「Cheats and Deceits」

Cheats and Deceits: How Animals and Plants Exploit and Mislead

Cheats and Deceits: How Animals and Plants Exploit and Mislead


本書は動物による騙しのシグナルを扱った解説書だ.著者はこのテーマでリサーチを行い,総説書も執筆している行動生態学者マーチン・スティーヴンズ.
動物のシグナルは受け手を操作するために出されているはずだというのはドーキンスとクレブスによる洞察だが,受け手は平均して利益がないとそれを信用しなくなる.そのためには基本的にシグナルは正直でなければならないが,送り手と受け手で利益が相反するならそれにはハンディキャップが必要になる.そしてこのような正直なシグナルシステムに対して頻度が少なければ(受け手の平均利得が正にとどまるなら)騙しのシグナルがいわば寄生的にシステムに潜り込むことができるのだ.そのほか広い意味の騙しには隠蔽模様や擬態が含まれる.
そして自然界における騙しと操作というテーマはいつも私たちを魅惑してやまない.本書はその魅惑的な世界の詳細を詳しく私たちに教えてくれるものになる.

第1章 自然における騙しの基礎

ここではまずシジミチョウの生態が詳しく紹介されている.

  • シジミチョウはアリに寄生するグループで.幼虫はアリに化学擬態して,ワーカーに育ててもらったり(寄生タイプ),アリの卵や幼虫を食べたりして育つ(捕食タイプ)*1
  • では何故アリは騙されるままなのか.シジミチョウの擬態は非常に洗練されていて,ステージごとに化学擬態の様相を変え.音声擬態も用いる.これはアームレースの勝者と考えることができる.

なおここでスティーヴンズは擬態:mimicry(ある特別のモデルと間違われるような騙しのシグナルを送ること)と感覚バイアスの利用:sensory exploitation(受け手の感覚バイアスにつけ込んだ騙しのシグナルを送るもの)を厳密に峻別したいとしている.これは本書で何度も繰り返されるテーマだ.しかし結局受け手はあるシグナルのある特徴を感知して,それに対応する行動を起こす.この際の受け手の行動の解釈を,「シグナル→特定モデルに対応した行動」とするのか,「シグナル→感覚バイアスにより引き起こされた行動」とするのかを峻別する意味があるとは思えない.結局あるシグナルに対してある行動をとるのが平均して利益があるのかないのかだけが問題になるのではないだろうか.スティーヴンズは進化過程を正確に理解するには峻別が必要だと繰り返し主張しているが,私には最後までぴんとこなかった.
もちろん一見適応度的に意味がなさそうな感覚バイアスがいろいろなところで見つかっていて「感覚バイアス」という概念自体はいろいろな理解に役立つことは間違いないだろうし,それ自体大変興味深い現象だ.そしてたとえば最初は広いぼんやりとした感覚バイアスの利用だったものがだんだん研ぎ澄まされた特定モデルへの擬態に進化していくことは当然あるだろう.そこには異論はない.

次の導入はこのような動物のシグナルの分析は,ヒトの知覚に頼るべきではなく,受け手の動物の知覚モードをよく知ったうえで分析しなければならないということだ.これはある意味当然だが,よく陥りやすい先入観なのだろう.
ここでは,それを示す大変おもしろい例が挙げられている.

  • オーストラリアのカニグモの一種は真っ白な体を持ち,白い花びらの上で獲物を待ち伏せする.ヒトの目にはこれは花に擬態しているようにしか見えない.しかし紫外線の反射率ははっきり異なり,UV視覚の元ではクモははっきり浮き出て見えるはずなのだ.獲物であるハナバチは紫外線コントラストのはっきりした花(これは蜜のシグナルとしてよく使われている)を好む感覚バイアスを持っており,クモはこれを利用してハチを誘っているのだ*2

第2章 盗人とうそつき

第2章では餌を得るための他種への擬態を扱う.
最初は警戒音の擬態だ.有名なクロオウチュウの,他種警戒音を真似してその種の個体の逃走行動を誘い,あきらめたり取り落とした餌をかすめ取る行動のリサーチが紹介される.

  • クロオウチュウはかすめ取る相手(ミーアキャット,エメラルドテリムク,ヤブチメドリなど)が出す警戒音をそれぞれ真似している.また相手が警戒音を無視してしまうようにならないために時には正直コールも出す.

スティーヴンズはここで騙しシグナルの一般的な問題である受け手にとっての平均的なコストとメリットの問題として騙し頻度が重要であることを解説している.しかし残念ながらスティーヴンズの解説はここで止まっている.私の考えでは,「この騙しシグナルはどのように低頻度が保たれているか」ということが進化的には重要な問題になるはずだが,そこがスルーされている.例えばこのクロオウチュウの例でも時に出すこの正直コールがもしクロオウチュウにとってコストがあるなら,なぜただ乗り個体が広まらないかが問題になるはずだ.(この例ではコストがあまりないのかもしれないし,ただ乗りすることが別の理由で難しいのかもしれないが,実証的には問題にされるべきだろう)


このほか擬態により餌を得る似たような例も紹介されている.

