From Darwin to Derrida その168

 

第13章 意味の起源について その6

 
ヘイグはRNA配列の組み合わせの数(その膨大さ)をデネットを引用しつつ指摘し,しかし自然淘汰は短い機能的配列を発見して累積していくことによりその中から有用なものを選び出していくことを説明した.ここから可能な配列と選び出された配列についての考察になる.

 

潜在性と現実性 その1

 

  • 1000ヌクレオチドRNAの可能配列数は超天文学数的に大きい.そのようなそれぞれの配列1つ1つに対して超天文学数の可能三次元配座が存在する.

 
配列は1次元だが分子の立体的な位置関係(配座)は3次元であり,その1種類の配列に対して個別の結合の回転や立体反転により変換可能な配置がやはり組み合わせの数つまり超天文学数だけあるということになる.
  

  • 1つのRNAの完全なエネルギー地形は,永続的な時間の中でのそのリニアな配列の全ての潜在的配座を網羅するものになる.1つのRNAは,無限の時間の中で,エネルギーバリアの高さにより決められる配座転移頻度とともにそのエネルギー地形の全ての地点を占めうる.しかしその1つ1つの極小の時間の中で,そのRNAは何らかの実現される配座をとる.
  • 生命は永続的な時間を生きるわけではなく,極小の時間においては何も生じない.永続と極小の間では,そのタイムスケールに依存した潜在と現実の違いが生じる.

 
あるRNA配列はこの超天文学数の可能配座のどの状態にでもなることができるが,実際にはその極く一部が実現される.そしてどの程度まで実現されるかはタイムスケールに依存するということになる.
 

  • RNAは,(とりうる)状態の一時的な組み合わせ(temporal ensembles of states)だと考えることができる.しかし普通の長さのRNAの全ての可能な配座空間は,そのRNAが宇宙開闢以来に実際にとることのできる全ての状態を合わせたより大きい(レヴィンタールのパラドクス)

 
潜在配座数は超天文学数的に多いので,そういうことになる.レヴィンタールのパラドクスがパラドクスとされるのは,それほど配座の潜在数が多いのにほとんどのRNAやタンパク質が自発的に短い時間で折り畳まれることを指している.ここで参照されている論文は以下の通り
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

  • ある程度の長さ以上のどんなRNAもその全ての潜在性を実現できるほど存続できない.しかし実際のRNAは実際的な時間内に動的に達成可能な配置に折り畳まれる.折り畳みは階層的に進む.ローカルで二次的な構造から折り畳みが始まり,次にそれらの折り畳まれた要素がゆっくり相互作用するのだ.

 
この部分の参照論文.
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

  • 機能的RNAのエネルギー地形は,高エネルギー状態から低エネルギー状態への複数のパスのファネル的な折り畳みという形態をとる.これらの進化した自己指令組み立てを行わせるメカニズムがレヴィンタールのパラドックスを解決するのだ.

 
というわけで,RNA配列の選択だけでなく,その選択されたRNAの立体配座の決定も自然淘汰によるものだいうことになる.ここでの参照論文は以下の通り.
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov