読書中 「Narrow Roads of Geneland Vol.3」第17章

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)


第17章は紅葉の進化的な意味について
エッセーは共著者のブラウン博士のもの
A View from Mars
by Sam P. Brown

火星からの眺めというのはハミルトンがこの紅葉の論文の草稿に最初に使った言葉であり,火星からきた生物学者は温帯における秋の紅葉を見たならばそれが何らかの重要性を持つと考えるに違いないという文脈で使われている.そしてこの火星から見たらどうだろうかというように,物事を基本の基本までさかのぼって考えるのがハミルトンの基本姿勢であり,あのような独創的な仮説を数々生み出せた秘訣だといっている.

エッセーはこの紅葉=ハンディキャップ仮説のそもそもについて描いている.ケンブリッジでそれまで生物学を馬鹿にしていた著者はドーキンスの利己的遺伝子を読んで目を開かれる.そして生物学の道を選び,オクスフォードでの博士課程で,飛び込みでハミルトンの部屋を訪れる.ハミルトンはしばらく会話したあと窓のそとを見て黙り込み,何か仮説があったのだけど忘れたので明日来てほしいという.翌日訪れると「ah, yes TREES! 」と叫びこの仮説が始まる.
最初のハミルトンの仮説は秋の紅葉はハンディキャップシグナルに違いない.仮説1;これは秋に産卵する昆虫(特にアリマキ)に向かってのシグナルで,私はこのように紅葉させることができるほど強いのだから,ここに産卵しても防御してしまうよ,どっかよそで産卵してはどうかといっている.仮説2;これは同種の植物に対してのもので,光や養分に対する競争の文脈で使われている.
でもどうやってこれをわずか半年でテストするのか.ハミルトンのアイデアは鳥の鮮やかな体色と同じで種間比較をやってみてはというもの.そしてまずいろいろな植物の紅葉の鮮やかさの比較表を作り(コリンズガイドの表現でスコアリングするというアイデアが面白い)そしてそれに対するアリマキの寄生の比較表を作り統計解析を行う.結果はポジティブであり,博士論文にまとめた後,フィレンツェの昆虫学会で発表する.しかし発表直前にハミルトンはこの警戒色と花や果実に見られる誘因色の進化的起源についての極めて内容豊かな発表を加えたいと言い出して15分の発表は昆虫学者には理解されないまま終わってしまう.
その後紆余曲折を経て( Natureのレフリーはこのアイデアが理解できなかったようだ)この論文はハミルトンの死後ようやくProceedings of the Royal Society誌に受理される.