  • ミナミギンポによる掃除魚ホンソメワケベラへの擬態(掃除してもらいに来るスズメダイなどの口内の肉をちぎり喰う)
  • 生物発光により下から見た小魚の群れのシルエットに擬態するダルマザメ(襲いに来るカジキなどを逆に襲う)
  • 集合して植物の茎の上で球状になってハナバチのメスに擬態(形状はそれほど似ているように見えないが,ハチの複眼視力に対しては十分擬態になるし,また化学擬態も行っている)するツチハンミョウの幼虫(誘引されたオスに飛び移り,さらに交尾の際にメスに乗り移り,最後にメスが作る巣に潜り込んでそこで蜂蜜や花粉やハチの卵を食べて成長する)

さらに捕食相手の種の色彩に自分の色を合わせるセダカニセスズメ(同種と見せかけて接近して捕食する)を題材に擬態のコストを議論し,ハナカマキリが本当にランの花に擬態しているのかどうか(単純な背景へのカモフラージュ,一般的な昆虫の感覚バイアスの利用が代替仮説になる)の様々な実証リサーチ(結果は感覚バイアスを示唆しているとスティーヴンズは主張している)などが解説されている.いろいろな実例は楽しいところだし,何かを実証しようとするといろいろ大変なことがよくわかる.

第3章 早すぎる死への誘い

第3章では捕食者による騙しシグナルによる餌動物の操作を扱う.
最初のテーマはクモの網だ.クモの網は単にできるだけ見えないようになっているわけではない.それにはしばしばあからさまな装飾(白くはっきりした飾り糸の付加)がなされている.そしてそれが何のためにあるのかを調べた結果,それは紫外線を強く反射し,獲物を誘引するためにあることがかなり確かになっている*3.スティーヴンズはここでも擬態か感覚バイアス利用かについてこだわっていて,これは感覚バイアスの利用に該当するとしている.そして飾り糸とその他の糸の化学成分の違い,対称性のある装飾の方が誘引効果が大きいこと,系統樹を用いた進化過程の解析*4などが詳しく解説されている.さらに一部のクモ自身の鮮やかな模様*5にも誘引効果があり*6,またナゲナワグモはガのメスのフェロモンと似た化学物質を放出して獲物であるオスを誘引する.スティーヴンズはこれは特定のモデルがあるので擬態だとしている*7.ここではさらに様々な例が取り上げられている.いずれも面白い.

  • 捕食性のPhoturis属のホタルは獲物のホタル種の発光を擬態し,さらに捕食によって得た化学物質による化学擬態も行う.
  • Portia属のハエトリグモは,迷彩模様を利用して密かに獲物である別種のハエトリグモに近づき,そのコートシップディスプレーの振動を擬態する.さらに円網を作るクモを狙うときには,獲物のクモが小さいときには網にかかった昆虫が網を揺らす振動を真似,大きいときには曖昧な信号でその攻撃性を抑制しながら(攻撃モードではなく検査モードに抑える)おびき出す.そして襲いかかる直前には葉っぱが網にかかったような振動を真似して自分の存在を隠すのだ.
  • 捕食性のテナガエビは,小魚の色彩にかかる感覚バイアスを利用して誘引する.例えばグッピーを狙うテナガエビにはオレンジ色のスポットがある.
  • オーストラリアの毒蛇デス・アダーは尻尾の先を餌であるかのように揺らして獲物を誘引する.
  • 待ち伏せ獲物誘引型の擬態のチャンピオンはアンコウ類になる.擬餌状体はアンコウ種によって非常に多様であり,特定の獲物をより誘引できるようになっている.深海のものは擬餌状体を発光させる.発光により獲物を誘引する生物にはアンコウ類のほかにもクダクラゲ,イカ(発光用の触手を持つ)がいる.いずれも発光部分をくねらせて魚を誘う.
  • ハエトリグサ,ウツボカズラモウセンゴケなどの植物も視覚的,化学的誘引を行っている.彼等の緑と赤のパターンは昆虫への誘引効果を持つ.ある種のウツボカズラの捕虫袋の縁はUVを強く反射するマーキングになっている.アリを獲物にするウツボカズラは捕虫袋の一部を一時的に不活性にする.これにより甘い分泌液の存在を知るワーカーを巣に戻らせてより多くのワーカーを誘引する.

最後にスティーヴンズはここでも擬態と感覚バイアス利用の違い(基本的に特定モデルがあるかどうか,そして擬態の場合にはアームレースのために非常に正確なものであることが要求され,さらにターゲットも絞られるためにコストが大きい),そして感覚バイアス利用が擬態の前段階であり得ること,さらに同時に効きうることなどをいろいろ議論している.

第4章 混乱と目くらまし

ここでは餌動物が補食を逃れるため,つまり防衛のために用いる騙しを扱う.これはスティーヴンズのリサーチエリアでもあるので力が入った章になっている.

