読書中 「The Evolution of Animal Communication」第4章 その7

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)


第4章の最後にはカエルのコールに関連して哺乳類のコールについても少しふれられている.これは同じようなことが哺乳類にもあるのではないかと議論になっているようだが,サーシィたちは哺乳類については否定的だ.
まずマーチンによると声帯の長さは,音声の周波数と相関はない.そしてフィッチとハウザーによると哺乳類では喉頭や声帯の長さは進化的に身体のサイズに対しての制限は緩い.考えてみると男性と女性の声からいっても身体の大きさによって声の周波数が強く制限されていることはあり得ないことはすぐわかると説明している.説得的だ.当然ながら実際に観測してもヒトにもアカシカにもニホンザルにも身体の大きさと声域には相関はなかったとしている.


別の身体サイズの信号の候補はコールの長さだ.これは肺活量と関係があるかもしれない.しかしやはりサーシィたちは進化的には気嚢を作ったりして肺活量の制限から逃れることができると否定的だ.


さらに別の候補として母音の分散(formant dispersion 母音間のスペースの平均ということだろうか?よくわからなかった)が議論されているようだ.
もし声道が単純なチューブなら母音間のスペースは声道の長さと逆相関するはずだと議論されるようだ.フィッチとハウザーは声道の長さはより強く進化的に制限されているだろうと示唆している.サーシィたちはこれにも一般的には否定的で,それでも喉頭を下げるなどでこれをくぐり抜ける方法はあるだろうといっている.
これについてはデータはいろいろあるようだ.


観測ではリーサスモンキーとイヌで身体サイズと母音分散には相関が見られている.(それぞれr2=0.78, 0.77)しかしヒトでは相関はない.
アカシカは実際にほえるときに喉頭を下げているので面白い例になると取り上げている.すべての個体が最大に喉頭を下げるならこれは正直な信号になるだろう.レビーとマッコム(Reby and McComb 2003)によるとアカシカは実際に常にそうしているわけではないようだが,それでもr2=0.39で相関が見られる.結論としてアカシカの吠え声は例外的に身体サイズの信号になっていると認めている.


最後に利害が相反するときの信号の結論がまとめられている.

見てきた4つの競争的な信号(鳥の攻撃ディスプレー,地位のバッジ,甲殻類の武器ディスプレー,カエルのコール)で,受信者はいずれも反応した.地位のバッジとカエルのコールでは特に明瞭な証拠がある.


すべてにおいて,信号には受信者が相手の強さを評価するのに重要な情報が入っている.鳥の攻撃ディスプレーは次の行動の手がかりを与えるし,地位のバッジは年齢や性別や身体サイズに強く相関している.甲殻類の武器ディスプレーは攻撃のエスカレーションか身体サイズを示唆しているし,カエルのコールは身体サイズを表している.


信頼性は完全ではないが,受信者が反応するには十分だ.
このうちいくつかはハンディキャップコストが見られるが,いくつかはコストがはっきりしない.
地位のバッジでは,カオグロシトドでは同じぐらいのバッジの持ち主はより争うため.だまし者はより優位個体から激しい攻撃に遭いやすい.これは受信者依存コストのいい見本だ.しかしミヤマシトドでは特に同じバッジサイズだからと行って争いが生じることはなく,このようなコストはないにもかかわらずバッジの正直さはカオグロシトドと変わらない.要するに私たちはよくわかっていないのだ.


このような頑健だが完全でない信号の信頼性はだましの余地を作っている.シャコの脱皮直後のメラルスプレッドはよい例だ.
テッポウエビやカエルのコールは連続的なだましの例だ.何らかの理由で相関からやや有利にはずれているオスはそれを利用して有利な信号を送ることができる


第4章 利害が反するときの信号




(5)カエルの鳴き声の優越周波数


(6)結論