Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles
- 作者: Steven Pinker
- 出版社/メーカー: Oxford University Press
- 発売日: 2013/09/27
- メディア: Kindle版
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Rules and Connections in Human Language (with Alan Prince) 1988 Trends in Neurosciences 1(5):195-202.
エッセイ
第3論文は再び言語獲得に関してのものになる.冒頭のエッセイは短く背景説明のみだ.
当時言語獲得については,スキナーの流れをくむ連合学習のみで可能とする考えと,論理的なシンボル操作規則を重視する考えが対立していた.そしてピンカーは言語学者のアラン・プリンスと共著で後者の立場に立って“On Language and Connectionism: Analysis of a Parallel Distributed Processing Model of Language Acquisition.”という大論文を書き上げる.これはピンカーの論文で2番目に引用の多い論文だそうだ.
ただこの論文を本書に掲載すると本書の1/3になるほどの量になるということもあり,その直後に「Trends in Neurosciences」誌の編集者から神経科学者向けに簡略版を書いて欲しいと頼まれて掲載した本論文を収録したということだ.
ピンカーの整理によると上記2つの流れは以下のようになる.
- 連合学習派:20世紀初めから,スキナー流行動科学の刺激反応モデル,ニューラルネットワークモデル,「パーセプトロン」のシミュレーションモデルなどの流れがある.1980年代当時は「コネクショニズム」「並列プロセッシング」などの怪しげな用語とともにニューラルネットワークが再び脚光を浴びていた.これらはニューロンとシナプスの単純化モデルを使ってニューロンと認知の間を計算要素で埋めようとしていた.2010年代の現在でもこれらの考え方は統計学習モデル,アーティフィシャルニューラルネットワーク,次世代マシンインテリジェンスなどの概念に受け継がれている.そして最新の応用はGoogle翻訳や電話音声認識技術につながっている.
- 論理規則派:行動科学の影に隠れてしまっていたが,1950年代以降の認知科学の勃興とともに息を吹き返した.これらの考えに興味を持った学者には人工知能の草分けであるマーヴィン・ミンスキー,情報理論を心理学に取り込んだジョージ・ミラー,そしてチョムスキーがいる.
ピンカーは論文を書いた背景をこう回想している.
ヴォイスメールやGoogle翻訳の単語サラダの罠にはまったことがある人ならわかるように,シンボル操作論理の助けを借りない単なる連合学習だけのシステムには限界があるのだ.これらの限界がこの論文のトピックになる
確かにピンカーは「心の仕組み」において,連合学習のみによるニューラルネットワークモデルではヒトの認知が説明できないことをかなり詳しく説明している.この論文はそのうち特に文法獲得における問題を扱っているということになるのだろう.
関連書籍
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