<背景マッチング>

典型的な防衛のための騙しは偽装(camouflage)だ.そして最も広く見られる偽装は背景マッチング(background matching)になる.これは他種のシグナルコミュニケーションを利用するものではなく,背景に溶け込んで見つかりにくくさせる.背景マッチングの進化的説明にはウォレス以来の伝統があり,オオシモフリエダシャクの工業暗化でも有名だ.この工業暗化については,最初のリサーチについてそのわずかな不備を創造論者に攻撃されたことがあるということで,当初の再捕獲法を用いたリサーチの詳細,その後のより厳密な実証(そして創造論者の言い分に全く理がないこと)などを詳しく紹介している.
基本的に背景マッチングが機能するのは捕食者の視覚を欺くからだ.そしてどのように欺くかが問題になる.この実証リサーチには捕食者の視覚モードの理解が重要になる.

  • 最初の有名なリサーチはホークストラのアメリカのネズミの体色についてのものだ.このリサーチでは遺伝子の変化も調べられている.
  • ヨーロッパミドリガニの背景マッチングには種内多様性があり,1つは環境に応じて発達が可塑的になっているからだが,捕食者のサーチイメージ形成に対して負の頻度依存淘汰がかかっている可能性もある.
  • サーチイメージ仮説の検証は難しいが,アオカケスを用いた見事な実験がある.これはコンピュータスクリーンに仮想のガの画像を見せて行ったものだ.
  • 背景マッチングの効果は自分の模様に合った背景を選ぶ,正しい向きをとる,(可能な場合には)体色を背景にあわせて変えるなどの行動による部分もある.
<分断色>

次に扱われる偽装戦略は分断色(disruptive coloration)だ.このアイデアは20世紀の初めにポールトンやセイヤーたちが提唱したが,彼等が自分のアイデアを馬鹿げたほど誇張したこともあってながらく無視されてきた.1940年代にコットがよりきちんとした理論として提唱し,議論されるようになった.しかしこれが実証され,効果が受け入れられるようになったのはここ15年ほどに過ぎない.

  • スティーヴンズはガの紙模型を作って実験した.その結果分断色の効果ははっきり示された.これは多くの追試によって確かめられている.
  • なぜ分断色は捕食者の視覚を欺くのか.それは捕食者の物体のエッジにかかる視覚認知システムに干渉するからだ.これも様々な実験により実証されている.分断色はヒトに対してもエッジ認識を阻害する効果がある.おそらく多くの動物のエッジ認識システムには共通点があるのだろう.
<仮装:マスカレード>

次の偽装戦略は仮装(masquerade)だ.これは捕食者の餌動物の感知自体を阻害するのではなく,環境にある別のもの(鳥の糞,枯れ葉,石など)だと感知させるように騙すものだ.これも古くから議論されており,ウォレスは枯れ葉に似たチョウについて取り上げている.

  • 仮装の実証は難しい.通常捕食者に何かと間違えたかどうか尋ねることはできないからだ.これについてはヒヨコに小枝と小枝に似たイモムシを(順序をコントロールして)見せ,つつくかどうかを調べた実験がある(先に小枝を見せて小枝が食べられないことを学習したヒヨコはイモムシをつつかなくなる).
<目くらまし>

次の偽装戦略は目くらまし(motion dazzle).これは感知されることを防ぐのではなく,捕獲を防ごうとする.よくあるのは,はっきりと目立つ模様を動かして,捕食者の視覚システムを混乱させようとするものだ.
目くらましにはコントラストの高い模様(縞模様やギザギザ模様など)が含まれる.この議論は生物学より軍事利用から始まったそうだ.実際に第一次世界大戦時には軍艦には対潜水艦用*8のジグザグ模様が塗装されていたこともある.そして確かに多くの動物には高いコントラストの模様がある.しかしそれに効果があるのかよくわかっていなかったが,最近いくつかの支持証拠が得られている.

  • ヒト相手にパターンのある対象と白い対象をコンピュータスクリーン上で捕まえるゲームをやらせると.白いだけのものよりギザギザ模様や縞模様がある方が捕獲されにくかった.さらに対象が動いているなら,背景マッチングされた対象(静止時には最も捕獲されにくい)よりも模様がある方が捕獲されにくい.
  • 動物の視覚モデルを使ったコンピュータシミュレーションで,単色のウマの群が動いているよりもゼブラの群が動いている方が視覚は混乱しやすいことが示された.さらに単色のウマとゼブラの地理分布はサシバエの分布で説明できることがわかった.


この目くらましの議論は特に面白い.単体ではあまり効果があるようにも思えないが,群で縞模様の動物が動くとそれぞれの個体の動きがどうなっているかを感知するのは難しく,確かに幻惑されるのだろう.

第5章 アリの衣をまとったクモ

ここでは警告色とベイツ型擬態が扱われる.

