
The World Until Yesterday: What Can We Learn from Traditional Societies?
- 作者: Jared Diamond
- 出版社/メーカー: Allen Lane
- 発売日: 2012/12/31
- メディア: ハードカバー
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第11章 塩.砂糖,脂肪,そして怠惰
さてこの本も最終章.最終章の話題は健康だ.特に生活習慣病が話題になる.ダイアモンドはここではNCDs(Non-Communicable Diseases)という用語を使っている.直訳すれば非感染性疾病ということになるだろう.
<非感染性疾病 NCDs>
本章はダイアモンドが初めてニューギニアを訪れたときの回想から始まる.1964年当時,ダイアモンドの調査に同行したニューギニアの高地民はまだ伝統的な生活スタイルを取っており,皆ほっそりしていて筋肉質で,細身のボディビルダーのようだったそうだ.彼等は荷物がないときには山を駆け登り,重い荷物がある時でも一日中速足で歩けるのだ.
- ニューギニアの医療記録によると当時,糖尿,高血圧,動脈硬化,ガンはまれだった.60歳から80歳の人でもそうだったのだ.
- もちろん当時のニューギニアは健康のユートピアではなかった.その逆だ.事故や暴力による死亡をのぞいても,感染症や栄養不良で多くの人が若死にし,平均寿命は短かった.
- しかしその後ニューギニアでも西洋風のライフスタイルをとる人は増えてきた.そしてニューギニアでもNCDが増えてきた.
NCDは慢性的にゆっくり進み,動脈硬化,高血圧,ガン,心臓病などが含まれる.先進国の人の90%はこれで死ぬ.そして現在地球上でこのNCDは増えている.ダイアモンドは最近の増加について次の4類型をあげている.
- 最近西洋風のライフスタイルを取り入れた富裕国:産油国,モーリシャスなど.
- 最近途上国から先進国に移住した人:中国・インドからアメリカ,イエメン・エチオピアからイスラエルなど
- 途上国の都市:ニューギニア,中国,アフリカ諸国
- 突然西洋風ライフスタイルを取り入れた少数民族:ピマインディアン,ニューギニアのワニゲラ族,アボリジニなど
「これを見れば明らかで,西洋風のライフスタイルを取り入れるとNCDが増える.では西洋風のライフスタイルの何がNCDを増やすのだろうか」とダイアモンドは問いかけ,様々なリサーチによりいくつか(喫煙と肺ガン,塩分と高血圧)は明らかで,なお不明なものがあるという状況が説明される.
ダイアモンドは,これらのリサーチャーたち(イートン,コナー,ショスタクたち)は「NCDは遺伝的な身体組成と環境のミスマッチによって生じる」と総括し,「パレオダイエット」という概念を提唱していると紹介する.ダイアモンドは基本的にパレオダイエットの趣旨に賛同して,すべての伝統的ライフスタイルと取り入れる必要はないが,NCDの原因らしいものを避ける事を勧めている.
なおこの「パレオダイエット」についてはマイルドで妥当なものから,もはやトンデモの域に達しているような過激なものまであるようで,マーレーン・ズックの最近著「Paleofantasy」はこの過激派に対する批判に丸々一冊費やしている.ともあれ,本書ではマイルドなパレオダイエットが扱われる.
<高血圧>
ダイアモンドは続いて具体例としてまず塩分の摂取と高血圧を取り上げる.
- 塩化ナトリウムについて先進国では一日当たり6〜20グラムほど摂取するが,伝統的な生活スタイルでは0.5〜2グラム程度が多い.
- 伝統的ライフスタイルでは塩は貴重だった.だから塩分に対する好みがヒトにはある.
- 高血圧は遺伝環境含め多要因が関連する*1が,塩分の摂取と高血圧は相関する.
- どれほど塩分を取るとリスクが高くなるかについては論争があるが,20グラム以下でも影響があるとするデータ(大量の比較データ*2,数週間程度の追跡調査,赤ちゃん時の塩分摂取データと長期間の追跡調査)の方が重いようだ.
- 至近メカニズムとしては腎臓における塩分排出の増加が血圧の平衡点を動かすということで説明できる.
- 塩分は血圧を上昇させるほかに喉を渇かせ結果的にカロリーの高い飲み物の摂取につながりやすい.
ではどうすればいいのか.政策や食品業界の協力も重要だが,個人でできることとしてダイアモンドの実践的アドバイスは,「単にテーブルソルトをかけないだけではなお大量に摂取してしまう.加工食品を減らすことが重要だ」というものだ.そして特に苦痛を感じることなくそれを実践する方法として地中海式ダイエットを勧めている.
地中海性ダイエットは総カロリー抑制や脂肪を魚介類と植物性中心にすることなどが健康に良さそうという認識だったので塩分も押さえられるというのは知らなかった.全くつらくなさそうなのもいい.
ダイアモンドの塩分の取り過ぎにかかる健康リスクの悪化の指摘は詳細なもので,読んだあとではラーメンのスープは最後まで飲むまいと決意させるに十分だ.私の感覚ではカロリーの取り過ぎに対するよりはつらくなさそうだ.ということは,塩分については継続的な啓蒙が重要なのだろう.
関連書籍

Paleofantasy: What Evolution Really Tells Us About Sex, Diet, and How We Live
- 作者: Marlene Zuk
- 出版社/メーカー: W W Norton & Co Inc
- 発売日: 2013/03/18
- メディア: ハードカバー
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