Nowak , Tarnita, E. O. Wilsonによる「The evolution of eusociality」 その27


Nowak MA, CE Tarnita, EO Wilson (2010). The evolution of eusociality. Nature 466: 1057-1062.


<Groupselection is not kin selection>
Supplementary Information,Part A "Natural selection versus kin selection"


West SA, Griffin AS and Gardner A (2008) Social semantics: how useful has group selection been? J Evol Biol 21, 374-385.


WestたちはWilsonの主張に反論したあと,攻撃に移る.

彼等はいかにも英国らしい皮肉な言い方で攻撃を始める.

理想的な世界があるとすれば,そこで私達はグループ淘汰理論について歴史的な分析をすることができる.グループ淘汰論争が起こったエリアを選び,そこで何十年の間に何が生じたかを見るのだ.特に実際の生物学的な問題にいかに適用されたかが重要な要素となる.グループ淘汰理論は私達に何をもたらし,もしそれがなければ私達は何を得られなかったのか?
そして幸運なことに,Wilsonが指摘している別のエリアでそのような分析をすることができる.性比の進化だ.


局所配偶競争における性比の分析は包括適応度理論の偉大な功績だ.私にはNowakたちの論文が冒頭部分でこれを一切無視しているのがいかにも片手落ちのように感じられた.Westたちから見ても,このエリアは包括適応度擁護にとってもっとも分かり易い例となるだろう.


Westたちはまず局所配偶競争の性比の問題の歴史を振り返る.

  • Hamiltonは1967年に(包括適応度理論によって)局所配偶競争とその性比の理論を示した.
  • Taylorは1981年に包括適応度的視点から倍数体生物においてこの性比のバイアスがより強いことを説明した.それは(1)兄弟同士の競争が緩和されること,(2)そのためにより多くのメスを息子のために残すことが有利になるからだ.
  • 一方WilsonとColwellは1981年に,このバイアスはTaylorの主張するような淘汰では説明できず,グループ淘汰によるものだと主張した.
  • その後この論争は純粋に意味論的なもので,理論的には等価であることが明らかにされた.また集団構造が全くなくとも性比のずれが生じうることも示された.
  • それ以降局所的配偶競争のエリアは進化生物学においてもっとも生産的で成功した領域になった.
  • 特筆すべき事は最初のHamiltonの(包括適応度)局所配偶競争理論が,それぞれの生物的実態に合わせて数多くの拡張がなされて,検証可能な形式になって発展したことだ.
  • この状況は,検証可能な理論化がどのような頻度でなされてきたかを比較することで相対的な理論の成功を測定することを可能にしている.そして実際にそれを行うと.15ケースのうち15が包括適応度理論によるものとなっている.*1これはp=0.00006の水準で包括適応度理論の方が優れていることを示している.


この歴史を見ると,当初Wilsonは,グループ淘汰と包括適応度は異なると考えてがんばってきたが,1980年代にそれが等価であることを知らされ,「グループ淘汰でなければ分析できない問題があるのではないか」という問題から「どちらがより生産的か」という問題にバトルフィールドを移しながらがんばり続けているということになる.そして局所的配偶競争と性比のような問題には明らかに包括適応度アプローチの方が生産的だ(協力行動の進化という問題に比べて特にそうだ)ということだろう.


Westたちは,この歴史から得られる教訓を以下のようにまとめている.

  1. 局所的配偶競争の問題についてみても,包括適応度理論と(新しい)グループ淘汰理論は等価だ.私達はどちらかが正しくてどちらかが間違っていると主張しているわけではない.そしてどちらかの理論だけが得ることのできる洞察があるわけでもない.
  2. このエリアにおける包括適応度理論とグループ淘汰理論の論争は,局所的配偶競争のもっとも単純なケースにおいてのみ実際に生じた.より特殊化したり複雑な生活史が含まれるようになった問題では,グループ淘汰理論に基づくモデル構築は非常に困難になる.*2 (だからグループ淘汰派からは論争すら起こせなかった)これに対して包括適応度理論は様々な拡張を展開してきたのだ.

*1:これは表の形にされている.1985年から2005年にいたる様々な問題とその論文が整理されている

*2:この主張の根拠としてFrankやQuellerの論文が引用されている