<ベイツ型擬態の実証>

毒や武器を持った餌動物はそれを広告することによって捕食者をひるませることができるだろう.これはウォレスがダーウィンに宛てた書簡で示した考えで,ポールトンが警告色として提示したものだ.
それ以来多くのリサーチの積み重ねがこれを裏付けてきた.実際に防衛力を持つものは鮮やかな色調や模様を持ち,捕食者はためらう.そしてそれはベイツ型擬態のアイデアにつながる.そしてこのベイツ型擬態は今でも未解決問題を持つ魅力的なテーマになるのだ.スティーヴンズはここでもヒトの視覚と捕食者の違いへの注意,特定モデルへの擬態と感覚バイアスの利用との峻別を喚起したあとで,アブを例にとっていくつかのトピックを解説している.

  • 最初に問題になるのは,捕食者が本当にアブとハチを間違えるということを示すことだ.この実証がなされるようになったのは最近になってからだ.まず学生を使った実験が行われ,次にハトを訓練した実験が行われ,ヒトやハトが確かにアブとハチを誤認識することが示された.さらにこの実験データからハトの視覚認知をモデル化し,どのような特徴でハチをアブを見分けているのかも分析されている.これによるとハトは視覚イメージのいくつかの特徴を手がかりにしており,手がかりの重要性は訓練過程に依存している.
  • アブのたてる羽音はハチの羽音を擬態したものだとながらく考えられていたが,攻撃されたときの羽音を物理的に分析した結果はこれを支持していない.ただし攻撃を受ける前の羽音についてはまだ調べられていない.
  • アブは行動擬態も行っている.擬態種のアブは前肢を前につきだしてハチの触覚に見えるようにしているようだ.
<ベイツ型擬態の頻度>
  • 次に問題になるのは擬態種とモデルの頻度だ.擬態種の頻度がモデルの頻度対比で低く抑えられている必要があるというのはベイツ以来の主張であり数理的なモデルも組み立てられているが,それを示すのは難しい.そして実際にベイツの調べた南米の毒チョウに擬態する無害のチョウの頻度は低かったが,ハチに擬態するアブ類は実にありふれている.
  • 最近英国で,種内多型があって数種のハチに擬態しているアブを使って,モデルの頻度と擬態形態の頻度を地域別に調べるリサーチが行われた.結果は両者の相関を示していた.これは数理的な予測を支持するものだ.
<様々なベイツ型擬態>

ここからスティーヴンズはアブ以外のベイツ擬態の例をいろいろと紹介している.

  • クモの中にはアリに擬態するものがいる.あるハエトリグモの属では200種以上がアリ擬態を行っている.捕食者であるクモはアリやアリ擬態のクモを忌避する.この忌避が学習ではなく生得的であるところがよくあるベイツ擬態と異なっている.
  • 面白いのはこのアリ擬態のハエトリグモの中にはオスとメスで擬態形態が異なっているものがあることだ.オスは,頭部の鋏角が膨らんでいて,獲物を運ぶアリに擬態する.これはメスのえり好み形質になっていて擬態とえり好みのトレードオフの結果であるようだ.
  • さらに一部のアリ擬態のハエトリグモは集合してアリの群を擬態する.
  • 音声によるベイツ擬態もある.ある種のフクロウはガラガラヘビの警告音を擬態する.またコウモリに対して超音波で警告音を発する毒ガにベイツ擬態する無害のガもいる.
<不完全な擬態>

次に「不完全な擬態」の問題が扱われる.アブ類のハチへの擬態にはほぼ完璧なものからすぐに見分けがつくものまで幅広い.何故不完全な擬態は速やかに完全な擬態に進化しないだろうか.

  • これまで互いに排他的でない多くの仮説が立てられてきた.有力なのは,ヒトの眼には不完全でも捕食者から見分けがつかない説,捕食者はいくつかの特徴のみ見ている説,複数のモデルへの擬態説,モデルと擬態種とのアームレース状態説,などだ.
  • 捕食者から見分けがつかない説は広く当てはまりそうもない.昆虫の捕食者である多くの鳥類の視覚はヒトより優れていることが知られている.
  • 一部の特徴のみが重要説にはいくつかの支持証拠がある.アオガラを使った実験によると視覚特徴のうち特に色彩が重要であるようだ.
  • サンゴヘビ(毒ヘビ)の縞模様の色比率や順序を変えた模型を野外の哺乳類と鳥類に提示する実験によると色比率は順序より遙かに重要だった.これはおそらくリスクが重大で識別に時間制限があるためではないかと思われる.
  • サンゴヘビとキングヘビ(ベイツ擬態ヘビ)が同所的に分布する地域と隣接するキングヘビのみが分布する地域を比べると,同所分布地域では捕食者は不完全擬態も強く避け,実際に不完全擬態キングヘビが多いが,キングヘビのみ地域では完成度の高い擬態をするキングヘビしかいない.サンゴヘビが分布する地域では捕食者にとって誤判別が重大なリスクにつながるのでこうなっているのだと思われる.
  • 複数種への擬態説はありそうだが,実証はなされていない.アリ擬態は確かにこの説明が当てはまりそうだ.
  • アブによるハチ擬態については,不完全擬態種は様々なハチの中間形態とは離れているという報告がある.ただしどのモデルにより似るかについては,捕食者からみたそれぞれのモデルのリスク,擬態種のメリットに依存して決まるとも考えられる.実際に大きめのアブの方がよりハチに似ているという報告もある.
<なぜベイツ型擬態種には無脊椎動物が多いのか>

最後にベイツ型擬態種には無脊椎動物が多いという問題がある.

