日本進化学会2017 参加日誌 その5


大会第3日 8月26日 その1


大会第3日の日程は午前中はポスター発表のみで,午後に一般向けの講演があり,その後総会,学会賞授賞式,受賞講演という段取りだ.この学会にしては総会が最後に来るのは珍しいが,結局3日間に詰め込んだ結果こうなったのだろう.
いずれにせよ出入り自由のポスター発表からなので朝早くから出張る必要はなく.ホテルをゆっくり出て,ブランチなどいただいてから百万遍に.


これはホテルそばの町家のたたずまいを残したカフェのランチメニュー(とはいってもいただいたのは朝10時頃だが)の京夏野菜カレー.昨晩とは全く異なる上品なだし味の利いた和風カレーだった.


百万遍から会場に向かう途中にある京大総合博物館を訪問.ここは京大のフィールドリサーチの歴史の展示がメインで,熱帯雨林の雰囲気を再現した展示はかなりの迫力だ.

特別展示は「標本から見る京都大学動物学の始まり」で,美しい標本が所狭しと展示されていた.





じっくり博物館を堪能した後でポスター会場へ

ポスター発表

面白かったのをいくつか紹介しよう.


ポスター5 雑種発生種Squalius alburnoidesは有害変異の蓄積を有性ホスト由来のアリルを利用して補償する 三品達平

欧州産のコイ科魚類の一種であるSqualius alburnoidesは無性生殖の一つである雑種発生を行う.この種自体はそもそもSqualius pyrenaicusAnaecypris属の種との交雑起源とされている.そして雑種発生時にはAnaecypris起源のAゲノムのみを含む卵AAにSqualius pyrenaicusのオスの精子(P)を受精させ,AAPとして発生する.そしてその後Pをゲノムから排除させてAAとして成長する.まずこのPゲノムの排除が完全かどうかをRNAseqデータで確認した.するとPはわずか0.1%しか検出されず,それもよく見るとミスアセンブルのようだった.進化時間を経てこの結果のなで排除は完全だと考えられる.
しかし実際にこのPに含まれるアレルが使われているかどうかを調べると,発現が確認された.どうもSqualius alburnoidesは無性生殖に伴う有害遺伝子の蓄積の問題を最終的には排除する父親ゲノムの一部を利用することにより補償しているようだ.


ポスター28 世界のダイコンの栽培化の起源の推定 白井一正

ダイコンは世界中で栽培されているが,その起源にはアジア起源とヨーロッパ起源の2つの系統があるのではないかといわれていた.そこで世界の栽培品種と野生品種のゲノムを解読し系統解析を行った.その結果,栽培ダイコンはアジア起源とヨーロッパ起源に大きく分かれた.さらに日本のダイコンはアジア系統に近いが独自の起源を持つことがわかった.おそらく独立に栽培化されたものと思われる.


ポスター45 絵描き虫の天敵回避戦略:潜葉パターンの変化は寄生蜂からの回避に有効か? 青山悠

ホソガの仲間には幼虫時代に葉に模様を書くようにして葉の中を喰い進むものがいる.これが天敵回避に有効かを調べた.
観察すると最初は線状に模様を付け,次に平面状に付け,最後により深く潜ってテントのような深い潜り跡を付ける.天敵からの攻撃防御効果はテントがもっとも高く,次が線状,一番脆弱なのが平面状だった.これは深く潜ればより逃れられるのだが若齢幼虫ではそれが難しいことによるものだと思われる.今後は線形の迷路のような模様が有効かどうかを調べたいというもの.


眼の付け所が楽しい.なぜひたすら線状でがんばらずに平面状に移行するのかは謎だが,スペース的にしょうがなくなるということかもしれない.


ポスター81 更新世の気候変動によるアオダイショウへの影響:日本列島北部と南西部で異なる分布域変動パターン 森山純

アオダイショウは生態的なニッチの幅が広いが,温度帯には厳しいという特徴がある.このヘビは氷河期以降分布域を広げたといわれているが,温度の変化は日本の北部と南西部では異なるはずなので系統地理的に調べてみたもの.すると北部では確かにボトルネックがあったことがわかった.なお北海道でも絶滅せずに少数集団が残存できたようだ.南西部では北部のような強いボトルネックはなかったが,それでも氷河期以降拡大したようだ.なお本州と四国での分化はみられなかった.氷河期には陸続きであったことによるものだと考えられる.