「Sex Allocation」 第11章 一般的な問題 その12

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


性比理論の応用の3番目はパラサイトコントロール


11.3.5.3 パラサイトポピュレーションコントロール


パラサイトの個体群構造(例えば近親交配係数や特定ホスト内のゲノタイプ数)を知るための性比理論の応用が考えられる.個体群構造を知ることで,パラサイトの薬剤耐性,毒性,引き起こす症状への介入,ワクチン,治療薬の開発などへの応用が可能になるということだ.ウエストは近親交配係数の推定について具体的に示唆している.

  • マラリアの生殖母細胞の性比を調べるのは,マラリア原虫やそれに類似する病原体の個体群構造を調べる安価で容易な方法になる.
  • ハミルトンのLMC理論を用いれば性比から近親交配係数を推測できる.性比データから見ると,トキソプラズマのようなアイメリア属の寄生性原虫は,ホストにより多様な近親交配係数をもつマラリアのような寄生性原虫と異なり,一貫して高い近親交配係数を持っている.(アイメリア寄生胞子虫はホスト腸内の極めて限られた空間構造の中で交尾するのでこうなっていると推測されると第4章で説明がある)
  • 性比から近親交配係数を推定するのには理論的なメリットもある.もともとこの近親交配係数は相関係数であるため,本来は適応される集団が定義される必要がある.しかしわれわれはこれらの寄生性原虫の交尾システムを正確には知らないのでこれは困難だ.しかし性比から推測する際には(性比は真の近親交配係数に対応するので)これに悩む必要がなくなるのだ.

エストはさらに,性比理論は「進化理論がいかに容易に微生物寄生体に応用できるか」を示すモデルであると示唆し,これに関する自分の論文を引用している「もしわれわれが微生物の性比を理解することができなければ,毒性などの医療的に重要な複雑な特徴について理解できるチャンスはどれほどあるだろうか.」

近交係数以外の例としては「被子植物の交配システム」「寄生バチの繁殖制限要因」なども挙げている.


近交係数の推定ができるというウエストの主張はよくわかる.しかしそこから医療的な応用までは先が長いような気もするところだ.しかしそれは重要な第一歩で,薬剤耐性や毒性進化の進化速度に効いてくるということだろう.