Madame bovary’s Ovaries

Madame Bovary's Ovaries: A Darwinian Look at Literature

Madame Bovary's Ovaries: A Darwinian Look at Literature

行動生態学者で進化心理学者のBarashが娘と共著した本.文学をダーウィニアン的に眺めてみようという趣旨のやや軽いタッチの本である.娘の大学の研究から始まって相談に乗っているうちに父親の進化心理学の蘊蓄が吹き出して,最終的に本書になったらしい.


人間は進化適応であるいろいろな心理特性を持っている.それが文学の上でどのように消化されているのか,なぜある特定の状況の物語は人の胸を打つのかについて豊富な英米文学・映画の実例を挙げて解説してくれる.男女間の情愛,嫉妬から血縁関係,親子の葛藤に友情物語が主題になり,ホメロスアイスキュロスシェークスピアに始まりショーサー,ジェーン・オースチン,フォルクナー.ディッケンズ,マーク・トウェインスタインベックジョイスサリンジャー,さらにドストエフスキートルストイからツルゲーネフ紫式部に映画ゴッドファーザーまで,まことに様々な題材が取り上げられる.当然ながら英米のものが多く,英米文学に詳しくない自分にはちょっときついところもあったが,ネットであらすじ検索かけまくって何とかついて行くことができた.


人に感動を与える物語は当然ながら人の心理的な葛藤がリアルに描かれており,作家の人間を見る目の才能を現すとともに,そこには進化心理的な題材が豊富に含まれている.文学の良さを再確認できると同時に人生の葛藤の本質にも思いを巡らせることができる.
文学好きの人からはよけいなお世話ということかもしれないが,背景の本質的な洞察があるほうがより楽しめると思う.特に英文学に詳しい人にはお勧めである.もっとも読んでいるうちはなかなかそこまで考えないことも多いだろうが...
なお主題にもなっているボヴァリー夫人については余りよく書けていないと例外的に辛口批評なのがちょっと面白い.