読書中 「Narrow Roads of Geneland Vol.3」第3論文

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)

第3論文は抗生物質による単為生殖寄生バチの有性への転換について
これは1990年の論文でヴォルヴァキアによるいろいろな現象はまだ発見されていなかったときのもの.
論文に先立つエッセーはRichard Stouthamerによるもの.この人は応用昆虫学者のようで,害虫駆除の天敵利用の観点から寄生バチを単為生殖で増やせれば効率的と思い立つ.そうして単為生殖のメカニズムを研究するうちにこれが染色体遺伝によるものではないことに気づく.ハミルトンの異常性比の有名な論文からこれが細胞質由来の寄生体の影響である可能性に注目し抗生物質で処理することを考え,実際に抗生物質を与えると有性に戻ることを発見する.しかし論文は受理されず,傷心のうちに学会発表したところ偶然居合わせたハミルトンに励まされ,いろいろ助けてもらってついに受理されるという顛末が語られる.この経緯の中でハミルトンは共著者になることを受諾するわけである.


論文自体は簡単なもので戻し交配により単為生殖がゲノム由来の遺伝的な形質でないことを示し,抗生物質処理で恒久的に有性に戻ることからこれが細胞質にある何らかの寄生体の影響であるとする.
対立仮説として,有性無性の転換戦略のキーになっている可能性と,抗生物質によりゲノムがきづついた可能性を取り上げ,それぞれ,恒久的に有性に戻ること,有性に戻った系統は全く健全であることから否定する.


議論としては半倍数体と局地的配偶競争による性比のゆがみが関係している可能性と30度による高温で一時有性に戻る系統が見られることから,これが季節的な有性無性切り替え戦略の進化と関係があることを示唆する.


ハミルトンの論文ではなく,世に出るお手伝いをしたというもので,知的にはちょっと物足りない.ハミルトンの性比理論の発展のエピソードとしては小粒で光っている感じを受けました.