「鳥の行動生態学」

鳥の行動生態学

鳥の行動生態学


本書は鳥類に焦点を絞った行動生態学の解説書で,様々なトピックについてそれぞれの専門研究者が寄稿したアンソロジーの形をとっている.一部既出のものもあるが,多くは若手研究者による書き下ろしの論文になる.この手の本はそれぞれの寄稿者が自分のリサーチを中心に書いているものが多いが,本書は基本的にそのトピックについての総説論文として書かれていて,情報量が多く,注ぎ込まれた熱意が感じられる本に仕上がっている.

第1章 鳥類における血縁認知 江口和洋

血縁認知は血縁淘汰が生じる必要条件ではないが,認知がある方が包括適応度を高める行動をとりやすいので行動生態学上(特に社会生活を行う生物種にとって)重要な問題になる.
ここではまずグラフェンたちとスチュアートたちの間に交わされた血縁認知の定義にかかる論争が整理されている.所詮定義なのだから,使われる局面に応じて適切に定義しておけばいいだけのようにも感じられるところだが,何しろ大御所たちの間で結構やりとりがあったところなので,これからのリサーチャーとしては経緯を知っておくことは有益だろう.基本的にグラフェンは遺伝的類似性に基づいて識別したもののみを「血縁認知」と呼び,それ以外の社会的な手がかりになどに基づくものをその用語で呼ぶべきではない(別の認知の結果がたまたま血縁と相関していると扱う)と主張し,スチュアートたちはその認知が最終的に遺伝的な血縁と相関すれば,手がかりが何であったかは問わなくてもいいと主張したということになる.
血縁認知に基づいて行動を変えることは「血縁識別」となる.ここではその機能として鳥類に特徴的なこととしてヘルパーにかかるもの(ヘルパーになるかどうか,ヘルパーを受け入れるかどうか),托卵への防御があげられている.
続いて血縁認知の具体的なメカニズムが整理されている.多いのは同居による連想学習だが,面白いところとしては,エナガの音声による識別,海鳥の臭いによる識別などがある.

第2章 対称性の揺らぎと性淘汰 上田恵介

大御所による寄稿.初出は雑誌への記事で,本書のほかのかっちりとした総説論文と異なり,ややエッセイ風で,こんなこともあるし,あんなこともあるし,こういう風にも考えられるという自由な小論になっている.
まず生物にみられる非対称性を整理する.種全体で一方向に非対称な「偏向的非対称性」,種内で異なるタイプが共存する「分断的非対称性」,最後に個体ごとに発生する「対称性の揺らぎ(FA)」ということになる.
次にFAが少ないこと(つまり対称性)に対するメスの選り好みが取り上げられる.メラーのツバメの尾の長さを非対称にした実験,それへの(飛翔能力にも影響するのではないかという)スワドルたちの批判,それに応えて色で非対称性をつけて再確認したリサーチを解説している.上田は最後に色は量的形質ではなく形態的非対称なのでこの結論には問題があるのではないかとコメントしているが,色のスペクトルもいわば連続形質なので何が問題なのかはよくわからないところがあるように思う.またここではキンカチョウのメスによるオスの足輪の好みについても対称性が影響を与えること,長谷川,高橋の伊豆のシャボテン公園のクジャクのリサーチでは目玉模様の対称性への選り好みが示せなかったことなどを紹介している*1
次にメラーとポミヤンコフスキーの「なぜ鳥の中には美しい性淘汰形質を複数持つものがいるのか」という問題意識を取り上げている.面白いことに性淘汰圧が強いと思われる鳥類に複数性淘汰形質を持つものが多く,また複数性淘汰形質を持つと対称性についての選り好みが見られなくなる.上田はこれについて,近過去に強い性淘汰圧を受けて急速にランナウェイした形質についてはFAを減少させるより飾りを大きくすることが優先された結果ではないかとしている.なかなか面白いところだ.
そのほか2種混在して婚姻贈呈を行うレックを作るシリアゲムシについての問題,そして鳥類において渡り鳥とそうでない鳥の間で飛翔能力にかかる自然淘汰圧が異なることを利用したリサーチの可能性などがエッセイ風に扱われている.

なお上田はここでソーンヒルたちの1990年代のヒトの対称性の魅力リサーチへの疑問を呈しているが,私としては納得できない部分になっている.

