産研アカデミックフォーラム「 文化を科学する:進化論で社会を理解する」 その2

 
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文化進化のフォーラム.続いては考古遺物から見えるもの.

考古学における文化進化:過去の文化ダイナミクスの復元をめざして 田村公平

 

  • 問題意識としては多様性を簡単な原理で説明できるかというところに持っている.これはまさにダーウィンのそれであり,私も関わった「文化進化の考古学」の井原先生のコメントでもある.

 

文化進化の考古学

文化進化の考古学

 

  • 現在取り組んでいるのは考古学のデータを使った文化進化のリサーチになる.
  • 考古学のデータにはいくつか分析における利点がある.ヒトの先史時代の歴史の手がかりになること,データ量が大きいこと,(DNA情報と異なり)時間情報が付随していることだ.
  • データから推測できることの例としては,巨大モニュメントと政治権力の存在,小型化と移動生活,(重い)土器と定住生活,形の違いから文化の地域差の存在などがある.
  • 井原先生の話では大進化と小進化の違いが強調されていたが,考古学データでこの区別は難しい.考古物の遺跡単位で出てくるためにそれ以上の解像度を上げられないからだ.
  • 課題もある.まず正解がわからないことだ.これは最も尤もらしい仮説を更新していくという進め方につながる.その際には仮定や基準の明示が重要になる.もう1つの問題は必ずしも整理されていないデータ量が膨大にあるということだ.現在日本全体では年に1万件の発掘物があるといわれている.報告書は紙ベースであることが多いので,スキャンして電子化し,数理アプローチ情報科学的アプローチで取り組むことが必要になる.

 

  • 数理化の1つに「形」の定量化がある.これは幾何学的形態測定学の応用ということになる.(古墳時代の青銅製の鏃や前方後円墳の分析の例が示される.基本は多元的データを主成分分析して扱いやすくするもの)
  • 今日は弥生土器の形を楕円フーリエ解析した例を紹介したい.(楕円フーリエ解析の説明,このデータを主成分分析にかけると,朝鮮から渡ってきて北九州→山口に伝わっていったことが推測できることを具体的に説明)

 

  • 文化進化のリサーチにおいては文化伝達プロセスの推定という問題もある.これは伝達をモデル化し,データに基づいてパラメータ推定という形で行う.(土器の形を使ったモデルの具体的説明がある.)
  • 社会の変化のモデリングとしては農業と階層化をモデル化した例,人口動態と戦争の関連を分析した例がある.

 
田村の話は「文化進化の考古学」でも紹介されている.また同じテーマの講演はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20170818/1503054099参照
 
最後の演者は進化ゲームで制度の進化を研究する中丸麻由子.
 
 

制度や慣習を進化ゲーム理論で解析する 中丸麻由子

 

  • 私は文化進化を直接研究しているというより,制度・慣習を進化ゲーム理論で解析するということを主にやっている.そういう視点で佐々木さんのミクロネシアのプロジェクトに参加させてもらっていろいろと刺激を受けている.
  • 文化・制度についてはいろいろな定義がある.比較制度分析の青木さんは制度について「一定の決まり」という定義を用いて,制度を説明するのに文化要因には頼らないというスタンスを堅持された.
  • メスーディは文化について伝達機構を介して他者から習得する情報という定義を用いている.この文化の定義だと制度を含むように思われる.

 

  • 文化の進化を考えるときには,進化のアルゴリズム,自然淘汰のアナロジーを使うことができる.適応度のところには魅力や生産性,遺伝のところに学習や模倣を当てはめることになる.
  • ここで模倣や学習は個人の意思決定で,信念や知識として伝達される.これに対して制度は集団として適用されなければならない.1人だけのルールでは制度と言えないのだ.
  • では制度はどのように定着し,維持されるのか.1つの方法はトップダウンでリーダーが決まりを押しつけるもの.もう1つの方法はボトムアップで合意による決まりになる.決まりは罰で強化されることが知られている.
  • 伝播については魅力による模倣や移住して定着などを考えることになる.このような形のリサーチの例には政治的複雑性の進化についての文化系統樹的解析がある.
  • 文化系統樹解析により時間的地理的な広がりはわかるが,なぜどのようにして定着維持されるのかはわからない.この部分はゲーム理論で解析ができる.

