「The World Until Yesterday」 第3章 小さな戦争 

The World Until Yesterday: What Can We Learn from Traditional Societies?

The World Until Yesterday: What Can We Learn from Traditional Societies?


第3章は短い章で,伝統社会の戦争の特徴を整理した上で,記録された1つの戦争のクロノロジーを追っていく.


第3章 小さな戦争


ダニ族はニューギニアで最後の大規模なファーストコンタクトが生じた部族だ.1938年にファーストコンタクト,次は1954年で,ここから継続的に伝道師やオランダ植民地政府の役人が駐在するようになる.そして1961年のハーバード大学の調査はまさに戦争のど真ん中にぶち当たる.


まずダイアモンドはその記録からわかる伝統社会の戦争の特徴をまとめている.

  • しばしば生じる小規模の待ち伏せ,襲撃,オープンバトルで数人の死者が出る.
  • 時に大規模な村落まるごとの虐殺,略奪が生じる.
  • 多くは部族間ではなく,同じ言葉を話す部族の中のグループ間の争いであり,互いに非人間化してののしりあう.
  • 男の子は子供の頃から戦士としてトレーニングされる.そして襲撃されるリスクが常にあると教えられる.
  • 同盟関係は重要で,しかもしばしば変わる
  • 主要な動機は復讐(あるいは死者の霊を鎮める)
  • ほとんどすべての構成員が戦争に関わる.
  • 女子供という非戦闘員も意図的に殺される.
  • 軍の効率は低い.武器のレンジが狭い,リーダーシップが弱い,プランが単純,集合トレーニングなし,だから一斉射撃なし
  • 常に戦争があり得るので人々の行動に大きな影響を与えている.
  • 死者の絶対数は小さいが,比率は高い.


<戦争のタイムライン>


ダイアモンドは詳細に記録された戦争を詳しく記述している.読んでいてなかなか迫力を感じるところだ.アウトラインは以下のような感じだ.

  • それぞれ5000人ぐらいの二つの同盟がある.それぞれいくつかの部落連合に分かれている.数十年前には同盟の組み合わせは異なっていたし,実際にこの戦争のあとすぐにまた組み替わった.
  • 1961年2月 片方の同盟の4人が殺されて戦争が始まる(それ以前にも双方に遺恨がある)
  • そこから数日から1〜2週間ごとに,忍び込んでいって待ち伏せ,襲撃,挑発してのオープンバトルが繰り返される.多くは軽傷者のみだが時に死者が出る.
  • 死者が出た方が焦り,報復行動をおこす.うまく復讐が果たせると宴を催す.襲撃の場合何も得られないことが多く,時に成果を上げる,返り討ちに会うこともある.
  • 9月までに20数回の襲撃,バトルがあり11人が死亡
  • いったんオランダ植民地政府が現地駐在拠点を作って収まるが,戦争自体は続き,5年後には片方がもう片方のある村を襲って焼き払い,豚を略奪し,125人を殺す(残りは別の村に逃げる)という虐殺事件が生じる.


<戦争の死亡負荷>


ダイアモンドはこの伝統社会の戦争の厳しさを数字で示している.ピンカーを読んだあとではおなじみの数字だが,そのような伝統社会で住んでいることを想像するとやはり戦慄すべき数字だ.

  • 確かに死者は11人と125人で,第二次世界大戦や9/11に比べてけた外れに小さい.しかし死亡率を見ると非常に高い.
  • 11人というのは双方の成員の0.14%だ.これは太平洋戦争最大のバトルである3ヶ月間の沖縄戦の0.10%より大きい
  • また虐殺の125人は,対象同盟側の成員に比して5%となっている.もし太平洋戦争の時に日本に対して行うなら4百万人,9/11の時のアメリカに対して行うなら12百万人ということになる.


次章で伝統社会での戦争を一般的に扱うことになる.