  • まず実験対象が西洋文明下の高学歴学生に偏っていることを問題にしている.しかしこのようなヒトについての配偶相手の魅力に関するリサーチはその後異なる対象で何度も追試されて,多くの現象がユニバーサルに見られることが確認されている.そのようなリサーチの積み重ねを無視して20年前の第一報についてこのような批判を行うのはいかがなものだろうか.
  • また「魅力ある男性(女性)の繁殖成功が(配偶相手に選ばれやすいことによって)本当に高いかどうか,われわれの社会を見てみると疑問」ともしている.これは進化心理学の基本的な姿勢を理解していない批判だ.進化心理学は進化環境で平均して適応度が高くなる行動をもたらすような心理メカニズムを説明しようとしている.現代環境で直接適応度が高くなるはずだと考えているわけではない.
  • 続けて「ヒトの場合の配偶者選択は外見的魅力よりも人柄や文化的要素の方が影響するから疑問」ともしているが,このようなほかの要因に加えて対称性も選り好み要因になっているということのどこが問題なのだろうか.ほかの要因があるから単独要因を吟味しても無意味だという主張は理解できない.
  • さらに「行動基準をダーウィン的適応度だけで測ろうというのはいささか乱暴」とも批判しているが,進化心理学のリサーチャーなら誰もヒトの行動がダーウィン適応度「だけ」で測れるとは考えていないだろう.

この部分の上田による進化心理学リサーチへの批判ははっきり言って稚拙であり,残念というほかない.そもそも何故「鳥の行動生態学」において進化心理学リサーチへの批判を行う必要があったのだろうか.*2

第3章 鳥類の配偶システムとつがい外父性 油田照秋

まず様々な配偶システムが整理され,どのような鳥類がどのようなシステムを持つ傾向があるのかが示される.そして近年鳥類行動生態学で大きな話題になった社会的配偶システムと実際の父子関係が一致しないことが極めて多い(つまりつがい外性交(EPC)あるいはつがい外父性が普遍的に観察される)という知見がまとめられている.このようなつがい外父性のリサーチは行動の多様性や柔軟性の解明,さらにどのように進化し維持されるかという進化的機構の解明がポイントになる.
そしてオス,メスそれぞれから見たEPCの適応度的なメリットとデメリット,特にメスにとってのメリットは何かが整理されている.そしてリサーチの課題としては様々な要因仮説は相互に排他的ではなく相対的な重要性を知ることが難しいこと,EPCの頻度とその後のメスの隠れた選択要因の分離が難しいことなどが指摘され,今後の方向として操作実験の実施,父性による適応度の差の計測などを挙げている.いずれも簡潔にまとめられ,限られた紙数で要を得た総説になっている.

第4章 鳥類における雄から雌への給餌行動の機能 遠藤幸子

オスメス協力してヒナを育てる鳥類にはオスからメスへの給餌がよく見られる.かつては「つがいの絆の維持」のためという説明で済まされていたが,行動生態学が興隆してからよりきちんと適応度的に考察されるようになった.ここではそれが丁寧に総説されている.
ここでは給餌の時期によって機能が異なっていそうだということでつがい形成前,つがい形成後産卵前,抱卵期の3フェーズに分けて整理されている.

  • つがい形成前;配偶者選択にかかる機能(より良いあるいは多くの餌を持ってきたオスを選ぶ)が有力である.
  • つがい形成後産卵前:卵への栄養補給,メスの交尾を受け入れてもらうため(交尾の駆け引き,オスは父性をより確かに,メスは栄養を得られる),オスの子育て能力査定(メスによる選り好み形質),つがい関係維持の4説がある.遠藤はこの4説は排他的ではないし,組み合わせによる場合もあり得ると整理している.
  • 抱卵期:抱卵のための栄養補給,オスの育雛能力査定(次の繁殖についての査定),つがい関係維持の3説ある.遠藤は第2説と第3説の違いははっきりしないし,検証できていないので抱卵のための栄養説が有力だと整理している.

