読書中 「Narrow Roads of Geneland Vol.3」第10章

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)


第10章はハミルトンの赤の女王仮説とその実証について
まず論文共著者のDirter Ebertによるエッセー How to Catch the Red Queen?
彼がポスドクでハミルトンの元を訪れミジンコとその病原体で赤の女王説を実証すべく奮闘した経緯などが語られる.割と短いもの.
筆者が,なかなかミジンコのパラサイトを見つけられない中,ついにミジンコのメスでは隠れていて,オスにのみ発現する特異的なパラサイトを発見したようだ(そうするとこれは卵細胞質由来感染でミジンコの性比歪曲に働く興味深いものとなる)とハミルトンに顕微鏡を見せると,彼は非常に礼儀正しく「自分にはこれはパラサイトだとははっきり思えない」という言い方でこれが実は精子であることを見抜いていたというくだりとかが面白い.ハミルトンといろいろ議論をするとハミルトンが自明だと思えることは実は筆者のような通常の実験屋には全く自明ではないということが明らかになるというのもなかなか彼の特徴がでていると思う.



第11論文 Sex against Virulence: the Coevolution of Parasitic Diseases (Trends in Ecology and Evolution,
1996)
病原体の「毒性」について,それがホストとの共進化の影響を受けて決まるという仮説とそれの検証方法を提示した問題提示型の論文
病原体の「毒性」についてはこれまでの考え方では病原体側の利益とコストのトレードオフでのみ決まるとするものが多かった.しかしこれはホストとの共進化により影響を受けると考えるべきである.
というのはホストの遺伝的多様性が耐病原体防御のためのものであるとするなら,あるゲノタイプに「毒性」が適応した病原体が別のゲノタイプのホストに移った場合には「毒性」が減少すると考える十分な根拠があるとする.確かに新しいホストに移り「毒性」が増したようなケース(オーストラリアのウサギのミクソーマ,ニレノキ病,栗の桐ガレ病,HIV)もあるが,むしろそれは例外と考えるべきだ.おそらくほとんどの新規ホストへの感染は症状が軽いために見逃されているのだろうし,コントロールされた実験では遺伝的に新規なホストへの感染は平均して「毒性」を減少させる.
テストとしてホストあるいは病原体について遺伝的多様性を実験的にコントロールしてそうでないケースと比べることを提案している.


筆者自体はミジンコの研究者で,ネットで調べるとその後ここで提案されているような実証的研究を進めているようである.この章自体はテスト提案にすぎずあまりおもしろみはなかった.