  • 脊椎動物がベイツ擬態を行うときにはほぼ必ず近縁種を擬態する.おそらく形態を変えるのは脊椎動物にとってコストが高いのだろう.ただしこの例外もあり,実際にすばらしい脊椎動物による無脊椎動物への擬態例(鳥のヒナによる毒毛虫への擬態が紹介されている)がある.


この章はこれまであまり紹介されていないようなベイツ擬態の様々なトピックが実証リサーチとともに紹介されており,前章に続いて内容の濃いものだ.ただ第2章でも述べたが,擬態頻度の扱いには不満が残る.たしかに頻度の問題自体には触れているが,問題意識は「本当に頻度が低いのか」というところに止まっており,「どのように頻度が低く抑えられているのか」,つまり「なぜ警告色は種内での(毒生産コストを削減する)ただ乗り個体(種内擬態)や他種のベイツ型擬態によって崩壊してしまわないのか」という重大な謎について踏み込んでいない.そこだけは残念だ.

第6章 ブラフと不意打ち

スティーヴンズは本章で,一旦捕食者に襲われたあとの二次防衛戦略を扱う.

<驚かし>

まず捕食者を驚かせるディスプレイがある.突然外見を変える.よく知られているのはガがそれまで隠れていた後翅の鮮やかな模様を見せる行動だ.

  • この後翅の模様に実際に効果があることを示すのは難しい.最初の実証はアオカケスを使った実験だった.アオカケスは新しい色を警戒することが示された.また別の実験では目立つこと,コントラストが高いこと,新しいパターンであることも重要であることがわかった.さらに別の実験で色については緑や青よりも赤と黄色の効果が高いこと,模様や色の多様性が捕食者側の学習を阻害することも明らかになった.これは野外で見られる後翅パターンの多様性を説明する.
  • 驚かしディスプレイはコウイカも行う.彼らは中型のスズキに襲われたときには黒いスポットを浮き上がらせて相手をひるませる(何かの動物の目のように見える.なお大型のスズキに襲われたらただ逃げるそうだ)
  • 音声による驚かしもある.ある種のガはコウモリを驚かす.また北米のガの一種の幼虫はつまみ上げられると大きな音を出すことが知られている(つまみ上げた鳥類がこれを取り落とす).また齧歯類をひるませるために超音波の羽音を立てるチョウもいる.
<眼状紋>

「驚かし」に関連するトピックはチョウ類の眼状紋だ.これは多くの進化生物学者の注意を引いてきた.

  • これが本当に鳥類をひるませるかについて実証がなされたのはつい最近になる.アオガラに眼状紋を塗りつぶしたクジャクチョウと塗りつぶしていないクジャクチョウを提示すると,眼状紋がある方が捕食率が劇的に下がることが示された.
  • 何故眼状紋に効果があるのか.捕食者の眼の擬態という説が昔からあるが疑わしい.チョウの模型を使った実験の結果はどちらかといえば感覚バイアスの利用を示唆している.(様々な眼状紋モデルを使った実験が紹介されていて,その詳細は面白い)ただし模型の眼状紋の瞳のなかに輝点を入れた方が効果が高い(眼の擬態説に整合的)などの別の実験結果もある.これは突然眼状紋を見せるかずっと見せているかの違いにも関連するようだ.
  • イモムシにも眼状紋がある.ベイツをはじめとするナチュラリストたちは150年以上前からこれはヘビへの擬態ではないかと議論してきた.これも実証されたのは最近だ.イモムシの模型を使ってたしかに眼状紋が鳥をひるませるのが確認され,さらにイモムシに膨らみがある場合膨らみ部分に眼状紋がある(つまりよりヘビに似ている)方がより鳥をひるませることも確認されている.しかしなぜ実際には鳥を捕獲するようなヘビがいない場所でまでこのようなイモムシが見られるのかは謎として残っている.いくつか仮説はあるが実証はされていない.
<攻撃をそらす>

驚かすのではなく攻撃をそらすという防衛もある.