遠藤はつがい形成後産卵前,および抱卵期において「つがい関係維持」を仮説のひとつとして認めているが,やや疑問だ.「つがい関係維持」を行動生態学の仮説として考えるのなら,何故給餌するとつがい関係が維持されるのかが説明される必要があるだろう.そもそもつがい関係が高まった方がオスメスともにいいなら給餌なしで関係維持すればいいだけのはずだ.だから何らかの査定仮説のようにしなければ意味がないように思われる.
最後に遠藤は,ある淘汰圧から給餌が進化し,その後別の淘汰圧により給餌が維持強化される可能性,すべてのフェーズを統合して考察する方向,査定における認知*3やコミュニケーションの観点*4などを今後の課題として提示している.

第5章 条件的性比調節 山口典之

まずフィッシャーの等性比理論,ハミルトンのLMC,さらにトリヴァースとウィラードの条件付き性比戦略(TW)を簡単に解説する.鳥類については最後のTWについて多くリサーチされているとしてそれが総説されている.セイシェルヨシキリの有名なリサーチ(コラムで詳しく紹介がある.なお最近祖父母がヘルパーになる例が発見されているそうだ)に見られるように協同繁殖種において「ヘルパーの数」と「ナワバリの質」を条件にした性比調節はよく実証されているが,「父親の魅力」を条件とする性比調節のリサーチの結果は一貫していないとしている(なおメタアナリシスでは全体として関係性が認められている)
さらに鳥類の性決定は哺乳類と異なりZW型なので,母親の操作による性比調節の至近メカニズムのリサーチもよくなされている.これもここで丁寧に整理されている.複数のホルモンが絡んで複雑な様相だ.

第6章 鳥類の子殺し 高橋雅雄

適応的に説明できる子殺しは最初に話題になったハヌマンラングールやライオンなど哺乳類のものがよく知られているが,ここでは鳥類についてのリサーチが整理されている.哺乳類では群れを乗っ取ったオスによるものが有名だが,鳥類ではハーレムを作る種は少ないので様相が変わっている.

  • 親による子殺し:(当初保険だったヒナが不要になり)餌資源として利用,(環境状況劣悪化による)ヒナ数削減,(配偶相手を失ったので最初からやり直すなどの)繁殖機会を得るため,性比調節などがまとめられている.最初の2要因はペアで濃密な子育てする鳥類の特徴が良く出ている.なおペンギンでは孵化成功率の著しく悪い第1卵の排除という現象があるそうだ.そもそも何故こうなっているのか興味深い.最後の性比調節はオオハナインコで見られるもので,オスビナとメスビナで育雛日数が異なり,豪雨による水没の危険が増加した際に,より日数が必要なオスビナを選択的に殺すのだそうだ.
  • 非血縁子殺し:コロニー営巣種での近隣ビナの栄養資源としての利用,種内托卵への対抗,(繁殖機会増大を期待した)性的子殺し*5,物理的資源をめぐる子殺し*6,繁殖ハーレム内での子殺しが整理されている.これも最初の2つは鳥類特有だ.最後のものはハーレム内におけるメス同士のオスの子育てリソースを争う競争が子殺しという形で現れるもの.これも哺乳類ではあまり見られない形で興味深い.
  • 協同繁殖種での子殺し:共同巣で複数メスが繁殖する場合にメス同士が互いの子を殺し合うもの*7,協同繁殖グループ内(テリトリーは共通,巣は別)でつがい同士が子供を殺し合うもの,同じく協同繁殖グループ内で種内托卵排除として子殺しが生じるもの,やはり協同繁殖グループ内で性的子殺しが生じるもの,ヘルパーを得るために子殺しを行うもの*8の5類型が整理されている.

比較リサーチも総説されている.基本的にこのような現象は状況依存的で近縁種間でも子殺しの生じる頻度は相当異なることが多いようだ.そして全体を見ると(著者も書いているが)「何でもあり感」を強く感じるところだ.観察しやすくリサーチが多いので行動生態学の予測通りの例が多く見つかるという事情もあるのかもしれない.

第7章 騙しを見破るテクニック 卵の基準,雛の基準 田中啓太

托卵に関するアームレース,特に騙しの信号に関する総説.
まず托卵の行動生態的な解説があり(子供の養育行動を行う動物群では比較的一般的な行動であるとされている),続いて種間で偽のシグナルをめぐるアームレースがあるはずであること,信号はキューからシグナルに進化したであろうこと,これを考察するには信号の受け手の感覚認知能力を考慮することが必要であることなど導入としておいている.
総説は学説史も踏まえてトピックの順序が並べられている.

