「Sex Allocation」 第11章 一般的な問題 その11

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


性比リサーチの応用,次は農学的な応用だ


11.3.5.2 バイオコントロール


エストはここでは性比理論のフィナンシャル面の応用(applied for financial benefit:経済的コストを下げるための応用ということだろう)を議論する.まずは天敵養殖プラグラムでの天敵生産に関わるものだ

  • 寄生バチはしばしば害虫の天敵であり,生物学的害虫コントロールプログラムに使われる.このようなプログラムではハチのメスの生産が重要になる.(メスが獲物を狩って卵を産み付ける)
  • しかし農学者の期待に反して,しばしば養殖場では自然環境よりオスの比率が高くなる.そしてときに養殖場の個体群の絶滅につながってしまう.
  • この問題は30年以上前に指摘されているにも関わらず,ほとんど目を向けられていない.
  • LMC理論は,同じパッチで多くのメスが産卵すると性比のメスへの傾きが下がることを予測する.そして寄生バチを対象とした観測は一貫してこの予測に従う.
  • それにもかかわらず,この理論を養殖に応用しようとした試みはたった1つしか知られていない.

エストはここでその成功例を詳しく紹介している.Gonatocerus属のハチはアメリカの農業害虫(カメムシの一種glassy-winged sharpshooter)の天敵だが,産卵時に他のメスと接触しないようにして養殖すると1頭あたりの生産コストが1/3以下になったそうだ.これは区分生産まで要しないので非常に有用だとウエストはコメントしている.

  • 孤独性カリバチのホストサイズにかかるトリヴァース=ウィラード仮説も,バイオコントロール上の応用が考えられる.
  • 予測通り,多くのカリバチが大きめのホストに対して性比をメスにより傾ける.
  • そしてここでもこれを応用したリサーチはわずか2つしかない.

エストはここでもそのリサーチを詳しく紹介している.綿花につく害虫(ゾウムシの一種)の天敵であるコガネコバチの一種,様々な野菜や園芸作物につく害虫マメハモグリバエの天敵Diglyphus属のハチの2ケースだ.いずれもホストサイズの変化に性比が反応することが実験的に確かめられている.前者はこれにより綿花畑1ヘクタールあたりの天敵生産コストが50ドルほど下がると試算されている.
しかしこのリサーチは実際に応用されていないそうだ.またそれ以外の天敵についてはリサーチも無いとウエストは嘆いている.

  • これらのリサーチは養殖技術に性比リサーチが応用できる可能性を示している.
  • このような「行動生態学的アプローチ」以外に「分子生物学的アプローチ」もある.遺伝的操作によりメスを増やすという方向性だ.実際に性比にかかる遺伝的変異は存在する.これを人為淘汰的に利用することは可能だろう.
  • これらとはまた別に,性比歪曲者の利用も考えられる.歪曲者のある系列を選別し,あるいは人為的に歪曲者を注入することにより可能だろう.
  • いくつかの寄生バチでは性は1遺伝子座(多アレル)で決まっている.これらの種では,半数体はオスに,倍数体はその遺伝子座のアレルによりオスになったりメスになったりする.この場合,養殖プログラムによってアレル多様性が減少し,性比が上昇する可能性がある.これを避けるにはポピュレーションメンテナンスの手法や野生アレルの恒常的な導入が必要になるだろう.


なかなか性比理論の応用は進んでいないようだ.不妊オス放虫による根絶プログラムで,生活史理論が応用されたことがあるというのは読んだことがあるが,性比リサーチはより実務家には取っつきにくいのだろうか.