 

  • 協力を考える.ここでは協力は「コストをかけて他人を助けること」とする.これがなぜみられるのか.ヒトの社会にこれほど多くの協力があるのはなぜかというのは学術的な研究分野になっている,これを説明する進化理論的な説明は血縁淘汰,グループ淘汰,直接互恵性,間接互恵性,社会ネットワーク(空間構造),罰などいろいろとある.
  • さらに自然淘汰をアナロジーとして社会学習として解釈する方法もある.協力の状況には基本的にプレーヤー同士の相互作用があるのでゲーム理論的解析が向いている.そして進化ゲームを利得の高いプレーヤー戦略を模倣するという形で応用することになる.今回はここの部分の話をしたい.
  • 協力をゲームで解析するときによく使われるのは2者間だと囚人ジレンマゲーム,3者以上だと公共財ゲームになる.
  • 3者以上の場合一般的には集団が小さいほど協力が進化しやすいことが知られている.3者以上の場合には協力の態様も複雑になる.よくある分類はall for all(典型的公共財ゲーム), all for one(香典,頼母子講,相互扶助ゲーム), one for all(ボランティア), one for one(囚人ジレンマゲーム)の4つに分けるものだ.
  • ここではこのうちall for oneを考える.これはサクデンが1986年に分析している.19世紀後半から20世紀にかけて英国では共済組合や健康組合が数多く設立された.毎週会費を集め,災害や病気になったメンバーに払い出す,
  • これを念頭に相互扶助ゲームをデザインする.それぞれが会費を出すかどうかを決め,メンバーのうち誰かがランダムに選ばれて会費を受け取る.
  • サグデンはこのゲームにさらに評判の要素を付加した.評判形成ルールがあり,会費納付をメンバーの評判に合わせてどう決めるかという戦略が競う.

 

  • one for oneについてはルールの解析が深くなされていて,進化可能な評判ルールには8種類しかないことが明らかになっている.これはリーディングエイトと呼ばれる.これをふまえて,all for oneの相互扶助ゲームに評判を導入する.1000人の集団から5人をランダムに選んで,そこで評判付きの相互扶助ゲームを行う.繰り返して淘汰と突然変異の要素を入れ込む.
  • 結果,リーディングエイトの評判ルールの元では評判を見て条件付きで協力する戦略が進化可能になった.またグループが大きいとより協力が進化しやすいこともわかった.
  • この中で協力が成立している集団に非協力が侵入可能かを調べる.やってみて解析可能なのはリーディングエイトの中で4つだけだった.それを分析すると一部の評判ルールでは侵入可能で一部ではそうではなかった.これはallD戦略が時にグッドの評判を得るような条件であるかどうか(そういう場合にallDが2人になると侵入されてしまう)決め手になることがわかった.

 

  • 協力の中で興味深いものに線形的分業がある.これは立場の異なる2者以上の間に分業が成立するもので.例えばリーダーと部下,階層社会などで見られる.
  • この線形的分業について,「産業廃棄物の処理過程」をモデル化して分業協力の成立条件を調べた.
  • 産業廃棄物の処理は排出業者,一次受託業者,中間処理業者,二次受託業者,最終処理業者というように複数の段階を踏んでおり,この中で誰かが裏切って不法投棄や違法処理を行うと環境が汚染されてしまう.そうならないためには全員の協力が重要になる.どのような制度デザインにすると裏切りが生じにくいかを行政の立場から分析してみた.
  • 制度デザインには当事者責任制度(違法投棄した業者のみ罰せられる)と排出事業者責任制度(排出業者にも責任を問う制度)がある.当事者責任制度は,不法投棄の証拠を挙げて業者を特定する必要があり,実施が非常に困難だとされている.
  • これを3段階の事業者システムでモデル化した.(具体的なモデルの説明がある)結果は,排出事業者責任制度の方がワークしやすいとなった.実際に現在の行政の仕組みは排出事業者責任を取り入れていて,排出業者から書類が流れて最終処理業者が処理をしてその書類が戻ってくる仕組みになっている.

 
前半は協力進化の抽象的な条件の話.きちんと調べるとall for oneでもリーディングエイトが重要だというのは,なるほどという感じだ.裏切り戦略がグッドになっては制度全体が崩壊するというのはなかなか含蓄が深いように感じられる.
後半の産業廃棄物の話は,モデル化の勘所がもう1つよくわからなかった.見つからなかったらやり得という条件では見つかる確率が低いと協力が進化しないのは当然で,上流業者からのプレッシャーがかかった方が協力が進化しやすいというのはわかるのだが,書類が流れることにより発覚可能性が上がるのか,それ以外のプレッシャーが効いているのかのところがよくわからなかった.いずれにせよ連帯責任の方が協力が進化しやすいというのは納得だ.