The World Until Yesterday: What Can We Learn from Traditional Societies?
- 作者: Jared Diamond
- 出版社/メーカー: Allen Lane
- 発売日: 2012/12/31
- メディア: ハードカバー
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第3章でニューギニアの伝統社会の記録に残された戦争の概観を見た後,ダイアモンドは伝統社会の戦争全般の考察を始める.
第4章 多くの戦争について
<戦争の定義>
ダイアモンドはまず本章で使う「戦争」の定義をはっきりさせる.
- 定義はそれによってどんなリサーチをしたいのかによって異なる.士官候補生を教える士官学校においては伝統社会の戦争を含める必要はないだろう.しかし本書では伝統社会から現代社会までのスペクトラムを調べたいのだ.だから人数や武器による定義は適切ではない.このようなリサーチ目的を持つ社会科学者はおおむね以下の定義を用いる.これにより伝統社会の戦争は含まれ,ギャングの抗争は除かれる.
- 暴力を用いるのは一人より多い.
- 政治的に異なる2つのグループ間で生じる
- 暴力はそのグループ全体から承認されている.
<情報ソース>
本章で用いる情報ソースについてダイアモンドは次のようにあげている.
- 直接記録:最もいいのは,戦争が起こっているところを直接リサーチャーが観察し,フィルムに収め,参加者にインタビューすることだ.ちょうどダニの戦争のように.しかし通常リサーチャーが現地に入れるのは国家による統治下に入ってからだし,そのような国家は戦争を取材されたくない.だからこのような記録はまれになるが例外的にいくつかの観察記録が残されている.
- 現地人,偶然それを目撃した西洋人からのヒアリング
- 考古学的情報:人骨とカットマーク,武器,要塞跡 (弓矢は狩猟にも使うが,投石器,バトルアックス,鎧,盾はほぼ戦争にしか使われない.集落の立地も戦争上の防御という観点からしか説明できないものがある)
- 壁画などの記録
なお最初の2つのソースについては西洋人との接触によって戦争のあり方が変化したのではないかということが吟味されなければならないことをダイアモンドは指摘している.
<伝統社会の戦争の形態>
伝統社会ではどのような戦闘が行われているのだろうか.ダイアモンドは,戦術的には(海軍や空軍のものは別にして)現代国家と同じものがそろっていると整理している.
- 会戦(pitched battle )
- 襲撃(raid)敵の領地に忍び込み,何人か殺すか何かを破壊し,さっと引き上げる
- 待ち伏せ
- 騙しの宴会:これは現代国家にはあまりない.同盟のための宴に招待し,そこで殺す.
- 二つの部族が顔を合わせる集会で突発的な喧嘩が生じそのまま戦争になる.:普段顔を合わせない同士が会うこと,そして復讐が個人の領域であるのでこのようなことが生じやすい.これも現代社会ではまれ,実例としてはエルサルバドルとホンジュラスのサッカー戦争がある.
ダイアモンドはなぜ3番目の騙しの宴会がワークし続けるのか(なぜ宴会に招待された側は疑わずに騙されるのか)についてもコメントしている.それによると「同盟のための宴は非常にしばしば開かれ,さらにこれは非常に有益なため」だということになる.
これは騙しの信号が機能するためには頻度が低くなくてはならない(信号を信頼するとネットで利益がなければならない)ということの例だということだろう.しかしそうだとするとこの騙しの頻度が低く抑えられているメカニズムが必要になるように思われる.騙しの宴会であることが事前にばれた場合のコストが非常に大きいなどの理由があるのだろうか.
<死亡率>
伝統社会の死亡率については第3章でもコメントされていたが,ここでもう一度整理されている.ここではピンカーのリサーチも含む4つのリサーチが引用され,以下のようにまとめられている.
《伝統社会》
- 1年あたりの戦争による死亡率は1%から0.02%まで幅広い
- 死者の中の戦争による割合は56%から3%まで
《現代社会》
- 1年あたりの戦争による死亡率が最も多いのは20世紀のドイツとロシアで,それぞれ0.16,0.15%.ナポレオン戦争の世紀のフランスは0.07%,多いと想像される20世紀の日本は意外に低く0.03%
- これらは最も多いドイツでも伝統社会の平均の1/3.平均と平均を比べると1/10になる.
《理由》
- 現代社会は常に戦争状態にはない.伝統社会は事実上ずっと戦争をしている
- 現代社会では(戦略空爆の例外を除いて)軍の男性の若者しか死なない.伝統社会は全員にリスクがある.
- 現代社会では降伏してきた兵士は基本的に殺さない.伝統社会では原則殺す.
- 現代社会では負かした敵の市民は生かして搾取することを考える.伝統社会は時に集落全員の大虐殺が生じる.
理由としてはとにかく大きな国家内では戦争がなく,国家同士の戦争の頻度が少ないということがもっとも効いているように思われる.このあたりはピンカーの主張と基本的には同じと言うことだろう.