読書中 「Narrow Roads of Geneland Vol.3」第16章 その2

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)


Evolution and Diversity in Amazonian Floodplain Communities

第13論文はアマゾンの氾濫原野における生態と進化についての序説のような論文
まず調査地であるアマゾン上流の氾濫原野の様子が詳しく紹介される.大河が緩やかに流れ,不定期に洪水が起こる.そして永続的な地形,そして生物にとっての永続的なニッチは存在しない.そしてこの流転する状況が,空間的にもさらに時間的にもフラクタルな構造を造っている.土地は富栄養な部分と貧栄養な部分があり,それが流転する.川の流れもフラクタルであり,洪水水位や乾燥時の最低水位も一定ではない.

このフラクタルな構造というのはちょっと面白い.ミクロ的な状況も詳しく解説されており,透明度・温度・水中酸素量と水深の関係も場所により様々である.

生態は熱帯雨林とは少し様子が異なる.氾濫原自体にはそれほど大きな多様性はない.固有種は少なく,構造が単純で機会主義的な種が多い.

例として魚と植物が詳しく取り上げられる.魚は氾濫源のみで生きる種は多くなく,河川域や森林の渓流と共通種が多い.

進化についてはとりあえずは現状の種の分布から推測されることが述べられている.ここはなかなか面白く,ダーウィンの「種の起源」のように今後の研究を待っている事例の宝庫のような感じがする.
氾濫源は多くにニッチが含まれるが,それが一定ではなく流転するため,より多くのニッチが利用でき,また厳しい環境では早い繁殖が可能になる生物が多い.具体的には構造が単純で機会主義的で,行動や構造が柔軟な生物が多型的に存在している.この氾濫原自体では種分化は起こりにくいが,周辺部ではこのような柔軟な種がその場所特有のニッチに適応して種分化を遂げやすい,またそこからまた氾濫源に戻ってくるようなことが起こりやすいと思われる.特に最初の脊椎動物の上陸や,種子植物の進化にとって示唆が大きいとする.

結構大部な共著論文で,中身はかなり詳しい生物の説明が多い.ナチュラリスト的には楽しいが,論理の筋道はそれほど多くなくやや平板.ただ序論的な論文としては妥当なところだろうか.今後あり得べき展開を考えるとやはり突然の急逝が惜しまれる.