  • チョウの眼状紋には翅の縁に小さな眼状紋が連続してついているタイプもある.これは捕食者の注意をそらして頭部や胴体部分から攻撃をそらすためだと考えられてきた.この仮説も実証が難しいが,2010年に最初の実証がなされた.ウラジャノメの模型をアオガラに提示して効果を調べた結果,紫外線を含むやや暗めの照明下という条件下ではアオガラは眼状紋部分を攻撃する傾向があることがわかった.
  • このような攻撃をそらすための模様は魚類,両生類の幼生などにも見られる
  • ウラアカセキレイシジミの翅の後部分の模様は自分の頭部を擬態していて鳥の攻撃をそらす効果があるようだ.これには頭部に見せかけるような行動擬態も含まれる.ただしこれについてはまだよく調べられてはいない.ヤママユガの後翅の後ろに伸びた突起もコウモリの攻撃をそらす効果があるようだ.
  • ガの中にはコウモリのエコロケーション用の超音波と似たようなクリック音を出して攪乱して攻撃をそらすものもいる.
<その他>
  • 捕食者の攻撃をそらす戦略としてこのほか有名なものに地上営巣性の鳥類に見られる偽傷行動がある.一部の鳥は捕食者によって偽傷行動を変える.ヒトの目にはそれ以外に説明のしようがないほど明らかな防衛行動だが,実証は難しく,まだなされていない.
  • 捕食者に捕まったときに硬直する行動にも攻撃を避ける効果があるかもしれない.捕食者は別の動いている獲物も捕獲しようとするかもしれないし,既に死んでいる獲物を(腐敗のリスクから)避ける傾向を持つかもしれない.

第7章 巣の中のペテン師

第7章は托卵の章だ.冒頭では田中啓太に富士山のフィールドに案内され,ルリビタキに托卵するジュウイチを観察した逸話から始めている.ジュウイチのヒナの翼にあるホストビナのクチバシ模様はスティーヴンズに大きな印象を与えたようだ.

  • 鳥の世界も欺瞞にあふれている.托卵は独立に7回以上進化した.そして托卵には多くの種類の騙しが見られる.
  • 托卵は他種に子育てコストを押しつけられるので,(まだホスト側に防衛が進化しないうちは)極めて進化しやすいと考えられる.しかし一旦托卵されるようになるとホストは防衛するようになり,托卵鳥はホストとの厳しいアームレースから逃れられず,それに負けると即絶滅につながる.現在の托卵種の数は,その高い進化率と絶滅率のバランスの結果なのだろう.
  • 托卵鳥の親鳥はホストの防衛をかいくぐらなければならず,さらにヒナはホストに給餌させなければならない.ここに数々の騙しが現れる.
<托卵と防衛>

スティーヴンズはニック・デイビスカッコウのリサーチを中心にこのアームレースをめぐる様々なトピックとその実証リサーチの流れを詳しく紹介している.カッコウの外観がハイタカの擬態であること,ホストの卵排除戦略とカッコウの卵擬態.カッコウのメスのジェンツ系列,アフリカのカッコウハタオリ(托卵鳥)とマミハウチワドリ(ホスト)におけるホストの卵模様多様化戦略,ホストの卵排除戦略における卵を見分ける問題,コウウチョウのマフィア戦略,ホスト側のヒナ放棄やヒナ排除戦略とそれに対する托卵鳥側のヒナ擬態戦略などを扱っている.
デイビスの本に取り上げられていないトピックとしては,パスワード戦略の議論が興味深い.

  • ヒナ排除のみ行って卵排除しないホストの中でルリオーストラリアムシクイは実際には抱卵初期(托卵前)に卵の中のヒナに自分のさえずりを聞かせて,それをパスワードにして,その真似をできないヒナを排除する.
<ホスト親の操作>

次に托卵ビナによるホストの操作が扱われる.
まずこのホスト親をいかにうまく操作できるかと,同一巣内のホストビナを殺すかどうかには関連があることが議論されている.うまく操作ができない場合にはホストビナを残して給餌信号を出させた方が托卵ビナにとって有利であり得るのだ.操作方法としては給餌信号を超刺激化したものがある.カッコウの音声超刺激,そして冒頭のジュウイチの翼模様などが取り上げられている.ここでもスティーヴンズはこれがホストビナの音声擬態か感覚バイアスの利用かという区別にこだわっている.ここでは托卵ビナは本当のヒナと異なって給餌要求について包括適応度最大化のための限界を持たないから,感覚バイアス利用型になりやすいという議論をしている.

<鳥類以外の住み込み型寄生>

このように騙しによってリソースを得る戦略は鳥類の托卵だけではない.昆虫の世界は化学信号による騙しにあふれているとして好蟻性昆虫によるアリへの住み込み型寄生や奴隷アリによる寄生とその化学的なアームレースの様相が取り上げられている.

  • 奴隷アリの中には化学物質でホストアリのワーカーを混乱させて同士討ちさせるものもある.ホストアリの対抗も化学的なもの物理的なもの様々ある.
  • ハナバチやカリバチにも托卵的な寄生を行うものがある.ルリモンハナバチは他種の孤独性ハナバチの巣にまさに托卵する.全世界のハナバチの15%は寄生性だと考えられている.
  • シロアリの巣にその卵に擬態して寄生する菌類が知られている.マラウィ湖のナマズも托卵習性があることが報告されている.

スティーヴンズは本章の最後に,寄生のリサーチは騙しがどのような条件下で進化し機能するかについて豊富な例を与えてくれるものであり,まだまだリサーチすべきことが多いと結んでいる.

第8章 性的な擬態

捕食や寄生以外にも騙しが進化する場面がある.それは繁殖に絡むものだ.

<送粉>

スティーヴンズはまず送粉を扱う.

