Language, Cognition, and Human Nature 第2論文 「心的視覚イメージ方略についての計算理論」 その6

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ピンカーのデュアルアドレス理論の詳細説明は続く.眼の動きのところは難解で.おそらく何らかの議論があったところなのだろう.背景知識のない私としてはちょっとよくわからないところがある.

6. デュアルアドレス理論は空間情報処理をどう扱うのか その2

6.6 眼の動きと注意のシフト
  • 3次元空間の中の複数の物体の間の眼の動き(物体配列が作る角の二等分線上に結びつけられる動きとその角の頂点に収束する動き)は2つのフェーズがあるという考えに整合的だ.現在の眼の位置の情報とともに最初の動きは視点座標から,収束の動きはその深さ情報から説明できる.
  • 同様に注意のシフトは,この見える角度と深さから定義できる空域を強調するように見える.これは視点座標システムから決められた近隣のセル集合に引き付けられるとして説明できる.
6.7 知覚の安定性
  • 物理座標システムは光景の物理的なレイアウトを評価するために使われる.
  • 例えば,人々が自分の位置についての物理座標をなんらかの意味論的記憶(いつもの部屋で北を向いているなど)にリンクさせているとしよう.ここで眼や身体を動かすときに,人々はその動き情報を使って元の物理座標を対応する方向と角度だけ変換し上書きできる.
  • これにより人々は実際に見えているものが変化していても物理世界が安定していると知覚できるのだ.
6.8 知覚適応
  • 人々は,視覚入力を歪めるプリズム眼鏡をかけ続けると,数日でそれに適応できることはよく知られている.
  • このデュアルアドレス理論では.これは生じる不一致に対応して物理座標と視点座標のリンクのやり方を架け替えるという形で説明できる.
  • フィンケは見えている手の動きと実際の手の動きが異なるようにすると,感覚運動に適応が生じること報告している.またクボヴィは視覚運動適応の数理関数は心的イメージ変換の数理関数と同じだと推測している.この2つは,視覚の知覚がほかの感覚運動システムと同じアレイシステムを利用しているというデュアルアドレス理論を支持するものだ.

7. 結論

  • どのような分野でもメタファーは諸刃の剣になる.それはヒューリスティックス機能を持ち,実証リサーチを進め,組織する.しかしそれはメタファーに使われたものをよく知っているために,真の理解への阻害要因になることもあるのだ.
  • 「心の眼が心の絵を見ている」というメタファーは視覚イメージのリサーチにおいてこの両方に当てはまった.メタファーはメンタルローテーションなどのリサーチの推進力になった.しかし今世紀(20世紀)の哲学と実験心理学の間の最も激烈な意見の不一致はこのメタファーの誤用(頭の中の小人とか脳の裏側に張り付いた絵など)が中心になっていた.
  • 幸運なことに計算認知科学の利用が視覚イメージの理論とリサーチをメタファーの世界から解き放った.アレイ理論とコンピュータシミュレーションは絵のようなものを何かが検査しているという考えをめぐるパラドクスを払いのけた.
  • 私はここで,3次元空間を2次元の心的イメージに圧縮するというパラドクスが,物体と空間の幾何的な情報を評価,操作する計算過程を注意深く考慮することによって解消できたと示せていることを望んでいる.そのような考慮は直感的に受け入れ可能で実証的な支持もあり,3次元空間を描写し推論するという計算問題を扱うことができる理論につながった.
  • この理論が真実であることを示すことは別の物語になるだろう.しかしそれが理論的に可能か,論理的に矛盾していないかではなく,理論が正しいかどうかに集中できるなら,視覚イメージのリサーチは真に前に進むことができるだろう.


ということでピンカーの第2論文は終了だ.視覚認知も適応産物であり,その詳細は簡単ではないことがよくわかる.
この論文の書かれた1980年代以前は視覚イメージの議論についてはなお哲学者が延々と実証とは別の論理的視点から議論していており,実証リサーチャーもそれに巻き込まれていたということなのだろう.そういう意味でピンカーにとっては思い出深い論文ということなのかもしれない.