「ダーウィンの「種の起源」」


名著誕生2 ダーウィンの『種の起源』

名著誕生2 ダーウィンの『種の起源』



シリーズ「名著誕生」の一冊.これはアメリカの出版社アトランティックマンスリープレスのBooks that Changed the Worldシリーズが邦訳されたものである.シリーズとしては「種の起源」のほかにマルクスの「資本論プラトンの「国家」「コーラン」「聖書」ホメロスの「イリアス」と「オデュッセイ」アダム・スミスの「国富論」などがラインアップされている.

著者はジャネット・ブラウン.Charles Darwin: Voyaging. (Volume I of a Biography), Charles Darwin: The Power of Place. (Volume II of a Biography) という2巻に渡るダーウィンの伝記の著者として有名である.これは残念ながら邦訳されていないが,本書はそれの要約版ともいえる短めの本である.また「種の起源」を巡る論争や,ダーウィンの死後の自然淘汰理論の盛衰,近時のアメリカの原理主義的な動向までスコープに入っている.


ダーウィンの一生については,簡潔にしかし要点はもらさずきびきびとまとめている.生い立ち,エジンバラケンブリッジの日々,医者から牧師へのキャリア転換,ビーグル号,学者としてのデビュー,名声,進化への洞察,ウォーレスの登場と「種の起源」,健康状態,研究の継続と論争,そして死.訳も見事で引き締まった文体が小気味よい.

種の起源」がもたらしたインパクトについては生物学に与えた影響より社会全般に与えた影響によりフォーカスしている.19世紀前半であればとても受け入れられなかったであろう主張が時代の変遷とともに20世紀には十分受け入れられていく様子や,それがスペンサーたちによって当時の資本主義と結びついて行きすぎていく様子がうまく描かれている.
生物学的な影響についての扱いは小さくやや散漫である.現代的総合の扱いも小さいし,ハミルトン革命についても扱われていない.現代的な生物学が幾多の論争を越えてダーウィンの主張に大きく依存しているところに言及があっても良かったとの読後感である.


簡潔なダーウィンの伝記,「種の起源」を巡る歴史を知る本として推薦できる.





関連書籍


Darwin's Origin of Species: A Biography (BOOKS THAT SHOOK THE WORLD)

Darwin's Origin of Species: A Biography (BOOKS THAT SHOOK THE WORLD)

原書


Charles Darwin: Voyaging : A Biography

Charles Darwin: Voyaging : A Biography

Charles Darwin: The Power of Place

Charles Darwin: The Power of Place

本書の著者によるダーウィンの伝記




ダーウィン―世界を変えたナチュラリストの生涯

ダーウィン―世界を変えたナチュラリストの生涯


有名なムーアとデズモンドによる伝記.現在日本語で読めるダーウィンの伝記ではもっとも詳しくて良いものだと思われる.上記ジャネット・ブラウンのものと双璧か.


ダーウィンと家族の絆―長女アニーとその早すぎる死が進化論を生んだ

ダーウィンと家族の絆―長女アニーとその早すぎる死が進化論を生んだ

これは娘アニーの死に焦点を絞ったものでなかなか味わい深い.


ダーウィンの足跡を訪ねて (集英社新書)

ダーウィンの足跡を訪ねて (集英社新書)

旅行記だが,さらっとダーウィンの生涯にもふれてある.


ダーウィン自伝 (1972年) (筑摩叢書)

ダーウィン自伝 (1972年) (筑摩叢書)

自伝もある.



The Autobiography of Charles Darwin (Thinker's Library)

The Autobiography of Charles Darwin (Thinker's Library)