  • 卵:ロッテムのホストの防衛に関する学習仮説*9,複数種に托卵する托卵鳥側の卵擬態の分化(ジェンツの存在,卵模様の遺伝メカニズムに関しては性染色体説によっている),ホスト側の卵模様のクラッチ間変異を上げるという防衛,ホスト側の托卵排除防衛は巣内の視覚環境によって大きく制限される場合があること*10などが整理されている.なおカッコウが托卵する際にホスト卵を1卵咥え去る行動の適応的意義についてはなお未解決だとしている.
  • アームレース:ホストは寄生コストと排除コストのトレードオフを持つ.寄生コストには寄生率とヒナの有害性の成分*11がある.このようなコストが時空間的に変動するような場合には条件依存的な防衛戦略が進化しやすくなる.托卵鳥側ではマダラカンムリカッコウで見つかったマフィア戦略の例が紹介されている.
  • リサーチにおけるIT革命:鳥類の4色視覚を数学的に再構築する解析手法や卵の模様を粒度をキーとして画像解析する手法などが解説されている.
  • ヒナ:上記学習仮説からヒナの排除,擬態は進化しにくいと予想される.その場合,托卵鳥側から見ると一旦卵排除防衛をかいくぐれば軍拡競争に勝利したことになり,ホスト親との血縁度がない托卵鳥のヒナには超正常刺激による餌ねだりが進化しやすい.なおホスト托卵鳥の口内班の一致については托卵鳥側のホストビナへの擬態と考えられていたが実証リサーチで否定され,現在托卵鳥側に何らかの超正常刺激として進化した形質にホストビナが擬態した可能性が指摘されているそうだ.興味深い.
  • リサーチのパラダイムシフト:進化しにくいと予想されていたヒナ排除,ヒナ擬態が発見され,ここ10年で托卵のリサーチは大きく変化した.ここでは最初のオーストラリアのルリオーストラリアムシクイとマミジロテリカッコウ系,チェコのヨーロッパオオヨシキリカッコウ系,オーストラリアのマングローブセンニョムシクイ,ハシブトセンニョムシクイとアカメテリカッコウ系のそれぞれの様相が紹介され,選択的ヒナ排除現象については,結局ロッテムの学習仮説を覆す何らかのキー*12があればヒナ排除は進化できるし,コストのトレードオフも大きな影響がある*13ことが理解されるようになったことが解説されている.

限られた紙面で多くの内容を盛り込み,リサーチャーの目の前で托卵リサーチの様相が大きく展開していったことが追体験できるような熱意あふれる総説になっている.


なおここで卵の色に関するコラムがあって内容が面白い.それによるとしばしば見かける青い卵は,抗酸化能力に関連する色素が使われており,性淘汰にかかるハンディキャップシグナルである可能性があるそうだ.

第8章 鳥類の採餌行動に見られる知能的行動 三上かつら

楽しい鳥類の認知能力の話.まず有名になったカレドニアガラスの2種類のフィールドにおける道具作りが詳しく解説され,それを元にした実験リサーチも紹介される.続いて日本で見られるハシボソガラスの(自動車を用いた)クルミ割り行動を紹介.クルミ割り現象が1カ所から始まって広がっていく様子が確認されており,これは独習ではなく観察学習であることがわかる.観察学習のほかの例(有名なシジュウカラの牛乳瓶の蓋開け行動など),他種からの観察の例(クロオウチュウの偽の警戒音による餌取り行動)も紹介されている.
このほか,このような学習に必要な空間記憶,エピソード記憶,それぞれの認知に使われる脳の部位(学習能力の高い鳥とそうでない鳥の比較から推測する),潜在能力と状況遭遇機会なども解説されている.
知能的行動の厳密なテストはなかなか難しいが,現状で得られている証拠をわかりやすく紹介している総説になっている.

