Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その1

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

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A Computational Theory of the Mental Imagery Medium 1988 Cognitive and Neuropsychological Approaches to Mental Imagery 42 17-32

この論文は1988年のもので前論文(1979年)よりかなり後のものになる.視覚の認知に関する論文だ.

エッセイ


冒頭で心的視覚イメージ(mental imagery)のリサーチを始めた経緯が書かれている.それはあるパラドクスがきっかけになっていた.
1970年代にロジャー・シェパードが行った実験によって,ヒトが心的に3次元物体を回転させる場合に,見える形をそのまま回転させるときと同じように容易に前後が入れ替わる形の回転もできることが明らかになっていた.このときピンカーの指導教官スティーヴン・コスリンは(ピクセルで構成される)2次元的形のイメージを扱うコンピュータモデルを作っていた.彼はここに奥行きを与えて(ヴォクセルで構成される)3次元モデルにすることも簡単だろうとピンカーに示唆した.
しかし網膜のような2次元の表面に投影されたシーンからどうやって3次元空間における3次元物体のイメージが得られるのかという問題が浮かび上がったそうだ.

結局コンピュータのメモリ(あるいは脳のニューロン)の中のヴォクセルを照射する光線があって,何らかの方法ですべてのヴォクセルについて反射が生じ,頭の中の小人の中の網膜に焦点を結ぶわけではないのだ.片方でヒトの心的イメージは確かに知覚効果を持ち,シーンをある視点から描写する.心の眼では,平行する線路は収束するように見え,後退する物体は縮小し,向こう側の表面は見えないのだ.

ピンカーは心的イメージには3次元感覚と特定視点特徴の両方があるという議論を組み立てたが,それがどのようになされているかという問題は残った.この論文はそこに関するものとなる.

またこの論文は「イメージ論争」そして心の計算理論にも関連するそうだ.この第2章のエッセイは,エッセイというより非常に短い論文の背景説明という感じの小文だ.

1. 導入

  • 過去25年間に「認知科学」と呼ばれる科学分野は心的過程についての私たちの理解に革命を起こした.この中心には「心の計算理論」と呼ばれる「セントラルドグマ」がある.これは「心的過程はシンボルの操作,あるいはプログラムであり,神経組織の情報処理能力で可能な単純なプロセスによっている」というものだ.
  • 「心の計算理論」は,知性を説明するには不可欠だがそれまでは曖昧だった「記憶」「意味」「目的「「知覚」などの概念について正確にメカニカルに扱えるということで急速に進展した.さらにそれは,認知タスクについて必要な計算ステップや必要メモリを明確化できるので,ラボでのシミュレート実験も活性化させた.
  • 心的視覚イメージリサーチはこのような新しいアプローチによってもっとも利益を得た分野だ.
  • 20世紀の哲学者と心理学者は,心的視覚イメージについての常識的な理解は科学的にはよくて不要,悪くすると非一貫的で誤謬につながると議論してきた.
  • しかしこの計算理論によって問題は明確化され,今や議論はどの概念体系が首尾一貫しているのかという論理的ななものから実務的なものにシフトしている.
  • 私はここでこの計算理論によってあるパラドクスが解決されうることを示そうと思う.そのパラドクスは「心的画像(mental pictures)は2次元であることを意味しているが,しかし人々のイメージには3次元が含まれている」ことだ.特に画像が生じてそれにどう3次元情報が組み込まれるかについての脳のメカニズムにかかる理論を提示したい.さらにこの理論がほかの空間認知能力(パターン認識,知覚の安定性,注意,感覚間の調整)に必要な計算能力とも矛盾しないことも示したい.


第2論文は視覚に関するもので,やはりハードな内容のようだ.確かにピンカーは「How the Mind Works(邦題:心の仕組み)」において視覚認知の問題も丁寧に取り上げていたことを思い出す.なんとかついていこう.


関連書籍


ピンカーによる進化的な視点を踏まえたヒトの認知行動特性にかかる本.刊行は1997年.当時は衝撃的な本だった.今でも進化心理学の副読本としては真っ先に読むべき本のひとつだと思う.

How the Mind Works

How the Mind Works


同邦訳.視覚にかかる説明は第1章の冒頭で説明すべき謎のひとつとして取り上げられ,第4章で詳しく解説される.ながらくNHKブックスの3巻本だったが,2013年にちくま学芸文庫に収められたようだ.Kindle化はされていない.

心の仕組み 上 (ちくま学芸文庫)

心の仕組み 上 (ちくま学芸文庫)

心の仕組み 下 (ちくま学芸文庫)

心の仕組み 下 (ちくま学芸文庫)