「Sex Allocation」 第10章 コンフリクト2:性比歪曲者たち その14

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


楽しい利己的性比歪曲者の記述も最後のまとめに来た.


10.5 結論と将来の方向


性比歪曲者の多様性と普遍性は印象的だ.単一種内に3種類の歪曲者を持つキョウソヤドリコバチ(PSR, MSR, オス殺し),オス殺しのみでいくつもの系統を持つテントウムシAdalia bipunctataなどはその多様性を示しているし,ウォルバキアなどの歪比微生物は非常にありふれている.

  • 1990年代にはウォルバキアに注目が集まった.彼等は単為発生,メス化,細胞質不和合,そしてオス殺しを引き起こすことがわかった.ウォルバキアは20%の昆虫,それより頻度は少ないながらも多くの節足動物に見られる.さらにごく近縁のウォルバキアが全く異なる操作を行っているのも見つかっている.
  • しかしながら注目は別のところに移りつつある.カルディニウムは新たなウォルバキアだ.それはウォルバキアが行うのと同じ性比歪曲を行い(オス殺しはまだ見つかっていないが時間の問題だろう),7%の節足動物に見られる.


初期のリサーチは,性比歪曲者の実在を確かめるものだった.最近では性比歪曲のインプリケーションに焦点が当てられている.重要に見える3つのエリアがある.

  1. ゲノム内コンフリクトの大きな未解決問題は,より大きな系統的視野で見て,何が利己的遺伝要素の多様性や頻度を決定しているかということだ.性比歪曲者は感染率に与えるファクターが明確なのでこのリサーチに向いているだろう.実験的操作も可能だ.性決定メカニズムがどのような性比歪曲者が広がるかにどう影響を与えているかという問題も興味深い.ホルモンが大きな影響を与えているワラジムシのような生物群は操作されやすいだろうか,あるいはPI(単為発生誘導)と半倍数体の出現順序はどうだったのだろうか.
  2. 性歪曲者同士の相互作用は複雑だろうが,ほとんど調べられていない.異なる歪曲者たちは,どのような条件下で協力し,あるいは排除し合うのだろうか.
  3. 性比歪曲者たちはホストの生物学(例えば性決定システムや配偶システム)の進化史に大きな影響を与えてきた可能性がある.しかしこの分野のリサーチはなお理論的なものに限定されている.


エストの本章の記述は詳細で本当に興味深く思っている様子が垣間見える.利己的遺伝要素の話には何か引き付けられるものがある.それはホストがパラサイトに乗っ取られているという悲劇性と,そのロジカルな複雑さの持つパズル性がヒトの心に大きな印象を与えるからなのだろう.