From Darwin to Derrida その184

 
ヘイグは第14章において自由について語る.査問を受けたルターの話を引いた後,自由についての議論の本筋が始まる.そしてまず遺伝と個人的経験が私たちの形相因(私たちが何からできているか)であり,私たちの意思と行動の作用因でもあると整理した.そこから遺伝や経験が私たちを外部からコントロールしているのか(拘束しているのか)という議論に進み,それを考察するにはタイムスケールが重要だと指摘した.
 

第14章 自由の過去と将来について その6

 

  • その間に生じた遺伝的変化が私たちの種に共有されているような,生命の起源にまで迫る長期間を考えて見よう.これは環境からの情報が私たちの遺伝子に組み込まれたタイムスケールということになる.生命の起源に近いところで生じた変化はほとんどの生物に共有されている.私たちはより新しい変化をナメクジと共有し,さらに新しい変化をチンパンジーと共有している.私たちヒトの間にある違いを生むような変化がない状況を得るためにそれほど遡る必要はない.なぜなら私たちは同じ環境を経験した共通祖先を共有しているからだ.その祖先から不変なままであるものは,私たちがヒトであるための基盤であり,私たちのコントロールの枠外にある.それはヒトであることの形相因であり,私たちが同じであることの原因だ.ヒトの本性の淘汰的保持に効いている環境要因は私たちがヒトであることの目的因だ.

 
ヘイグによると進化的に経験してきた遥か過去からの環境要因は私たちを今あるように形作っている形相因であり,同時に私たちがヒトであること(ヒトとしての本性を持つこと)の目的因だということになる.
 

  • 私たちの(情報遺伝子にかかる)遺伝的形相因は過去の自然淘汰の保存されたテキストであり,個人的発達過程における(物質的遺伝子にかかる)遺伝要因として具現化したものだ.これら物質的遺伝子はリアルタイム解釈者,つまり(不確実な世界の中で生き残るために争っている)私たち自身の構築に特化している.

 

  • 私たちの物質的遺伝子は私たちの自己構築の作用因の一部だが,それは環境要因という私たちの発達にかかる補助的な作用因とともに働く.出会う環境要因を詳細に予測することはできないので,各解釈者は意思決定における柔軟性を必要とする.それは何がうまくいって何がうまくいかなかったかという最近の経験によって修正できるようなものでなければならない.私たちはヒトという解釈者なので,私たちは他者から学び,私たちの構造や行動を,文化的に得られた情報(その大半は言語により伝えられる)により変化させるように作られているのだ.

 

そしてより具体的には物質遺伝子は,短期的環境の解釈者を造り出す形相因ということになる.なぜそうなっているのかは過去の環境において意思決定の柔軟性を持つ方が有利だったからという目的因から説明できる.言い回しは難しいが,内容は分かりやすい.