  • 植物による騙しという形でポリネーターを利用して送粉させる例は多い.蜜のような報酬なしで送粉させる植物は32科以上で見つかっている.
  • ランの1/3は騙しによる送粉をさせている.産卵場所だと騙したり,配偶者に見せかけたりする手口が典型的だ.
  • カキラン属のあるランは5種のアブをポリネーターとして騙して利用している.このランはアブラムシの警戒化学シグナルに似た化学物質を放出してアブをおびき寄せる.この化学物質は特定のアブラムシの化学物質を正確に真似したものではなく,共通する一般的なシグナルを出しているようだ*9
  • ランは視覚的なシグナルも出している,ヒトの目には不正確な擬態にしか見えないが,昆虫の視覚には十分であるのかもしれない.
  • ラン以外にも騙しシグナルを送る植物がある.南アフリカのデイジーの一種はメスだと騙してオスのハエを引き付ける.デイジーは地域ごとに化学シグナルや模様を(その地のハエにあわせて)変えている.ハエのオスも騙しをある程度学習し避ける.この学習による忌避はデイジーの花模様の多様性を説明する.
  • 菌類の中には発光により昆虫をおびき寄せるものがある.
<配偶相手の選り好み>

次の騙しは配偶相手の選り好みにかかるものだ.スティーヴンズはまず性淘汰理論を簡単に概説し,実際の選り好みリサーチを解説し,そこには感覚バイアスの利用と思われる例があることを主張している.(ニワシドリのオスの集める青や白の飾り,霊長類の赤への好みとオスの赤ら顔などが挙げられている)しかしこれが騙しなのか正直なシグナルなのかの吟味は甘いように感じられる.確かに選り好み形質のきっかけとして感覚バイアスは効果がありうる,しかしそれが正直なシグナルになっているかどうかは別に吟味されるべき問題だろう.
なおスティーヴンズは感覚バイアスの利用によりトラップが形成されうるが,騙されるコストがメスにとって大きくなればそれへの抵抗が進化するだろうともコメントしている.要するに信号システムが維持されるには,受け手にとってそれを信用することが平均的に利益がなければならないということだ.だからメスに大きなコスト(その形質が派手になってオスにとってコストがかかりそれが子供に遺伝することによる不利益も含む)がかかるような選り好みにかかる感覚バイアス利用(すなわちシグナルが正直ではなく騙しである状態)が維持され続けるとは思えない(具体的には本来のバイアスを利用する局面と配偶者の選り好みの局面を区別するようになりやすいと思われる).とはいえ,ここではあまり適応的に思えないメスの選り好み傾向の例*10がたくさんあげられていて詳細はなかなか面白い.

<オスオス闘争におけるシグナルの騙し>

スニーカー戦略にはメスに擬態するという方法をとる場合がある.スティーヴンズはブルーギルのオスによる典型的なメス擬態のほか,エリマキシギの3戦略*11コウイカのオスによる体色変化を利用したメス擬態などが解説されている.

<その他>

性的コンフリクトに絡む騙しシグナルもある.ここではアオモンイトトンボの未成熟メスがハラスメントコストを避けるためにオスに擬態する例が解説されている.

第9章 騙しの将来

最終章において,スティーヴンズは,生物界の騙しについて,ウォレスをはじめとするごく初期からの議論の積み重ねと,つい最近になって充実したリサーチについて振り返り,なお未踏のリサーチエリアが広大に残っているとコメントしている.
そして最近の新しいエリアの1つの例としてコノハチョウのカモフラージュの進化が小さな変化の累積によって成し遂げられたことを系統解析により明らかにしたリサーチを紹介している.
そして最後に騙しリサーチから得られる教訓をまとめている.

  • 騙された側は反撃する.そしてアームレースが生じ,その進化動態は極めてダイナミックになる.
  • ベイツ型擬態種はモデルにコストをかけていると考えられる.このため進化動態は頻度依存的になる.モデルは擬態から離れようとし,擬態はそれに追いつこうとする.
  • これまで知られている騙しには視覚的なものが多いが,ほかの感覚によるものが少ないのは単にあまり調べられていない結果である可能性が高い.電磁気的な騙しが見つかっても驚くべきではない.
  • 「不完全な擬態」現象もリサーチがあまりなされていない結果理解が遅れている部分があるだろう.騙される側にとって完全な識別をすることにコストがあるなら,ごく一部の手がかりだけで識別することは適応的になりうる.
  • 将来のリサーチの大きな課題の1つは,どのように騙しが働くかの正確な理解だ.確かに擬態と感覚バイアスの利用は相互に排他的ではないが,区別することに価値はある.
  • 特定の動物や植物グループが特定の騙しを進化させやすいかどうか,そしてもしそうならそれはなぜかということは残された未解決問題だ.一部のリサーチャーはオーストラリアには騙しが多いと示唆しているが,この真偽も興味深い.

