Language, Cognition, and Human Nature Introduction

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

本年はこの本を読んでいこうと思う.本書はスティーヴン・ピンカーの自撰論文集であり,13本の論文とそれぞれについての背景を解説する本人のエッセイが納められている.英米の学者はこのような自撰論文集を出す伝統があるようで,私はこれまでウィリアム・ハミルトン,ロバート・トリヴァース,デイヴィッド・ヘイグのを読んできたが,それぞれエッセイがついていて大変面白かった.というわけで2013年にでたピンカーのこれも相当期待度が高い.とはいえ,上記論文集と異なり本書は当然ながら論文は言語獲得や認知心理周りのものが多く含まれ,私もあまりよく知らない分野なので理解が及ばない部分も出てくるだろう.まあそこはチャレンジと言うことでわからない部分はわからないと言うことで流すしかないこともあるだろうと思っている.

Introduction

まず最初はイントロダクション.
冒頭は論文と一般向けの本の違いについてから始まるが,いきなりなかなか面白い.

一般向けの本を書く学者はしばしば次のように問いかけられる.「どうやってアカデミックな仕事とポピュラーライティングを両立させられるのか?」「クリアーな散文とアカデミーズ(academese:学者が論文で使う専門用語だらけの難解な文体を指すらしい)を行き来するのは困難では?」「嫉妬深い同僚から非難されたり排斥されたりしないのか?」「ポピュラーライティングで名声と富を得たあとでもなおリサーチを継続する時間と意欲が残るものか?」と

ピンカーはこの論文集の仕事を受けるに至った気持ちについて,(多くの学者同様自分の仕事の質を平均以上と考えているので)自分の論文は重要で興味深いものであるという自負を持っていたが,同時にいくつかの論文はクロスオーバーな魅力があると考えていたと書いている.この2つの文体はピンカーにとってそれほどシャープに分かれているわけではないのだ.


ヘレン・スウォードという文学者が書いた「Stylish Academic Writing」という本があるそうだ.ピンカーはこの本を紹介しながら経緯について説明している.

Stylish Academic Writing

Stylish Academic Writing


この本では何故こういうタイトル(「おしゃれな学問文体」)の本が,「アメリカで最も人気のある法律家」や「エンジニアへのファッションガイド」という本と並んで最も薄い本とされないか(つまりおしゃれな学問文体というものがそれなりに存在しているということ)をも解説している.500以上の論文を読んで,どの分野でもある程度の割合の論文は十分優雅で品格があると評価できるのだそうだ.ピンカーは自分の指導教官が素晴らしいスタイリストで,その指導と影響を受けてクリアーな散文で論文を書く努力するようになったと述懐している.

  • そうして編集者から論文がわかりやすいと評価され,それが「The Language Instinct(邦題:言語を生みだす本能)」に結びついたのだ.
  • 実際に書いてみるとポピュラーライティングも十分知的に厳格にできることに気づく.編集者のファクトチェック水準は高く,(2〜3人の査読者に対するものと異なり)多くの読者に対して誠実に向き合うと書かれるものの水準も高くできる.そしてできあがった本は論文よりも引用数が多くなった.

ここで査読システムについての恨み言と不平があって面白い.ピンカーは最近は理論的な仕事は論文にせずエッジのオンラインフォーラムにあげることが多くなったとも書いている.とはいえもちろんなお論文誌への投稿も続けているそうだ.

この後本書についての説明がある.

  • 論文は様々な分野のものを選んだ
  • 実験データを報告する手の物は避け,より大きな理論的問題についてのものを多く含めるようにした.
  • 選んだ論文の多くは引用数の多いものだが,何故かあまり引用されていないが自分では面白いと思っているものもいくつか選んでいる.


関連書籍


自撰論文集
まずハミルトンのもの.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20060429

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W. D. Hamilton : Evolution of Social Behaviour (Narrow Roads of Gene Land Vol. 1)

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Narrow Roads of Gene Land: Evolution of Sex (Evolution of Sex, 2)

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Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)


トリヴァース

Natural Selection and Social Theory: Selected Papers of Robert L. Trivers (Evolution and Cognition Series)

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ヘイグ

Genomic Imprinting and Kinship (Rutgers Series on Human Evolution)

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