From Darwin to Derrida その185

 
ヘイグは第14章において自由について語る.遺伝や経験が私たちを外部からコントロールしているのか(拘束しているのか)という問題を扱い,遥か過去の環境要因が私たちの遺伝的テキストに影響を与えており,それは(発生発達を通じて)私たちを形作る形相因であり,ヒトの本性についての目的因でもあることになる.そしてその形相因は短期的環境の解釈者を造り出す形相因となっており,なぜ解釈者を造り出すのは目的因から説明可能だと説いた.ここからユニバーサルではなく個体差が議論される.
  

第14章 自由の過去と将来について その7

 

  • 私たちの個人的本質にかかる発達における違いを作るものというのはなんだろうか.その一部はヒトの本性にかかるタイムスケールより新しく生じた遺伝的差異であり,また別の一部はその遺伝的差異のタイムスケールよりさらに新しく生じた環境的差異だ.

 
個体差が生じるタイムスケールはユニバーサルのそれより短期的なものになる.それは個体差が遺伝的に生じる場合もそうだし,環境的な場合はさらに超短期になる.
 

  • 私たちはしばしば自分の子ども時代を,まだ十分に発達していなかったという理由で,それは「過去に起こったこと」で「自分のコントロールできなかったこと」と考えてしまう.
  • 発達における遺伝子の因果役割についての大半の論争は,当事者たちが因果の概念やタイムスケールについて食い違っていることに起因している.あるものは因果をメカニズムとして考え,他のものは違いを作るものと考えている.あるものはヒトの本性に関心があり,ユニバーサルを作る発達の原因を考えているが,別のものは個人差に興味があり,発達的差異が生じる原因を考えている.

 
この部分はいわゆる氏か育ちか論争についてのコメントということになるだろう.長期的なタイムスケールでヒトのユニバーサルを考えているなら遺伝子の役割が大きく感じられ,個人差を作るものを考えるなら環境要因が強く感じられるということになる.しかし論争の大半がこのタイムスケールによって生じているというのは言い過ぎだろう.それ以外のイデオロギーをふくめた数多くの要因が背景にあるのではないだろうか.