本書は「騙し」についての進化生物学的な解説書として見事な本だ.
まずとにかく興味深い騙しの実例がこれでもかこれでもかと紹介される.美しいカラー写真も満載で,ここは圧倒的に楽しい.深く考えずにそこだけ読んでいても十分堪能できる.さらに近年の進捗が著しい「実証」という点から非常に深く詰められている.それは信号の受け手の知覚モードについての理解が深まり,実験やシミュレーションの手法が洗練されてきたという背景があり,そしてこの面での優れたリサーチが集積されていったことによるのだろう.このチャレンジに挑んだリサーチャーたちの騙しの受け手の反応の解析についての鮮やかな手法を追体験できるのも本書の魅力だ.
そして総説としても大変充実している.コミュニケーションと信号の信頼性,擬態,捕食と防衛,アームレースなどの騙しシグナル関連論点が学説史も含めて幅広く的確に取り上げられている.騙しシグナルの低頻度維持問題についての解説がないのが少し残念だが,それ以外の論点についてはいずれも深い.行動生態学に興味にある人すべてに推薦できる素晴らしい解説書だと思う.


関連書籍


騙しシグナルの進化は大変興味深いトピックだ.本書のように騙し全般を扱った本は少ないが,関連トピックを扱った本には面白いものが多い.


擬態についてはこの本が面白い.特にベイツ擬態のチョウにおいてメスのみが擬態することが多いことについて詳しい.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20090531

擬態の進化―ダーウィンも誤解した150年の謎を解く

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この本では昆虫の面白い擬態の例が多数紹介されている.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20131112

食べられないために―― 逃げる虫、だます虫、戦う虫

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クモの糸についてはこの本が詳しい.飾り糸だけでなく円網自体にも昆虫を誘い込む効果があるとされている.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20130820

クモはなぜ糸をつくるのか?

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さらにこの本では飾り糸がクモの隠れ場所になっている場合があることが議論されている.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20160123



シロアリの卵に擬態する菌類はこの本に登場する.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20130701

シロアリ――女王様、その手がありましたか! (岩波科学ライブラリー 〈生きもの〉)

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托卵については最近出たこの本が圧倒的だ.私の訳書情報はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20160415

カッコウの托卵: 進化論的だましのテクニック

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私の原書の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20150405

Cuckoo: Cheating by Nature

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同じくデイビスによる15年前に出された托卵にかかる包括的な解説書.カッコウ類だけでなくコウウチョウ,ミツオシエ,カッコウフィンチ,ズグロガモなどの托卵鳥も扱っている.

Cuckoos, Cowbirds and Other Cheats (Poyser Monographs)

Cuckoos, Cowbirds and Other Cheats (Poyser Monographs)


日本人研究者によるものとしてはこの本.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20160526

鳥の行動生態学

鳥の行動生態学


擬態,分断色,目くらまし,受け手の知覚モードなどに関連する楽しい本.このハウスの「サテュロス型擬態」仮説については本書では扱われていない.なお全く実証のない仮説ということもあるのだろう.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20150814

なぜ蝶は美しいのか

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受け手の知覚モードについてはこの本が詳しい.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20150113

視覚の認知生態学―生物たちが見る世界 (種生物学研究)

視覚の認知生態学―生物たちが見る世界 (種生物学研究)


この本ではエリマキシギのオスの3タイプについての本書とは異なる説明がなされている.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20120819

The Nesting Season

The Nesting Season

*1:寄生タイプのチョウはよりスペシャライズしており,より絶滅しやすいようだ.

*2:外来種のミツバチが特に脆弱だそうだ,在来種のハチはこのクモのシグナルに対して耐性をある程度獲得している

*3:なおクモによっては別の機能を持つようになっているものもあるようだ.

*4:少なくとも独立に2回進化している

*5:これ自身クモにとっては捕食リスクが増すというコストがあり,トレードオフの一例になっている

*6:この実証リサーチも詳しく紹介されている.どうやら訪花昆虫にとって花と似たような刺激になるらしい

*7:とはいえ,モデルは複数種であることもあるようだ.こうなるとやはり擬態と感覚バイアスを峻別する意味はあまりないような気がする

*8:潜水艦に進行方向を悟られない効果が期待された.そのような効果が本当にあるのかどうかについてはよくわかっていないようだ.

*9:スティーヴンズはこれは擬態と感覚バイアスの利用のどちらかだとは決めきれないと認めている

*10:最後には日本の研究者によるハスモンヨトウの興味深いリサーチが紹介されている.このガのオスはコウモリのクリック音に似た音を立てることによってよりメスと交尾できるのだが,それは実はメスの選り好みによるものではなく,メスのコウモリに対するフリーズ反応を利用して交尾に持ち込む騙しシグナルだったというものだ.またモモノゴマダラノメイガのオスはやはりコウモリのクリック音に似た音を出してライバルのオスを追い払うのだそうだ.

*11:ここではナワバリオスのほかスニーカーとサテライトがいて,サテライトは素早さで交尾する戦略,スニーカーがメス擬態を行うものだと整理している.このエリマキシギのオス戦略には遺伝性があって条件付き戦略ではなく頻度依存多型の可能性がある.なおエリマキシギのオスのスニーカーには別の説明仮説もあるようだ.