- 作者: アンギボンズ,Ann Gibbons,河合信和
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2007/08
- メディア: 単行本
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本書はヒトの最古の化石発見を巡る物語であり,著者は「サイエンス」誌の主席ライターであるアン・ギボンズである.ヒト祖先のすべての化石ではなく,あくまでその時点時点での「最古」の化石の発見とその解釈に焦点が合わせられている.ジャワ原人からはじまり,レイモンドダートのアフリカヌス,そしてなつかしいラマピテクスから最新のオロリン,トゥーマイまでが取り上げられている.途中ではもちろん分子時計による衝撃やピルビームの全面降伏などの話題もあり,学説史を眺める様に概観できるのが楽しい.
しかし本書の最大の特徴は衝撃的にまで生々しく語られる化石発見を巡る学者たちの人間模様と確執だ.最古のヒト化石はメディアの注目の的であり,学者の名声と莫大な研究資金の獲得に大きく関わってしまうためここには熾烈な物語が生じるのだ.リーキー一族によるケニア支配とそれに反発する学者たち,途上国の発掘許可を巡る微妙な政治状況やかなり危ない橋を渡って逮捕までされる幕間劇,どこまでも平行線をたどるライバル学者たちの応酬がたっぷり収録されている.
セラシエとゼイトラーの遺跡発掘場所の先占権を巡る争いもすごいが,特にすさまじいのがオロリンの発見者ピクフォードとヒル,ホワイト,ブルネとの確執だ.
化石を独占していればその間それに関する研究については出し抜かれることがないという特殊な状況と,ヒト以外の化石とヒト化石ではまったくかかっている掛け金が異なることからくる帰結のようであるが,まさに現代版のオスニエル・マーシュとエドワード・コープの化石抗争のようでただただ迫力に圧倒される.現存する人たち双方からインタビューを行いこのような書物を出版するのは結構難しいことのようにも思われ,迫力を感じざるを得ないできばえだと言えよう.
学説史的にはルーシーの発見以後化石発見がしばらく途絶えていた後に,急にラミダスやアナメンシスが発見され始める背景にはエチオピアのクーデターがあったこととか,イーストサイドストーリーの栄枯盛衰などが参考になるし,アルディピテクスやアナメンシス,オロリンやチャデンシスをどう考えておけばいいのかについても発見者のバイアスを取り除いて考えるのに役に立つように思う.しかしとにかく本書を読む方はピクフォードの暴走ぶりを十分に楽しめるだろう.
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