第9章 鳥類の警戒音 鈴木俊貴

前半は鳥類はリスクの種類や大きさに応じた警戒音を持っているかという問題の総説になっている.
サバンナモンキーで3種類のリスクに応じた警戒音が発見されてから,同じことが鳥類でもあるかという問題意識からいろいろなリサーチがなされている.まずニワトリで猛禽類とアライグマに対して異なる警戒音を出す傾向があることが見つかった.著者自身はシジュウカラにおいてヘビのリスクに特化した警戒音が観察され,つがい相手やヒナにリスクにあわせた警戒行動を引き起こすことを観察している.またキイロアメリカムシクイは托卵鳥であるコウウチョウに特化した警戒音を持つようだ.
ではリスクの大きさに合わせた警戒音の変化はあるだろうか.アメリカコガラはチッカディーという警戒音を持つが,脅威が大きいとディーを繰り返す.このような例はほかのカラ類やムシクイ類でも見つかっている.
後半はこの情報伝達が意図的かという問題を扱っている.ここでは受信者の有無によってシグナルが変わるかどうかを持って「意図的」かどうかを判定するという議論を行って,ニワトリではあまり変わらないが,シジュウカラやクロオウチュウの偽警戒音ではそれがあるようだとまとめている.
この後半の問題意識にはやや違和感がある.このような意味で「意図的」という用語を使うならきちんと定義しないと誤解を招くだろう.ここで議論されているのは,受信者の存在を条件としてシグナルが出されるなら,それは機能的な意味で「操作的」だと推測することができるということにすぎない(それはそれで面白い議論だが)のではないだろうか.

第10章 さえずりを他種が聞くと何が起こるか 濱尾章二

冒頭で性淘汰形質としてのさえずりを簡単に解説した後で,他種のさえずりがこれにどのような影響を与えるかという(ややナローな)問題意識が設定される.
そして他種のさえずりと間違われないために形質置換(分断淘汰)が生じる理論的可能性,ダーウィンフィンチでの報告,アオガラとシジュウカラの実証リサーチ,形質置換が生じる前提である他種と間違われやすいさえずりを持つことのコストの実証,生殖隔離との関係が整理されている.


ここでヨーロッパのマダラヒタキとシロエリヒタキの分岐に関するコラムがある.氷河期のレフュージア,メスの選り好みなどの要因が絡んでいるようで面白い.

第11章 行動と生理 風間健太郎

最後に至近要因と行動に関する章になる.ここでは特にストレスがかかったときのホルモン分泌と行動,具体例として海鳥類で餌が不足したときの状況が解説されている.


以上が本書の内容だ.鳥類と行動生態学に興味のある人にとっては得がたい本といっていいだろう.第一線の研究者による行動生態学に関する丁寧な総説が日本語で読めるのは大変嬉しいことだと思う.

*1:もっともこのリサーチではそもそも目玉模様装飾についての選り好み自体が検出されなかったのだから,ことさらここでFAのみを問題にするのはやや奇異な感じもする

*2:おそらくこの寄稿は初出の「生物科学」への掲載時には特に鳥類についてのものではなくFA全般についてのもので,さらに総説というよりエッセイ風に語るものであったと思われる.今回総説論文を中心にした「鳥の行動生態学」に収められるに当たってもう一度内容を吟味した方がよかったのではないだろうか

*3:カケスではよりメス好みの餌をとってくることが評価されているようだ

*4:餌乞い行動の意義が挙げられている

*5:性的子殺しは哺乳類で発見されたものと基本的に同じになる.イエスズメではメスによる性的子殺しがあるそうだ

*6:資源を確保するための行動の1つという整理.ミソサザイは自身のテリトリー内にある巣は自種他種を問わず攻撃するという報告があるそうだ

*7:ドングリキツツキの不良卵はこれに関する適応ではないかとの指摘がなされている.興味深い.

*8:シロビタイハチクイでは父親が息子の繁殖を妨害してヘルパーに仕立てようとすることがあるそうだ.

*9:ニシオオヨシキリでは模様の学習だけではなく,模様をカテゴリー分けしてクラッチ内の少数卵を排除するという防衛も行うそうだ

*10:巣内が暗いテリカッコウ類では卵排除が見られない.またドーム型の巣を作るキマユムシクイに托卵するツツドリは細長い卵を産む(それでも十分擬態になる)

*11:カモのような早成性のヒナを持つ種では養育コスト自体が小さいので托卵の受け入れが進化しやすい

*12:センニョムシクイの認知メカニズムはなお未解明.アメリオオバンではヒナの孵化順序でそれを可能にしているそうだ.

*13:繁殖サイクルとクラッチサイズ,多重托卵の有無などが重要なパラメータとなる.これは温帯と熱帯でかなり様相が異なる