が高いことにも注意が必要だが,ランダムだとしても何らかの確率を予測できるデータがあるのは事実だ.
そして随伴分析を行うと,例えば身体を水平に動かすディスプレーのあとの攻撃の確率は40%だが,それがないときの確率は7%などの結果が得られた.

ポップ(Popp 1987)のアメリカオウゴンヒワの観察.冬の餌台での行動をヴィデオにとって解析した.ディスプレーは3種類;弱い頭突き,強い頭突き,羽ばたき だ.この順番で相手はより退却する.そして発信者の攻撃もこの順番に確率が高い.ポップの線形対数モデルを使って信号が受信者の反応に関連し,反応は次の発信者の行動に関連していることを示した.これらの連関をコントロールして分析しても信号は発信者の次の行動の予測力があることを示した.
ポップはとらえたオウゴンヒワを飢えさせるとより攻撃ディスプレーが強くなることを確かめた.

サーシィたち信号は何らかの信頼性があると考えてよいと結論づけている.


コストはどうだろうか

まず,ディスプレー自体にコストはないから何らかの受信者の反応にコストを求めるべきだと論じて,より強い信号はより攻撃されやすいか,より怪我をしやすいだろう.それぞれ報復コスト,怪我コストと呼ぶことを提案している.しかし微妙によくわからない.前者は闘争に伴うエナジーで後者も文字通り怪我という意味だろうか?それとも怪我コストは負けたときのみという意味だろうか?

アンクイストのモデルは報復コストで,ザハヴィの説明はむしろ怪我リスクを強調している.さらに実証リサーチは報復コストに集中しているということらしい.

ポップのオウゴンヒワの観察では,弱い頭突き,強い頭突き,羽ばたきの順番で相手はより逃げ出しやすいし,発信者は攻撃者しやすく.さらに受信者も攻撃しやすいのだ.同じ信号が,相手をより逃げ出させ,そして同時により攻撃させるというのは矛盾しているようだが,これこそ信号にコストがあるということを示している.

ワーズ(Waas 1991)はコガタペンギンで報復コストと怪我コストを論じた.実際の5つのディスプレーのうち攻撃ディスプレーはは相手の回避には意味があったが,逆に相手の攻撃について意味があったのは攻撃ディスプレーのうち1つだけで服従的ディスプレーでより相手の攻撃を招いた.ワーズは攻撃ディスプレーには実際に弱い部分を攻撃しやすいところに位置させるので怪我リスクが高いのだろうとコメントしている.しかし定量的なリサーチはされていない.

ここでのサーシィたちの結論はさらにリサーチが必要だというものだ.


最後にだましについて.
攻撃ディスプレーにだましの要素があるかどうかはわかっていない.それはリサーチは(結局それが示しているのではないかもしれない)次の行動を見るということでしか進められないし,その他の要因をコントロールすることも難しい.だからある信号がだましかどうかを知ることは非常に困難だという事情があると説明している.このあたりは確かに難しそうだ.



第4章 利害が反するときの信号


(2)鳥類の攻撃姿勢ディスプレー